日本財団 図書館


3. カントリー・プロファイル:EU新規加盟10カ国
 2004年5月にEUに新規加盟した10カ国の経済、海事産業と最近の動きの概要を以下に述べる。
 
3.1 キプロス
(キプロス海事産業)
 世界第7位の商船隊を持つキプロスは、多国籍企業の拠点となっており、船舶管理のハブである。近年、キプロスは繰り返し基準不適合の注意を受けた船舶を除籍、100隻以上の老朽化したタンカーを検査する等、EU加盟に向けた基準強化を行ってきた。また、海運業がキプロス経済の要であることを政治家と国民に認識させるためのメディア・キャンペーンをくりひろげた。キプロスに拠点を置く海運会社のマネジメントには、最近キプロス人が広く起用されている。50
 
 リマソールは、優良国際企業の多い船舶管理の中心都市である。キプロスのインフラと優遇税制は、船舶管理会社にとって有利な条件であったが、EU加盟による影響は少ないとされている。キプロスは今後、東地中海地域で、シンガポールやロッテルダム、ハンブルクのような役割を持つ海運クラスターを構築したいと考えているが、そのためにはシリア、エジプト、ドバイよりも優位に立つ必要がある。
 
 キプロス最大の造船所であるFamalift Shipyardは、ヨットとボートの建造、修繕、改造を行っている。その他の業務は、オイルリグの修理・改造、オフショア施設の設置・メンテナンス等で、EU内と中東にサービス拠点を持つ51。同造船所の浮きドックは160×28mで、キャパシティは7,500DWTである。
 
50 15 January 2005 www.fairplay.co.uk
 
3.2 リトアニア
(リトアニアの海事産業)
 リトアニアの海事産業は、以前のソ連漁船の建造及び修繕担当という限られた役割から、国際経済で通用する産業への移行に成功した。海事産業が同国GDPに占める割合は0.24%であるが、全雇用の3%、製造業雇用の16.3%を占める産業である。
 
 リトアニアの造船・造修協会に所属する企業は27社で、売上げ合計は1億780万ドルである。主要企業は、Baltija Shipbuilding Yard、Laivite Shiprepair Yard、Western Shiprepair Yardの3造船所である。その他の造修所は、国営Klaipeda Shiprepair YardとGarant Ship Repairing Companyで、全てKlaipedaに位置している。
 
 船舶修繕業務は60,000DWTまでの幅広い船種に対応可能であるが、現在のところ、改造業務は小型で複雑ではない貨物船が中心である。以前と同じく、主な修繕業務は漁船であるが、最近では北欧等のバルト海諸国の船舶も手がけるようになった。同セクターの活動は商船部門に限られており、艦艇部門の活動は皆無に近い。
 
【Baltija】
 Baltijaは、リトアニア最大の近代的製造企業のひとつで、バルト3国(リトアニア、エストニア、ラトビア)唯一の国際市場で活躍する造船所である。これは同造船所がバルト海で唯一のソ連向け漁船造船所であったという歴史に由来する。
 
 同造船所は1997年に民営化され、デンマークのオーデンセ造船所(Odense Steel Shipyard(AP Møller Group))が全株式の46.5%を取得した。残りはリトアニア政府が32%、従業員とその他投資家が21.5%を保有していたが、その後、オーデンセ造船所が所有株式を97%に増やした。同造船所はビリニュス証券取引所に上場している。
 
 現在では、新造船建造の他に、親会社であるオーデンセ造船所向けや、Aker Finnyardsを始めとする海外造船所向けに鋼製船体ユニットや上部構造を供給している。2004年に製造した鋼製建造物は、前年比11%増の35,580トンであった。同造船所は、今後数年間も製造量は順調に増えると予測している。
 
 Baltija造船所の1996〜1998年の年間売上げは1,800万ドルで、利益は40万〜120万ドルであった。2004年の税引き後利益は130万ドルに回復している。従業員数は1,400人である。
 
