【Aker Finnyards】
Aker Finnyardsは、ヘルシンキ、ラウマ、トゥルクの3ヵ所に造船所を持つ、欧州でも最大規模の造船所のひとつである。建造船種は、クルーズ船、貨客フェリー、高速船、砕氷船、艦艇、オフショア船で、同社はフィンランド海軍の主幹造船所でもある。
世界の砕氷船の60%以上は同社の建造で、最近ではノルウェーと米国の海上保安局向けの砕氷船を建造した。2004年末の同社の従業員は約4,000人、売上げは10億ユーロである。
2004年9月には、Aker Yardsの造船所とKvaerner Masa-Yardsの合併が発表された。2004年12月7日付けで、Kvaerner Masa-Yardsのトゥルクとヘルシンキの造船所、及びAker Yardsのラウマ造船所は、「Aker Finnyards」として稼動している。新Aker Finnyardsの統合作業は2005年初頭に完了した。
Aker Finnyardsは、世界5大造船企業のひとつであるAker Yardsの傘下にある。Aker Yardsの年間売上げは15〜20億ユーロの規模で、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、ルーマニア、ブラジルに13ヵ所の造船所を持ち、約14,500人を雇用しでいる。その主なフィンランドにおける設備投資は以下の通りである。
●ヘルシンキ:新塗装工場建設。また、屋内建造ドックのクレーンを450トンに増強。
●トゥルク:鋼板製造ラインのオートメーション強化。鋼板製造及びブロック組立の屋内設備を新設。
●Aker Arctic Technology Inc. (AARC):2005年1月1日創立のAker Finnyards子会社。ヘルシンキに近代的な新社屋と大規模な氷海モデルとオフショア・モデルのテスト設備を建設予定。建設プロジェクト投資は約1,000万ユーロ。従業員数15人。
2004年のAker Finnyardsの新造船受注額は26億ユーロで、Royal Caribbean International向け世界景大級クルーズ船3隻、Color Line向けクルーズ船1隻、Tallink向けクルーズ・フェリー1隻、Baltic Container Shipping向けコンテナ船3隻、ロシアNorilsk Nickel向け14,500DWT北極海コンテナ船1隻、フィンランド海軍向けミサイル艇2隻、及びクルーズ船1隻の延長工事である。また、ロシア向け70,000DWT砕氷シャトル・タンカー2隻の初期デザインも手がけている。42さらに、Silja向けROPAX2隻の仮契約、Color Line、Tallinkとのオプション契約も視野に入っている。
Aker YardsとColor Lineは、2004年12月に竣工した車両デッキのある世界最大のクルーズ・フェリー「Color Fantasy」の姉妹船建造に合意している。Color Lineには3隻目のオプションもある。新造クルーズ・フェリー「Color Magic」は、2007年第4四半期に、オスローキール航路に就航予定である。同船は、ラウマとトゥルク両造船所で部分建造が行われ、ラウマで竣工する。
Aker Finnyardsは、電気駆動のポッド式推進装置Azipodの開発にも携わった43。Azipodは1990年以来、数隻の砕氷船に採用されている。Azipodの主な利点は、操縦性の高さ、低ノイズ、低振動、省スペースである。Aker FinnyardsはこのようなAzipodの特性を活かし、高操縦性と砕氷機能を兼ね備えた船型であるDAS(double-acting ship)コンセプトを開発した。DAS砕氷タンカーの砕氷能力は通常砕氷船よりも10〜15%高い。DAS技術は、ロシアの北極海、アラスカ、カナダ北部で運航可能な低コスト、高信頼性のタンカーを提供するものである。
Azipodは砕氷船だけではなく、フィンランドで建造された多くのクルーズ船にも採用されている。Azipodは、巨大なクルーズ船のその場回頭を可能にする。Azipodを採用したAker Finnyards建造のクルーズ船の一例は、米国Royal Caribbean InternationalのVoyagerクラスのクルーズ船「the Explorer of the Seas」である。44
【Turku Repair Yard】
