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1-5 川 流れる水
 雨が降ると,地表に落ちた水は高いところから低いところへ流れていきます。地形に低いところや谷があると,そこへ水は集まってきます。やがて水は一つの道筋となって流れていきます。これが川です。世界の川を流れている水の量は2120km3で,地球全体の水の量の0.0002%を占めると計算されています。
 
Q 川の水が海にとどくまで何日かかるでしょうか。
A 上流に降った雨は,小さな川では数日,大きな川の場合は10日以上もかかって海へ辿り着きます。途中に湖などがあると,もっと時間がかかる場合があります。
 
Q 毎日,川の水が海に流れ込んでいるのに,海の水が増えないのはなぜ?
A 海の水は,常に海面から蒸発しているからです。
 
 地球の表面から水は蒸発しますが,雨・雪となって降ってきます。蒸発量と降水量を比べると,海上では降水量より蒸発量が,陸上では蒸発量より降水量が多くなっています。その差に相当する量の水が河川水または地下水として海に流出しています。(宇宙の水・地球の水 図1.2参照)。
 地球の表面近くに存在する水は,海水,氷河,河川水,湖沼水,地下水,大気中の水(水蒸気や雲など)に分けられます。水は,これらの中を状態を変えながら,あるものは速い速度で,あるものはゆっくりと移動(循環)しています。
 ときにはこれらの移動に偏りが生じて,湖が干上がったり,反対に洪水が起こったりすることがありますが,そうしたことが起こっても,地球全体の水の総量は変化しません。
 
Q 川から海に流れ込む水と海から蒸発する水は,海洋ごとにバランスはとれているの?
A いいえ。もし海がつながっていなかったら,大西洋とインド洋は干上がってしまうと計算されています。
 
 降水量と蒸発量は地域によって異なります。陸地から海洋に流れ込む水の量は河口の位置により決まるため,海洋ごとに異なります。各海洋で年降水量と年蒸発量との差に陸地から流れ込む水の量を加えると,海洋ごとに1年間の水収支が得られます(表5.1)。大西洋,インド洋は蒸発量が多く,陸から海洋への流出量を加えてもマイナスの値となり水が不足し,太平洋と南極海は水が増えます。しかし,各海洋はつながっているため,大西洋,インド洋の不足分は太平洋から供給されています。
 
表5.1 各海洋別の年間水収支
面積 大気水蒸気収束量*
(A)
降水量 蒸発量 陸から海洋への流出量
(B)
(A+B)
100万km2 1兆t/年
北太平洋 76.6 7.6 129.1 121.5 8.0 15.6
南太平洋 99.1 -6.4 138.4 144.8 3.2 -3.2
北大西洋 43.5 -12.3 48.7 61.0 5.4 -6.9
南大西洋 45.8 -8.9 37.0 45.9 6.1 -2.8
インド洋 70.8 -8.9 84.4 93.3 0.1 -8.8
南極海 10.6 2.0 3.4 1.4 3.7 5.7
全海洋 346 -27 441 468 26
*降水量−蒸発量=収束量
 
Q 川の水は地形にどのような働きをしているのでしょうか。
A 地形を作り出しています。この力は,水の勢いが強いとき,たとえば洪水や土石流の際に大きくなります。
 
 川の水は高いところから低いところへ流れながら土砂を削りとったり,土砂を運んだり,土砂を積み重ねたりします。こうした働きが何千年,何万年も続くと,山が削られて低くなったり,深い谷ができたり,浅い海底が埋め立てられて陸地(平野といいます)ができたりします。水の流れは地形を作り出す働きがあるのです。東京都や埼玉県,千葉県に広がる関東平野は,こうした川の働きによって作られた地形です。
地面を削る働き・・・侵食作用
土砂を運ぶ働き・・・運搬作用
土砂を積み重ねる働き・・・堆積作用
 川原へ入ってみると,場所によって丸い石が転がっていたり,砂があったり,泥があったりします。これらはすべて川を流れる水が運んできたものです。川の流れをよく見ると,砂や泥の粒が水といっしょに流れていく様子を観察することができます。これらの石や砂,泥は,川の上流で削りとられたものです。川の上流では,流れが速く土砂を削りとる侵食作用が強く働きます。これらの土砂は川の流れによって運ばれてきます。川原に見られる丸い石は,川の流れで運ばれている途中でほかの石とぶつかったり,砂に削られるなどして角が取れて丸くなったものです。
 やがて下流になると流れは緩やかになり,運ばれてきた土砂は堆積するようになります。川が海や湖に注ぐところ(河口)では,大量の土砂が堆積して遠浅の海岸(干潟)を作ったり,三角州とよばれる地形を作ったりします。
 
Q 養老川では,昔から「川廻し」という工事が行われていたそうですが,「川廻し」とはどんなことでしょうか。
A 川廻しは,川の流れの近道を造る工事のことをいいます。
 
 市原市を南北に貫いて流れる養老川は,流域面積245km2,長さ75kmの二級河川で,その流域は泥や砂でできたやわらかい地層です。水の力で侵食されやすく,川は深い谷を作り,また右へ左へと曲がりくねりながら流れていました(これを蛇行といいます)。
 養老川は蛇行が激しく,大雨が降ると簡単に水が溢れ出し,洪水などの災害がひんぱんに起きました。そこで,川の近道を造って洪水の被害を防ぎ,水運を便利にし,併せて耕作地(主に田)を拡大できる川廻しの技術が発達しました。養老川流域はやわらかい地層でできているため,機械のない江戸時代でも工事を行うことができました。こうした工事は現在でも続けられていて,平成元年から6年にかけて,妙香から上原(いずれも市原市)にかけての大きな曲流に川廻しの工事が行われました(写真5.1)。
(田辺浩明・永島絹代・小川かほる)
 
