昭和二十七年十月二十七日
新役員による取締役会において互選の結果、次の者が代表取締役に選任せられた。
取締役社長 滝田次郎氏
専務取締役 滝田福三氏
新役員誕生に及び会社理事会より同日次の歎願書が新役員に提出された。
歎願書
今般会社が事業半ばに於て債務支払不能等のため窮地におちいりたる処、幸い四ヵ町並に其の組合諸賢に於て之が救済策を講ぜられ、新役員の御尽力に依って更生の緒に着きました事は、私共一同の感謝する処であります。
御承知の如く理事会は定款第弐拾八条に基き、旧役員の委嘱に基き会社運営の諮問機関として会社発足以来其の任命を受け、其の諮問に答えて参ったものでありますが、不幸にして会社が発展途上において今回の不祥事を起した事は、理事一同においても其の責を痛感致して居る次第であります。
然しながら翻って旧役員と理事会との折衝は今日迄一回も開かれた事無く、過般請負人に対する手形不払の件を聞知して驚歎致したる次第なれば、理事会としても事 に至りては他に融資を求める術も無く、止むなく最も関係の深い四ヵ町並に其の組合に救済方を依頼するの他無かった次第であり、責任を痛感するものとは言いながら、事前において其の対策につき社長より諮問を受けたのではないので此の間の事情も諒とせられたいと存ずるのであります。
以下省略
昭和二十七年十月二十七日
新役員により会社引受条件を基本とした再建策が次の通り決定された。
一 新株発行の件
株式総数の内二〇、〇〇〇株は優先株、六〇、〇〇〇株は普通株とする。
優先株は年一割の利益配当を優先的に受ける。発行後満一ヵ年にて普通株とする。優先新株一〇、〇〇〇千円を発行、昭和二十七年十一月十日現在の株主に割当てる。
二 施行組合に対し二〇、〇〇〇千円を昭和二十七年十一月十五日までに会社に融資されるよう申し入れる。
三 工事請負人日米建設、中部建設と条件変更の交渉をする。
イ 工事費一割引の変更契約書を提出せしめること。
ロ 工事の完成期日を昭和二十八年三月三十日限りとし期日を確実に厳守するため毎月末日毎の工程表を提出せしめ、その月毎の工程はその月内に完成させる。
ハ 請負人の立替工事に関する契約書を提出せしめる。
ニ 請負金の内渡金は出来形の九割以内とし、立替金と総請負金額の割合による額を差引き支払うものとする。
ホ 日米建設に対し会社旧役員が三、七〇〇千円と評価したる在上使用分の価額を承認せしめること。
四 会社の決議事項は総て事前に施行組合管理者の承認を受けること。
この決定事項は直ちに実行に移されたのであるが、第一項優先新株発行については、旧役員をして退陣に追いやる致命傷ともなった事だけに新役員をしても仲々意の如くには進まず、申し込〆切日とされた十一月二十五日を目前とするも僅かに割当ての1/5が募集されたにすぎず、遂に余剰額八、〇〇〇千円は、常滑町五、五〇〇千円、西浦町一、〇〇〇千円、鬼崎町一、〇〇〇千円、大野町五〇〇千円の割合にて責任募集をすることになった。なお、中京財界にも働きかけることとなり、名古屋鉄道株式会社、中部日本放送株式会社、中部日本新聞社等とも交渉に入った。
このように関係者必死の勧誘にもかかわらず、その後の応募状況は意外に不振で、結局、残額は取締役において負担する結果となった。
昭和二十七年十一月二十五日
かねがね事態の成行を心配されていた全国モーターボート競走会連合会理事長滝山敏夫氏に対し、伊奈常滑町長より競走場の建設状況について次の通り報告がなされた。
競走場建設状況報告書
競走場設置工事については着手以来順調に進捗を見ておりますが、ご承知の如く本町競走場が理想的計画であって余りにもその構想が広大であります故に、当初予定せる竣工期限に完成を見ることが出来なかった事は遺憾至極に存じて居りますが、今日において計画の変更も出来難く、本来の計画に基き完全無欠の競走場建設に邁進致している次第であります。・・・中略
一 競走場の建設現在状況
