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MABUHAY
福永 真人(長崎大学医学部医学科6年)
 今回このフェローシップに参加させてもらうことができ、全11日間の日程を終了して思うことは、こんなに考え、悩み、模索し、共感し、惑い、そして、幸せな日々を送らせてもらったことにただただ感謝したい、ということだ。国際保健というものに漠然としたイメージしか持たずに参加した私を待っていたのは、motivationの高い仲間達と素晴らしい先輩、そして色々な問題を抱えつつも明るく生きるフィリピンの人々だった。このフェローシップを通して幅広い意味での“医療”に対する認識の変化を感じた。
 
気づき(1)誰のために
 人のために役立ちたいと医師を志したのだが、一つの違和感を感じていた。人のための仕事は山ほどあるのに、なぜ医師だったのか。WPROを訪れた際の尾身先生のお話で、「人間は結局自分のためだったら一番頑張れる、だから自分を中心に置かないといけない。」と聞き、“人のために働く”と肩に力を入れず、人のために働く医師という仕事を“自分”がしたい、という欲求があって、これが結果的に他人のhappyになれば自分もhappyだと。そして、他人のhappyが最高のrewardになるという立場でいいのだと感じた。今までの思いに“自分”という二文字を入れるだけで気分が晴れた。
 
気づき(2)健康であるために必要なもの
 健康であるために必要なものを挙げてみよう。私にとっては難しい質問だった。なぜなら、日本では“当たり前のもの”だから想像するのが難しい。しかし、安全な水、十分な栄養、基本的な医療サービスを提供することは途上国においては決して当たり前ではない。公衆衛生学はこれらを幅広く学べる学問だと実感した。
 
気づき(3)仲間を増やすこと
 昨年度の報告書を読んだときに、短期間でこんなにも楽しそうに仲良くなれるのかなぁ、と半信半疑だったが、本当に素晴らしいものとなった。メンバーみんなが豊富な経験・強烈な個性を持ち、国際保健という軸を中心に団結するとこんなにも夢中になれるのかと思った。まだ私達は学生の身であり、社会に貢献できることは少ないが、今回の体験をまずは周囲に伝えていくことが重要なのではないかと思う。そして、この仲間達と常に連携して将来もこのような雰囲気で仕事ができたらどんなに幸せだろう。
 
 フィリピンでは医学部卒業後、海外で働くことを希望する学生が多いとのことだったが、実際フィリピン大学の学生と話している中でも数多くそういう希望を聞いた。だが、フィリピンの医療を取り巻く環境は決して明るくない。医師の不足・保険制度・プライマリーな医療を受けられない人達がいる一方で生活習慣病をも抱える貧富の差。フィリピンで育った人材を、まずは国内で活かすシステム作りが必要とされている。自分がフィリピンの大統領だったら何をするかという議題が総括ミーティングであがったが、財政は火の車、苦肉の策の外貨稼ぎが国内の問題を深刻にしていく悪循環は一筋縄では断ち切れないだろう。しかし、フィリピンの人達から不思議と悲壮感は伝わってこなかった。豊かな自然に恵まれた南国特有の気質であろうか。いや、それだけではない。貧困とは何なのか?貧困=不幸という図式は必ずしも成り立たない。私達は心のどこかに“日本と比べて○○がなくてかわいそう”という思いが無かっただろうか?幸せの基準はその国、その人によって異なって当然であり、無理矢理欧米型の幸せを押し着せていないだろうか。Barua先生の講義の中にあった「人々の中に」にあったように、主人公は(今回で言えば)フィリピンの人々であり、決して支援している側ではないのだ。だから現地の人々のニーズをよく聞かなければならない。国際保健の主人公は現地の人々であって、私達ではない。これも気づきの一つだ。たくさんの気づきのおかげで今まで自分が考えていた医療とは、ほんとうに狭い範囲のテクニカルな医療だったように思えてきた。病院で行われていることだけが医療ではない、という認識は当たり前のようでなかなか意識されていない。先進国では病院での医療サービス、上・下水道の整備、行政による施策などが分業化・専門化されていて、これら全てが医療を形成していることが見えづらい。今回のフェローシップを通して視野の広がりを感じた。
 
 最後になりましたが、このような一生記憶に残る、貴重な機会を与えていただいた笹川記念保健協力財団の皆様、国内研修で御講演頂いた先生方、推薦して頂いた長崎大学大学院医歯薬学総合研究科公衆衛生学分野の高村昇助教授、また、一番身近でお世話頂いた引率の西村先生、泉さんに御礼申し上げます。そして13人の仲間達、これからもよろしくお願いします。
 
カンルーガン・センターにて
 
最高の経験
今井 健太郎(山梨大学医学部医学科5年)
 開発途上地域の資源・食料・金などを先進地域の人々が独占し、過剰に豊かな生活ゆえに生活習慣病が増加する一方で、開発途上地域では貧困ゆえに栄養失調や予防できるはずの感染症にかかり、十分な治療を受けられず苦しんでいる人々が大勢いる。先進地域日本に住む者として、そんな現実に違和感や疑問を抱いていた1年半前、台湾での地域医療活動に参加したことがきっかけで国際保健医療協力に興味を持ち始め、その道に魅かれるようになった。
 5年生という将来の道を考える時期になり、国際保健医療協力がただの憧れだけのものなのか、それとも自分が本当に興味を持って打ち込みたいものなのか、将来の道を考える上で判断材料を探していた。そんな自分にとって、このフェローはとても有意義なものだった。国際保健医療協力についての知識をより深められただけでなく、多くの魅力的な先生方から様々な考え方やこれからの生き方に関する貴重な話を聞くことができた。
 
