4. 結果
4-1 ARGOSブイとの比較
モデルの目的は幼生の追跡なので、モデルの検証は、ラグランジ的な輸送特性、すなわちラグランジ的な輸送経路、着目領域でのグラランジ的平均速度と滞在時間に着目し、これらを現場データと粒子追跡モデルの結果について比較することを試みた。現場データとしては、北大低温研の大島助教授から提供をうけたARGOSブイのデータ(Ooshima et al., 2002)を用いた。
Ooshimaら(2002)は、オホーツク海西部の表層下の循環を調べるために、19個のアルゴス・ブイを投入した。ブイの軌跡(図4)は、1000m以浅海底地形に捕捉されて、サハリン島の東に南流する強い海流、東サハリン海流の存在を示している。この東サハリン海流の輸送量は、4-9Svであり、夏から冬に増加する傾向を示す。この海流は二つの軸を持っており、一つはサハリン島沿岸50-150mを0.3-0.4m/sの流速で流れ、もうひとつは水深300-900m付近の大陸斜面沿いに0.2-0.3m/sで流れ、テルペニア湾付近(北緯48°付近)で東に向きを変える。ブイの軌跡は、千島海盆に多くの中期模渦が存在することを示している。ほとんどのブイはブッソール海峡から太平洋に流出している。
図4. ARGOSブイの軌跡(Ooshima et al., 2002)
図5. 粒子追跡モデルによる粒子の軌跡。
4-1-1 総観的な流れの場の比較
モデルの流れの場(図5)と比較すると、モデルの流れには東サハリン海流の岸沿いの流軸しか認められず、沖側の軸は認められない。これは二つの流れの性格の違いのためであろう。千島海盆については、モデルの粒子の軌跡では明瞭な反時計回りの循環が見られるが、アルゴス・ブイの軌跡に見られる中規模渦は見られない。これは部分的にはモデルが潮汐と潮流を含まないからであろう。
4-1-2 均速度および平均滞在時間の比較
図6に示した五つの小領域について、平均速度および平均滞在時間を比較した。19個の粒子をアルゴス・ブイとの比較のために、Ooshima(2002)と同一の地点から放流し、海洋モデルの出力から求めた16m深の日平均流速を用いて、1999年10月から2000年1月まで追跡した。
図6. 平均速度と平均滞留時間を比較するために選んだ小領域
4-1-2-1 東サハリン海流/収束域
この領域の流速の頻度分布(図7)は、アルゴス・ブイの平均流速は5-lOcm/sに最大頻度を持ち、それより早い流速に向かって次第に減少する傾向を示すが、40cm/sを超える流速も見られる。モデルの場合は、最大頻度は0-5cm/sの範囲にある。
図7. 東サハリン海流収束域における流速の頻度分布
平均滞在時間(表2)については、アルゴス・ブイの方がモデル粒子よりも長い滞在時間を示している。これは平均流速の頻度分布の比較結果と矛盾している。アルゴス・ブイの平均滞在時間を長くしているのは、図5にピンクと空色で軌跡が示されてブイによるもので、それらはカシェバロフ堆の位置の周りを何周も旋回する軌跡を示している。これらの軌跡は、カシェバロフ堆の地形に捕捉された潮流の存在を示すものと思われる。
4-1-2-2 東サハリン海流域/北部
この小領域では東サハリン海流が多くのブイを運んでいる。流れの方向は、アルゴス・ブイおよびモデル粒子ともに、南向きである。モデルではもっとも遅い速度レンジの頻度が卓越し、アルゴス・ブイでは最も速い流速レンジの頻度が卓越している。これらの極値を除けば、両者の頻度分布はほぼ一致している。(図8)
図8. 東サハリン海流北部における流速の頻度分布
流速の頻度分布と対応し、モデルに比べてアルゴス・ブイの平均流速は速く、滞在時間は短い。(表2)
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