【Western Shiprepair Yard】
 1969年創立のWestern Shiprepair Yardは、1998年に国際入札により民営化され、株式の59%が、ノルウェー等の西欧の投資家に売却された。残りはリトアニア政府が35%、従業員とその他投資家が6%を保有した。2001年には、エストニアのコンツェルン BLRT Gruppが最大株主となり、19の企業グループであるVakar Laiv Gamykla(VLG)に属する企業として再編された。
 
 同造船所の業務内容は、造船、造修、鉄鋼、鋼製建造物製造・設置、スクラップ業務である。新体制下で同造船所はオフショア部門に進出し、ドイツ船主向けの洋上プラットフォーム「Odin」を920万ユーロで建造した。同造船所は欧州地域で顧客を増やしており、2004年には前年比184.31%増の5,800万ドルの売上げを記録した。1996〜1998年の利益は平均80万ドルであった。従業員数は1,400人である。
 
【Laivite Shiprepair Yard】
 Laivite Shiprepair Yardは1999年12月に民営化され、リトアニアの国家財産基金が38.8%、同造船所経営陣と従業員が37%、残りはリトアニアの企業と投資家が保有している。2000年半ばには、リトアニア政府が所有株式を売却し、Baltlanta漁業グループが最大株主の株式会社となった。
 
【Klaipeda Shiprepair Yard】
 Klaipeda Shiprepair Yardは、Klaipeda地方政府が70%、リトアニアのある鉄鋼工場が16%、残りの14%を従業員とその他投資家が所有する株式会社である。Klaipeda地方政府の株式売却のめどは立っていない。
 
 リトアニアの造船所の強みは、西欧の造船所と比較した場合の労働力の安さである。1999年当時の労働コストは、1時間当たり1.20ドルで、バルト諸国の中でも低い水準にあった。生産性の低さや総人件費の高さにより、競争力は幾分低下しているが、それでも競争力は高い。
 
 リトアニアの造船所は、現在全て本来の生産能力以下の労働力で稼動しており、生産性向上や労働力増強により、生産能力向上の可能性は高い。ある独立系の海事コンサルタントは、リトアニアの造船能力を3.5技術レベル(最高は5.0)としており、これは先進国の多くの造船所と同レベルである。特にBaltijaは、親会社オーデンセ造船所と同等の最新設備や工程を用いている。
 
 また、Western Yardも、BLRT Gruppによる買収以来、修繕設備近代化への投資を勧めており、技術レベルの向上が予想される。
 
 リトアニアの3大造船所には多くの下請け企業が存在し、その中でも重要な企業は、USB TermomontazasとRSB Novikontasである。USB Termomontazasは絶縁材提供業務の他に、内装工事と舶用家具の製造・修理を行っている。RSB Novikontasは、舶用GMDSS、無線通信、航海機器、衛星、魚群探知装置等の販売、設置、調整、修理を行っている。また、古野電気等、多くの国際的航海機器メーカーのディストリビューターも兼ねている。
 
 Klaipedaに拠点を持つUAB Baltic Engineering Centreは、1999年にデンマークのオーデンセ造船所が設立したデザイン、エンジニアリング企業である。現在の従業員数は45人で、専門エンジニアがAUTOCADやTribonソフトフェアを使用したデザインを行っている。
 
3.3 チェコ
(チェコの海事産業)
 社会主義から資本主義への移行に伴い、チェコの海事産業は生産高、雇用者数とも減少し、一時は雇用者数500人以下、生産高はGDPの0.1%以下にまで落ち込んだ。しかし、同国最大の造船所CSPL(Ceskoslovenska Plavba Labska Ltd.)Kresice造船所が、中国の滬東中華造船所に買収されたことにより、今後の変化が予想される。
 CSPLはDecinに拠点を置く欧州大手の内陸水運企業で、チェコの海事産業を独占している。同社の製造部門は、KresiceとDhvaletniceという2つの造船所からなる。もうひとつの造船所はVelke Brcznoに位置する民営造船所Ceske Lodeniceである。2005年初頭、中国の大造船所である滬東中華造船所は、CSPL Kresice造船所を15億チェコ・コルナで買収した。2005年末には500人を雇用、将来的には1,500人まで増員し、年間50隻を建造する予定である。52
 