 11日間、GOからNGOまで幅広い活動を見学し、それら個々の活動の内容、様々な問題点、それらに対する改善努力などを聞くことができた。国際保健医療協力におけるGO・NGOの個々の活動の重要性を感じるとともに、国際保健医療協力ではGO・NGOの個々の働きだけでは不十分であり、地域に根ざし現地の人々と深く関わりながら政策を進めるNGOと国・地域を全体的に把握しながら大規模な政策を進めていくGOとの相互協力が不可欠であるということを知った。地域に根ざし活動する人達は、「森」を構成する「木」だけではなく「森」全体を見ることも必要であるし、大きな単位を対象とし大規模な政策を進める人達は、「森」だけでなくそれを構成する「木」を見ることも必要である。国際保健医療協力のパワーを最大限に発揮するにはGO・NGOが互いのフィールドを理解しながら連携していくことが非常に大切である。また、このフェローで国・地域のような大きな単位を対象とするWHOやJICAを初めて訪問し、個人を対象とする医療だけが医療の形すべてではなく医療にも違ったアプローチの仕方があること、そして、開発途上地域の保健医療・生活の質の向上には医療だけでなく、政治・経済・文化・歴史・宗教等の多くの要素が深く関与していることを知った。ある一方向だけからアプローチするのではなく、常に物事を多方面から考えながら政策を考え、正しい方向に政策を進めていく必要がある。
 物資援助を行う際、援助する側が必要だと考えた物資をただ送るのではなく、現地の文化や伝統などを考慮し現地の人達のニーズによく耳を傾けながら、以後もその援助が最大限に現地の人達に活用され続けるように使用方法、使用習慣、修理方法などの教育指導とサポートを行うことが不可欠である。特に人材援助、人材養成の際には現地の人達と十分に話し合い、相互の知識・技術を共有することが重要であり、現地の人達がその国・地域を自分達で向上させていく手伝いの役目を務めることが、国際保健医療協力において非常に大切なことである。
 
 このフェローを通して、視野の狭さ、知識・経験不足を含め自分の未熟さを改めて痛感しただけでなく、新しい知識や考え方を吸収し、広い視野としっかりとした土台を作る必要性を強く感じた。そのためには、医療分野だけでなくその他様々な分野の人達と出会い、多くのことを吸収する必要がある。そして、「どうやったら成功できるのか」「何をすれば人の役に立てることができるのか」を真っ先に考えるのではなく、「自分は何をしたいのか」「自分は何が好きなのか」をまず考えることが大切であると感じた。まだまだ未熟な学生では物事の判断に間違いが多い。しかし、その反面、その判断は純粋な自分の気持ちから来るものであり、その判断に対する行動力は非常にpowerfulなものである。先の間違いを考え過ぎては何もできない。常に情報のアンテナを張りめぐらせながら自分の判断を評価・確認し、間違いを見つけたらまた新たに判断して方向を修正すればよい。純粋でpowerfulな姿勢を持ち続けながら、与えられたものをただ条件反射的に掴むのではなく、自分から自分の好きなことを掴み、その選択に責任を持ち全力で打ち込むことがこれから先常に必要である。そうすることで自分自身に満足することができ、それによって初めて相手の事を思い人の役に立てる事ができるのだ。
 
 このフェローで得たものはこれらだけではない。互いに尊敬しあえる13人と経験・知識豊かな西村先生と泉さんが一緒であったからこそ、一人では気付かず通り過ぎることも誰かが気付き様々な意見を出し合い、細かい部分も漏らすことなくみんなで共有することができた。また、食事、移動、ミーティングなど様々な場面で将来の道や国際保健医療協力に関することや普段から思い悩んでいたことなど、16人みんなで共有し真剣に本音で話し合ったりした。懇親会の練習、本番のようにみんなで一丸となって頑張る時もあれば、ビーチバレー、飲み会、セブ観光の時のようにたくさん笑って盛り上がる時もあり、書き出せばきりがないほどたくさんの場面を共有した。こんなすばらしい仲間と出会い、色々な場面、時間を共有できたことはとても貴重で幸運なことであり、この16人が一緒であったことが、このフェローを自分にとって一生忘れられない最高の経験にしてくれた。今後もこの出会いを大切にし、この仲間と互いに刺激し合いながら視野の広い、豊かな人間性を持つ人に成長していきたい。そして、国際保健医療協力についてさらに探求し、将来、国際保健医療協力の場に自分が立つことができることを強く願う。
 
 最後になるが、このような機会を与えてくださった笹川記念保健協力財団、国内・国外で講義をしてくださった先生方、共に同行し、的確なアドバイスをしてくださった西村先生と泉さんに心より感謝申し上げます。
 
セブのフルーツマーケットで、ジャックフルーツ片手に
 
懇親会会場で、フィリピン大学の学生とともに


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