写真5.1 養老川の蛇行部分の川廻し(左:改修前,右:改修後)
 
1-6 湖沼 溜まる水
 川は水が流れているのに対して,湖は水が溜まったところで,川の一時休憩所といえます。湖に溜まった水は17万6400km3で,地球の水の量の0.0127%を占めると計算されています。
 
Q しょっぱい湖があるって本当?
A 乾燥した地域の湖や沼は,入ってくる水の量よりも蒸発してしまう量が多く,水が出て行く川がありません。そのため,水の中に溶けている塩が溜まってしょっぱい湖や沼ができます。
 
 湖水1中に500mg以上の塩類を含むものを塩水湖,それ未満のものを淡水湖とよびます。塩水湖には,海水が直接または間接に入ったものもありますが,多くの塩水湖は砂漠など大陸内部の乾燥地帯で流入河川が運んできた塩類が濃縮されてできたものです。
 世界中の湖水量は17万6400km3ですが,このうち約48%が塩水です。淡水湖沼に存在する水は地球上の全淡水量の0.26%に過ぎませんが,人が利用しやすい水資源です。
 
Q 印旛沼が汚れているって本当ですか?
A はい。残念なことに,昭和40年代以降水質汚濁が進み,水道水源の湖沼では,全国ワースト1の水質です。あなたも印旛沼の再生のために行動して下さい。
 
 印旛沼は,千葉県北部に広がる下総台地のほぼ中央に位置する海跡湖で,昭和30年代までの印旛沼は面積25.8km2,W型をした大きな沼でした。昭和44年に完成した干拓事業によって面積が半減し,北印旛沼,西印旛沼に分かれた形になっています。都市化の結果,雨水が地下に浸透する量が減り,湧水量は減少し,降雨時の流出量が増加しました(図6.1)。
 昭和30年以降,沼の西側流域から都市化が進行し,流域の人口が増えるに従い,汚濁が進みました。下水道の整備などにより,家庭や事業所からの水の汚れは徐々に減っていますが,農地や市街地などから降雨時に流出する汚れがなかなか減りません。また,沼の中では河川から流れ込んだ窒素やリンが栄養となって,植物プランクトンが大量に発生し,沼の汚濁の要因の一つとなっています。印旛沼の水質を改善し,水害被害のない安全な印旛沼にするため,多くの人々の努力が続けられています。
 
図6.1 印旛沼流域水循環の変化
(拡大画面:66KB)
 
Q 印旛沼の水は何に使われているのですか?
A 印旛沼は工業用水,農業用水,生活用水に利用されています。
 
 印旛沼は工業用水,農業用水,生活用水のほか,内水面漁業に利用されています(図6.2)。平成14年度の利水状況は3億m3/年ほどで,このうち工業用水が55%,農業用水が30%,生活用水が15%と,工業用水にもっとも多く利用されています。千葉県全体の水利用では,農業用水約79%,生活用水約13%,工業用水約8%ですから,工業用水の利用が突出していることがわかります。
 歴史的にみると,印旛沼は第二次世界大戦後,洪水を防ぎ食糧の増産をめざして,干拓工事がはじめられました。京葉工業地帯の発展に伴って工業用水として水源が開発されその後,人々の生活用水を沼から取ることになりました。印旛沼は千葉県にとって大切な水源です。
 
図6.2 水使用量(億m3/年)と割合
 
Q 食べ物をつくるために必要な水はどのくらいですか?
A たとえば,牛丼並盛り1杯で,約1890です!
 
 米や野菜,肉,そして加工食品の生産には水が必要です。米や小麦などを生産するのに必要な水資源量は,基本的には単位面積当たりに投入された水資源量と,単位面積当たりの収穫量から求めることができます。
水消費原単位=全投入水量/(単位面積あたりの収量×歩留まり率)
全投入水量=単位面積あたり1日の水消費量×育成日数
 米は生育期間中毎日15mmの水が必要と仮定し,1ヘクタール当たり6.46トンの収量,育成日数を100日,玄米にするときの歩留まり率を72%,精白米にするときの歩留まり率を65%として,精白米1トンを作るのに3600m3(トン)の水消費原単位が求められます。
 牛丼はご飯の上に牛肉と玉ねぎを煮たものをかけて作ります。表6.1に東京大学生産技術研究所の沖研究グループが試算した水使用量を示します(調味料をつくるのに必要な水は省略しています)。このように,食料の生産には大量の水が使用されています。
 
表6.1 牛丼一杯作るために必要な水の量
重量(g) 水消費原単位(重量比) 水使用量(
70 20600 1442
玉ねぎ 20 158 3
ご飯 260 1700 442
1887
 
 さて,日本の食料自給率はカロリーベースで約40%といわれています。同上の沖研究グループの試算によると,日本が輸入している穀物5品目,畜産製品4品目と工業製品(2%に過ぎない)に含まれる水の量は約640億m3/年であり,これは日本国内の農業用水使用量約568億m3/年(平成13年)の値を上回っています。ある国が農作物や工業製品を輸入しているとします。もし,それらを自国内で生産するとしたら必要になる水資源を仮想水(バーチャルウォーター)といいます。日本では,仮想水の輸入量が1人当たりに直すと約500m3/年と計算されています。国内での水資源使用量750m3/年と比較すると,日本人は暮らしに必要な水資源の半分近くを海外の水資源に頼っていることがわかります。
(小川かほる)


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