 2000年には僅か482人であったチェコ海事産業の雇用者数も、2004年には812人と回復基調にある。Labe川のダム建設問題により、チェコ国内の船舶、ボートの使用率は低下しているため、海事産業の回復は輸出に牽引され、輸出額は2000年の3億7,490万コルナから2004年には7億2,100万コルナに大きく上昇した。輸出先の第一位はドイツで、スポーツ及びプレジャーボートが多い。貨物船、タンカーが多いオランダも成長市場である。53
 
 チェコの3造船所は全て内陸水運用船舶の建造が専門で、KresiceとChvaletniceでは船舶修繕業務も行っている。この業務分野でも、滬東中華造船所の投資による効果が期待される。
 
52 Czech Investment News
53 Czech Statistical Office
 
3.4 エストニア
(エストニア海事産業)
 2004年のエストニア海事産業の規模は、同国GDPの約0.5%であった。同国海事産業は2つの独立企業、即ちデンマークのオーデンセ造船所及びエストニアのBLRT Gruppに独占されている。造船及造修所は、オーデンセ所有のLoksa Shipyard JSCとBLRT Grupp所有のTallin Shipyardである。
 
【Loksa Shipyard JSC】
 Loksa Shipyard JSCは、バルト海フィンランド湾沿いに位置し、喫水6m、長さ400mを超えるバース、4,000トン浮きドック等あらゆる大きさ及び船種に対応する船舶修繕設備を持つ。従業員は現在700人。オーデンセ造船所による買収から10年間で、Loksa Shipyard JSCの業務体系は大きく変化した。1992年時点では全ビジネスの59%を占めていた船舶修繕業務は、2002年には僅か1%に減少、逆に鋼製建造物の建造は25%から90%に増加した。2004年の売上げは1億3,850万デンマーク・クローネ(2,200万ドル)、利益は660万デンマーク・クローネ(100万ドル)を記録した。
 
【Tallin Shipyard】
 Tallin Shipyardの親会社BLRT Gruppは、リトアニアの大造船所を含む主に舶用企業36社を所有するコンツェルンである。Tallin Shipyardはエストニア最大の造船所で、800人を雇用し、ケミカル船、88m型コンテナ船、トロール船、浮揚型実験設備等の高度な船舶・建造物を建造している。また、タンカー市場からクルーズ市場向けまで広範囲の船舶改造も行っている。
 
 2004年上半期のBLRT Gruppの売上げは前年同期比10%増の12.1億クローン(9,200万ドル)、利益は前年同期比29%増の1億4,200万クローン(1,000万ドル)であった。売上げの伸びは、同コンツェルンのエストニア企業の貢献が3分の2、在リトアニア企業の貢献が3分の1である。
 
 BLRT Grupp内では、2003年に全体の売上げの僅か1%であった造船部門が、2004年には15%に急成長した。Tallin Shipyardは2005年6月現在、コンテナ兼貨物船5隻を建造中である。BLRT Gruppでは船舶修繕部門の売上げが現在でも最も大きく、全体の40%を占めている。
 
【OÜ Ciserv BLRT Baltica】
 最近設立されたOÜ Ciserv BLRT Balticaは、エストニアで最も大きい舶用企業のひとつである。BLRT GruppとフィンランドWärtsilä Corporationとのジョイント・ベンチャーである同社は、エンジン、ギアボックス、プロペラ、その他機器の修理を含むあらゆる船舶修繕サービスを行っている。タリンに拠点を置く新会社には、当初従業員65人でスタートするが、今後Ciserv本社とBLRT Gruppの両社から必要な人材を集める予定である。
 
【Balti ES】
 NarvaのBalti ES社も主要舶用企業のひとつである。同社は1997年にオーデンセ造船所に買収され、現在では主に同造船所向けに一般エンジニアリング業務、及び高品質の精密作業を行っている。その他に、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、英国、ドイツ及びデンマークにも顧客を持つ。現在の従業員数は720人、売上高は8,640万デンマーク・クローネ(1,380万ドル)であるが、170万デンマーク・クローネ(273,351ドル)の赤字を計上した。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION