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1-10 動物 育む水
 地球で暮らす生物の体にはたくさんの水が含まれています。すべての生物の体の中にある水の量を合わせると,1120km3となり,地球全体の水の量の0.0001%を占めると計算されています。
 
Q 生物に必要なのは,水,水蒸気,氷?
A 生物に必要なのは液体の水です。太陽系には9つの惑星がありますが,生物がいるのは地球だけです。その理由は水の状態にあります。地球以外の惑星では,熱過ぎて水が蒸発して水蒸気になっていたり,反対に寒過ぎて氷になっています。ちょうどよい温度で,液体の水が豊富に存在しているのは地球だけです。だから地球にはたくさんの生物が住んでいるのです。
 
Q コアジサシは暑い日には,羽毛を水で濡らして卵やヒナ抱くことがあります。なぜ?
A コアジサシは海岸の砂浜などに巣をつくります。海岸は日差しが強く,気温が上がる時,水で濡らしたお腹の羽毛をヒナにかざします。蒸発熱を利用してヒナを涼しくしているのです。
 
Q 水は動物の体の中でどのような働きをしているの?
A 体の中の水は4つの働きを持ってます。(1)体に必要な栄養分や老廃物を運びます。(2)栄養分を酸素と反応させて,エネルギーに変える働きを助けます。(3)生体高分子の形を決め,機能を発揮させます。(4)体温を調節します。
 
やわらかく,しなやかな体
 生き物の体をつくる細胞の一つひとつはそれぞれの形をとっていますが,固体のように固いのではなく,ある程度は変形することができます。細胞が水で満たされていて,水分子の適度に弱い化学結合(水素結合)の働きです。
 
水の量と水収支
 生物は,水なしでは生きてはいけません。たとえば人の場合,体に含まれる水分量は標準体重の成人女性が約50%,男性は約60%です。子どもは水分量が多く(新生児で75%),年を取ってくると少なくなってきます。また,脂肪の多い人は水分量が少なくなります。体の中の水分は1細胞内に約2/3,細胞外に約1/3の割合で存在します。成人は1日におよそ2〜3の水を,飲み水・食物に含まれる水・代謝水*として摂取し,尿・汗・呼気・糞便として排出しています。20%以上の水分が失われると生命が危険になります。
 
*代謝水:体内で,水素を含む化合物(糖,脂質,タンパグ質)が酸化されるときに出る水。
 
運搬,生体化学反応の場,生体高分子の構造をつくる水
 細胞の内と外は細胞膜で区別されていますが,外部との物質のやりとりができるのも,細胞の内と外に水があるからです。水はいろいろな物質を溶かし運搬することができるため(1-7海,参照),体内では水に溶けたさまざまな物質を用いて,代謝と呼ばれる生体化学反応によって生命活動に必要なエネルギーや各種の物質を作り出し,不用になった物質を分解し,排泄しています。
 タンパク質は生体内で行われる化学反応に触媒として働く酵素,細胞表面にあって情報を受け取る受容体や抗体など生命活動に欠くことができないものです。また,遺伝情報を担う核酸はまさに生命の基本ともいえましょう。これらのタンパク質や核酸は,水があるからこそ,その機能を発揮できる適当なゆるみを持つやわらかい立体構造を保つことができます。
 
体温調節
 水は比熱容量*が大きいので温度変化しにくい物質です。体の中に大量の水があるおかげで,体の外から熱を受けても,体温が急に上昇するのを防いでいます。運動すると体温が上がり,汗をかきます。その汗が蒸発するときの蒸発熱**によって体表面の温度が下がります。また,生体化学反応が起きるときにも熱が発生しますが,体の中の水がその熱を吸収し温度が上がるのを防いでくれます。一方,体表面の血液が外気によって冷やされ,冷えた血液が体内をめぐることによって体温が調節されています。
 
*比熱容量:普通比熱といっていますが,本来は比熱容量といいます。物質1gあたりの熱容量注)
注)熱容量:ある物体の温度を絶対温度(1K)上げるのに必要な熱エネルギーの量。
**蒸発熱(気化熱):物質が液体から気体に変わるときに吸収する熱エネルギーのことです。
水は蒸発熱が他の物質に比べて大きく,蒸発しにくいといえます。
 
Q 卵の中のヒナはおしっこをするのですか。
A 尿は,老廃物を捨てるための水です。老廃物は人でも魚でも出てきます。もちろん卵の中のヒナからも出ます。老廃物を捨てるには,たくさんの水が必要です。しかし,卵の中には限られた水しかありません。そこで,老廃物を水に溶けない尿酸という物質に変えて,ヒナが生まれるまでの間,卵の中の尿酸とよばれる部分にたくわえて,水を節約しているのです。
 
生命の誕生
 生命は,海の中,海底火山の噴出口付近の高温・高圧下でアミノ酸などの有機物が作り出されたという説が有力になっています。地球の誕生は約46億年前,生命出現の時期はおよそ40億年前と考えられています。そして,水の中で年月をかけて進化しましたが,陸上に進出できたのは約4億年前です。まず植物(コケ植物・シダ植物)が上陸を果たしました。
 
陸上生活
 生き物が陸上に上がるためには,これまで身体の回りに豊富にあった水をどう確保するか,つまりいかに乾燥に耐え,水を体内に確保するかという問題を解決することが必要になりました。また,水のなかでは浮力が働いていて体を支えることにエネルギーを費やす必要がありませんでした。しかし,陸上では自分の体を支えなければならなくなりました。
 結局,陸上に生息範囲を拡げることができた動物は,脊椎動物(哺乳類,鳥類,ハ虫類,両生類)と節足動物(昆虫類,クモ類など)と軟体動物(カタツムリ)など,限られた分類群だけです。
 
子孫を残す−卵−
 生き物にとって生殖は重要な営みです。両生類の卵は水中に生み出され,幼生(オタマジャクシなど)も水の中で生活します。したがって,親は繁殖期になると水辺に移動します。ハ虫類は湿った地中や地表に卵を産みますが,孵化した子は親と同じような陸上生活をします。このために,丈夫な殻を持ち,孵化するまでに十分な水と養分を蓄えた大きな卵を産むようになりました。そして,鳥類は乾燥した場所にも卵を産んで育てられるように,卵が進化しました。
 さて,卵は閉鎖空間です。その中で胚の発生が進み,さかんに生体化学反応が行われています。その老廃物をどこに捨てているのでしょうか?生物の体を作っている主成分はタンパク質ですが,タンパク質には窒素が含まれています。タンパク質が分解されてできるアンモニアは水によく溶けますが,毒性の高い物質です。水生生物は,水中にアンモニアをどんどん廃棄できますから問題は起きません。ハ虫類や鳥類は,アンモニアを水に溶けにくい尿酸に変え,卵の中の尿膜とよばれる部分にたくわえて,水を節約しているのです。
 鳥類は尿をつくるための大量の水分を体に蓄える必要がなくなり,体を軽くでき,空を飛ぶことに適応しています。
 
哺乳類−胚は母体内で水に囲まれて育つ−
 哺乳類では,受精も胚の発生も水の多い母胎内で進みます。とくに胚は羊膜で囲まれた羊水の中で育ちます。養分や老廃物は母胎の血液との間で交換をしているので,受精卵は水や養分や老廃物を蓄える必要がなくなり,ハ虫類や鳥類の卵に比べ小さくなりました。窒素の老廃物は水に溶ける尿素に変えて大量の水とともに尿として母胎を通して捨てています。
(小川かほる・田辺浩明)
 
活動 やってみよう!
蒸発熱実験
(1)水の入った容器と空の容器にそれぞれ棒状温度計を入れます。棒状温度計の器差を確かめておくとよいでしょう。初めにそれぞれの温度を読みます。次に,それぞれの温度計を容器から取り出して,温度の変化を調べます。このとき水で濡れている温度計を乾いた温度計に触れないように気をつけてください。濡れた温度計を拭いたりはしません。さあ,どうなりますか?
(2)両手の手の甲のどちらか一方に水を塗ります。さあ,どうなりますか?
 
あなたの体の中に水はどのくらいある?
 体水分計を使います。水分量が出たらその量を実際に確認したり,持ち上げたりしましょう。ペットボトルにすれば何本分ですか? 10リットルバケツでは何杯分? あなたは,その量を持ち上げられますか? 図10.1に,プレ展示の際水分計で測定した124人分の結果を示します。
 
図10.1 体水分率


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