イ 競走場の一部となる埋立工場は、南側護岸延長五七〇米の中現在四〇〇米が竣工し、裏側埋立土砂一二、五〇〇立方米もすでに埋築し競走場用地に充てられている。
ロ レース場浚渫工事及防波堤工事は目下進行中であるが海中作業であるため進捗意の如くならず、竣工は昭和二十八年三月が予定せられる。
ハ 陸上施設たる建築工事は現在の所、選手控室、艇庫各一棟及び正門、便所が夫々竣工している。
観覧席は全体の約半分が竣工を見ている。
舟券売場及本館は埋立地の出来ると同時に建築すべく、諸材料が蒐集されている程度である。
ニ 防波堤は南側常滑港寄りのもの一五〇米が竣工している。
ホ 尚港内浚渫工事は来月始着手せられるべく目下送電線の架設及び排土鉄管の据付をなしている。
ヘ 以上計画の施設工事は現在(十一月二十日現在)七〇%進捗している。
二 ボート及モーターの準備状況
ボート及モーターの準備については、本年六月津市と共同出資にて三〇隻を購入したが、出資歩合により当競走場分は一〇隻と見なされている。
更に先月以来ボート建設会社と交渉中であるが、当競走場専用として一五隻を新造艇にて購入すべく準備を進めている。
三 選手・審判員・検査員及整備員の確保計画。
(省略)
四 レース開催の予定期日
競走場の竣工が来春三月であるので四月の開始を予定している。
五 準備状況が予定より著しく遅延している理由並に今後の見とおし。
当競走場は工事着手当初九月よりレース開始を予定していたが、競走場の計画が理想に近い広大のものであるため工事の進行に以外の困難を来し、更に施設会社の役員更迭等があり思わざる工事の遅延を来したことと、施設会社新役員は時季的に見て来春三・四月のレース開始を適当としており、更に完全竣工の上レース開始を予定し居るをもって、施行者としては施設会社の意志を尊重して来春四月のレース開始を予定している。
昭和二十八年三月十八日
常滑モーターボート競走施行組合(常滑・西浦・鬼崎の三ヵ町)解散届を愛知県知事に提出、同日常滑・西浦・鬼崎・大野の四ヵ町による施行組合設立認可の申請を愛知県知事になす。
昭和二十八年三月二十六日
同上認可さる。
昭和二十八年四月一日
施行組合役員並に職員を次の通り決める。
組合管理者 常滑町長 伊奈長三郎氏
組合助役 西浦町長 久田慶三氏
同上 鬼崎町長 伊藤如実氏
同上 大野町長 平野昭三氏
専務助役、収入役各一名、組合議会議員一五名
参与三名、顧問一名
事業部
部長 滝田福三氏
課長 服部正次氏
職員 三十四名
昭和二十八年五月八日
社長滝田次郎氏と管理者常滑町長伊奈長三郎氏との間に競走場貸与契約成る。
第二条 組合は会社に対して競走場借用料として売上金の三・五%を競走終了後一週間以内に支払うものとする。
他省略
昭和二十八年五月十日
建設資金難、会社役員の更迭等により難航に難航を重ね一時は停止状態となった五月十日現在の土木・建築工事の出来高は次の通りであった。
土木工事 六五%
建築工事 一九%
このため施行組合が予定していた四月開催は、前回同様またまた延期せざるを得ないこととなり、すでに競走を開始した隣接の半田競艇とのこともあり、工事の進捗状況よりして遅くとも七月には第一回の競走を開催することとし工事請負業者に対する督励を更に強化し工事の推進を図ると共に、再三に及ぶ開催期日の延期は面子(めんつ)の上からしてももはや許されず、何を差し置いても完成させることとなった。
なお参考として、四月三十日現在における工事費概算は次の通りであった。
契約額 七七、九三六、六〇〇円
支払済額 二九、二三六、六〇〇円
未払額 四八、七〇〇、〇〇〇円
昭和二十八年五月十一日
競走場建設現場において四ヵ町合同町会議員会を開催、その席上、組合管理者常滑町長並に会社代表より現在までの経過について報告、続いて今後の事業方針について決定方を提案した結果各町毎に協議決定することとなった。
常滑町においては即刻この件について町議会全員協議会を開いて次の通り決議した。
決議
一 モーターボート競走施行は法の定むるところにより施行者たる四ヵ町の組合として行うものとする。
一 会社は競走場建設のみに専念すること。
但し、施行組合と会社は相互に援助し競走施行の万全を期するものとする。
一 施行組合事業部の運営委員に各町議会議員全員携わる。
一 施行組合運営資金一二、〇〇〇千円の借入は承認する。
昭和二十八年五月十二日
前日開催された常滑町議会全員協議会の決議事項に基き組合議会全員協議会を開いて次の通り決議した。
諸条令諸規程について
該当する諸条令諸規程は常滑町条令規程による。
事業運営について
昭和二十七年十月十日株式会社常滑モーターボート競走協会より引受条件二のロの条項(四ヵ町はモーターボート競走施行にあたり、当分の間施行事務を会社に嘱託すること)を取消し、モーターボート競走施行の事業運営を施行組合にて実施する。
昭和二十八年五月十九日
競走施行について常滑町議会全員協議会を開き次の事項決議さる。
一 施行組合に於て競艇全事業を行う。従って会社に対しては解散若しくは会社事業の中止を要請する。
右の要請を会社が受諾したる場合は、施行組合は会社に対し施行による収益により会社出資株金(優先株一割増)を返還する。
尚施行により好成績を得たる場合、組合の協議に基き適当なる謝礼を呈する。
二 常滑モーターボート競走施行にあたり要する資金を他の三ヵ町が定められたる比率額を出資し得ざる場合と雖も、その不能額は常滑町に於て出資をなす。
三 場合によっては一般事業の一部を繰り延べるとも競艇事業の完遂を決意する。
五月二十二日組合議会全員協議会を開催常滑町議会全員協議会にて決議された第一項について決議、この旨直ちに会社に申し入れをした。
種々の事情があったにせよ当然な姿に返ったのであるが今や競走事業の全責任をその双肩に担う身となった伊奈町長にしてみれば、この難局をいかにして切りぬけ、いかにして成功に導くことが出来るかとの想いが重くのしかかりその労苦の程が偲ばれるのである。
昭和二十八年五月二十四日
会社取締役会開催
施行組合管理者より会社解散の申し入れにより、会社の経理と工事進捗状況を説明、この申し入れを受諾すべきか否かを協議した結果次の通り全会一致で決議した。
一 当会社は常滑モーターボート競走施行組合より申し出られたる「特第二号議案」を受諾し当会社を解散する。
二 (省略)
三 清算人は会社資本金二〇、〇〇〇千円を組合に対する負担金と推定するよう組合に対し了解を求め、組合が当該金額の返還を完了するまで、事業の施行に依り収益を得たる場合負担金の割合に応じて利益の分配を受くること。
昭和二十八年六月十一日
臨時株主総会開催、会社解散を決議する。
会社より引継ぎした施行組合の建設事業については、その後四ヵ町より三回に亘り資金の融資を得、土木工事・建設工事とも竣工期日を六月三十日と三度契約変更し、更には期日までに完成したときには工事竣工賞金五〇〇千円を手交、また工事遅延の際は直接損金を請負業者に支払わせる旨の契約をする等の背水の陣を敷き、徹夜に次ぐ徹夜と連日、文字通りの突貫作業を行なったのであるが、結局は期日までに完成出来ず、初開催の前日七月九日払暁まで作業が続いたのである。
待望の第一回レースも目睫の間に迫り、この事業の成否は四ヵ町の浮沈に関する重大問題で、是が振興はとうてい少数の執行者、事業担当者のみにては能くなし得るものではなく、四ヵ町内の同憂同好の有力者を募り、その結集した熱意の応援により競走開始後の成績を挙げるべく、地元選出県会議員滝田次郎氏をはじめ四ヵ町の各町長が発起人となり、側面よりの応援団体として常滑競艇振興会を作ったのもこの頃のことであった。
レース場建設工事の状況(28・5・1)
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