Turku Repair Yard社は、北ヨーロッパ最大級の乾ドックを持つフィンランド最大手の造修所で、正規従業員は100人であるが、仕事量によって地元提携企業より250〜300人を追加雇用する体制で操業している45。ナーンタリ、トゥルク、ヘルシンキにヤードを持ち、ナーンタリの乾ドックは255×70×7.4m、浮きドックは101×21.6×6.0m、最大許容量5,000DWT、岸壁は全長184mである。トゥルクの乾ドックは183×25.9×8.0m、ヘルシンキのブオサーリ造船所の乾ドックは、380/226×56×8.0mである。同社は年間100隻以上の船舶修繕を行っている。46
46 Mikko Viitanen, Tapio Karvonen, Johanna Vaiste and Hannu Hernesniemi, The Finnish Maritime Cluster, Technology Review 145/2003
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【UKI Workboat Ltd】
UKI Workboat Ltdは、アルミ製作業船及び全長100mまでの小型船を建造する造船所で、従業員数80人、年間売上げは1,800〜2,000万ユーロである。同社敷地内には、3,500m2の鋼船建造所、1,300m2のアルミ船建造所、100mの船台2本、80トン・クレーン6基、艤装、配管、組立工場、400m2の塗装工場、400m2の艤装岸壁がある。
同社の建造する船種は、巡視船、艦艇、海上保安船、油濁処理船、パイロット船、氷海船、フェリー、救助船、サービス船、調査船、カタマランである。
(フィンランド舶用産業)
フィンランドの舶用企業は、ボイラー、パイプ、推進システム、航海システム等を製造するエンジニアリング企業が多い。また、防火ドア、パネル、天井、キャビン換気システム、トイレ、レストラン、厨房等、豪華客船の艤装デザインと機器の製造企業が多いことも特徴である。以下は主な舶用メーカーと下請け企業である。
Aalborg Industries Oy ABB Oy, Marine and Turbocharging
Antti-Teollisuus Oy APX-Metalli Oy
Furuno Finland Oy GS-Hydro Oy
Halton Oy, Halton Marine HG Modulpax Oy Ltd
Kaefer Eristystekniikka Oy Koja Ltd (Koja Marine)
Laivasähkötyö Oy LST Group Oy Lautex Ab
Lindal Private Finland Oy Oy Merima Ltd
Mobimar Oy Parmarine Ltd
Paroc Oy Ab Piikkio Works Oy
Rautaruukki Oy Saajos Oy
SBA Interior Ltd Seaking Oy
SF-Control Oy S.A.Svendsen Oy
Wärtsilä Corporation YIT Industria Ltd
YIT Shipins Oy
【ABB Oy】
ABB Oy社は、ポッド型推進装置、オートメーション・システム等の電子推進システムのメーカーで、豪華客船、RORO船、タンカー、オフショア船、特殊船等への推進システム供給の大手である。売上げは14億ユーロで、その約70%が欧州、米国、アジア市場向けの輸出である。同社の年間研究開発費は9,000万ユーロを超える。フィンランド国内に40以上の拠点を持ち、主幹工場は、Pitäjänmäki、ヘルシンキ、Strömberg Park、Vaasaの4工場である。
【GS-Hydro】
同社は、総合配管システム、特注配管モジュールと部品のメーカーで、配管専門職25人を有する。同社の配管システムは、タンカー、補給船、RORO船、豪華客船、帆船等、多様な船種に幅広く用いられている。
【Parmarine】
同社は舶用バスルーム・ユニット、キャビン、防火扉のメーカーで、従業員数は241人、2003年の売上げは2億6,900万ユーロである。主要顧客は、フィンランド国内ではAker Finnyards Oy、国外ではChantiers de 1'Atlantique、Fincantieri、三菱重工業、Meyer Werft、HDW、Daewoo、Samsungである。
【Pikkioworks】
同社は豪華クルーズ船、クルーズ・フェリー、高速船、貨客フェリー等あらゆる客船のキャビン関連製品のメーカーである。主要顧客は、北ヨーロッパのクルーズ会社と客船建造造船所である。全世界の客船キャビンにおける同社のシェアは30%で、2005年の売上げは5,000万ユーロと予測されている。同社は、400〜500社のサプライヤー・ネットワークを持っている。最近の受注は、Royal Caribbean Internationalのフリーダム・クラスのクルーズ船2隻の浴室付き客室とクルー・キャビン、及びエストニアTallinkの新造大型クルーズ・フェリーの浴室付き客室である。
【Wärtsilä Corporation】
同社は世界最大手のエンジン・メーカーのひとつである。同社がLNG船向けに開発した50DFデュアル・フュエル・エンジンは、省スペース、低燃料消費、オペレーションの柔軟性、低排気ガスが特徴である。
BP Shipping社は155,000m3LNG船4隻(及びオプション4隻)の推進システムに、12V50DF×2、9L50DF×2の組合せを選んだ。最初の4隻は2007〜2008年に竣工予定である。また、Gaz de France社とNYK社も、同じ仕様の50DFを搭載したLNGタンカーを1隻追加発注し、2006年中に竣工の予定である47。
Wärtsilä社は、シリンダー数が比較的少なく、信頼性の高い2ストローク・エンジンでも大手である。プロペラ1基を軸駆動するこのタイプのエンジンは、操作とメンテナンスの容易さも特徴である。
2005年9月、Wärtsilä Corporationと三菱重工業は、2ストローク・デイーゼル・エンジン分野での生産効率化をめざした共同研究開発と共同開発製品の販売協力に合意した。両社とも低速2ストローク・エンジンの幅広い製品ラインを持っており、Wärtsilä Corporationのエンジンは出力5,000〜80,000kW、三菱のUEエンジン・シリーズは1,120〜46,800kWである。三菱はWärtsiläのデザインした2ストローク・エンジンの製造も行っている。両社の提携は、現在2ストローク・エンジン市場最大手のMAN B & Wに対抗するものである。48
(フィンランドの海事クラスター)
2003年、フィンランドでは海事クラスターに関する調査が実施された。フィンランドの海事クラスターは、海運、舶用企業、港湾局等、民営及び公営セクターに分類されている。最も海事クラスターの影響が大きい地域は、オーランド諸島、ヘルシンキ、トゥルク、ラウマである。大部分の企業は海岸沿いに位置しているが、内陸部でも海事産業は盛んである。海事クラスター内の大企業の多くは、技術力の高いハイテク企業であり、関連企業を含む企業ネットワークの高成長が期待される。海事クラスターは、保険、金融サービス、海事協会等、海事関連分野を含めた重要セクターに発展している。
上記の海事クラスター調査49では、257社の企業にインタビューを実施した。造船、海運、港湾、港湾企業及び下請け企業や関連企業を含めた海事クラスターの売上高は、114億ユーロに上る。その内訳は、造船15億ユーロ、海運21億ユーロ、港湾1億8,200万ユーロ、その他関連企業75億ユーロとなっている。
同調査によると、海事クラスターに関連する企業数は2,500社で、47,000人を雇用している。海事企業は社会保険、年金、失業保険等を支払うことで、フィンランドの社会保障制度に貢献している。例えば、2001年には、フィンランドの造船企業とその従業員は、税金や間接雇用費用の支払いにより、公共セクターへ5,800万ユーロの貢献をした。また、海運企業が従業員10,156人に支払う給与は年間5億2,500万ユーロ、造船所が従業員6,657人に支払う給与は年間2億300万ユーロで、海事クラスターのフィンランド経済への影響は大きいことがわかる。
海事クラスターに属する企業の50%以上が、複数のセクターで活動を行っている。これらの企業が直面する問題としては、競争激化、熟練労働者の減少、柔軟性のない労働市場制度、フィンランド企業の国外移転等である。EUの東方拡大や世界情勢の変化を挙げる企業もあった。
競争力強化のために最も有効な方法としては、60%の企業が「専門性」、50%が「顧客サービス」を挙げており、以下「品質」、「労働力の質」、「柔軟性」、「技術力」、「ノウハウ」、「顧客との協力」、「国際性」、「生産性」と続く。
49 The Finnish Maritime Cluster Study Mikko Viitanen, Tapio Karvonen, Johanna Vaiste and Hannu Hernesniemi, Technology Review 145/2003, www.tekes.fi
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