III. 根室周辺の海況の季節変化
海洋情報研究センター:永田 豊
根室市水産研究所:博田 功・相川 公洋
既存の資料の解析
1. はじめに
根室近辺海域の海況の季節変化や経年変化の知識は、ハナサキガニの資源量や漁獲量の変化を解析する上で不可欠のものと思われる。しかし、この海域の冬季の気象条件が厳しいこと、冬季には漁業活動が少ないことなどのため、冬季の海洋観測は非常に限られている。例えば、根室市水産研究所では、ハナサキガニの篭の設置した海底近くでの水温の観測を実施しており、8点の観測点の深度は、5mから60mに及んでいる。しかし、過去における観測は、毎年4月はじめから9月終わりまでに限られている。そこで、一年を通しての季節変化を見るために、日本水路協会海洋情報研究センターがまとめたデータセットMODS2005 1)(ただしここで使用したのは主として旧版MODS2000)を利用して解析を行った。やはり、冬季の資料は非常に限られているが、ある程度の合理的な結果をえることが出来たので報告する。
2. データソースと解析方法
海洋情報研究センターでは独自に収集したデータと、日本海洋データセンター(JODC)や世界データセンターAのデータベースを利用し、独自に品質管理を加えて、西部太平洋域の海洋データベースを構築している。この中から北緯42.75Nから北緯44.2N、東経144.75Eから東経147.25Eの水温・塩分データを抜き取り、疑問のあるデータを削除し、重複データを削除した。さらに、データを標準層(0, 10, 20, 25, 30, 50, 75, 100, 125, 150, 200m等々)に内挿して、標準層データとした。しかし、深度の大きい層では、データ数が非常に限られていることから、解析は150m以浅を対象とした。観測点数は全部で2,612であり、1933年から1993年までのデータが含まれている。ここでは解析区域を図1で示すように15の海区に分割した。各海区の一辺は30分であり、各海区の西および南の境界上のデータはその海区に含めた。AIIの海区が根室沖であり、BIおよびBIIが根室水道に当たる。
図1. 解析した海域と区分海域
AIIを例にとって、それぞれの月、それぞれの10年毎に水温の測点数を示してある。年代分けは、1930年代(30s: 1930-1939)、1940年代(40s: 1940-1949)という具合に取った。選んだ15の海域の中で、各月についてのデータがそろっているのは、AIとAIIの二つの海域のみである。他の海域では、61年間の観測でデータ無しの月が、必ず現れることになる。特に冬季において測点数が非常に限られておいる。また、一般にデータの散らばりが大きく、水温の最大値と最小値の差が10℃を超す場合がしばしば生じている。
表1. AII海域での月・年代における水温の観測点数
NA-II |
30 |
40 |
50 |
60 |
70 |
80 |
90 |
total |
Jan |
4 |
1 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
6 |
Feb |
5 |
1 |
5 |
2 |
12 |
8 |
0 |
33 |
Mar |
4 |
0 |
5 |
0 |
0 |
36 |
0 |
45 |
Apr |
0 |
1 |
0 |
1 |
6 |
18 |
5 |
31 |
May |
0 |
5 |
3 |
4 |
0 |
33 |
7 |
52 |
Jun |
0 |
2 |
2 |
0 |
0 |
33 |
10 |
47 |
July |
2 |
3 |
0 |
9 |
6 |
34 |
2 |
56 |
Aug |
5 |
3 |
8 |
14 |
25 |
36 |
2 |
93 |
Sep |
6 |
2 |
5 |
2 |
12 |
72 |
12 |
111 |
Oct |
0 |
1 |
0 |
3 |
7 |
53 |
0 |
64 |
Nov |
2 |
2 |
3 |
2 |
0 |
4 |
0 |
13 |
Dec |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
2 |
0 |
2 |
total |
28 |
21 |
31 |
37 |
69 |
329 |
38 |
553 |
|
3. 季節変化
3-1. データの散らばり
それぞれの深さについて、解析期間について、水温と塩分との平均を月ごとに計算し、季節変化を求めた。結果の例として、AIとAIIでの0mの水温と塩分の季節変化を図2および図3にそれぞれ示す。この図には、各月で観測された最高値、最低値、およびm+3σとm-3σ(m: 平均値、σ: 標準偏差)もプロットしてある。m+3σとm-3σの値は、データ管理の際に、データの分布が大略正規分布するという仮定の下で、これらの値の外側に出たデータは、誤りであると考えて除外することが多い。最大値と最小値は、時によってこの値を僅かに超える値を取る。このこと自体、データ分布がかなり正規分布からはずれていることを示すが、データ分布の歪みを考えると、正常なものと考えるべきであろう。
図2. 海域AIの0m層の平均水温と平均塩分
図3. 海域AIIの0m層の平均水温と平均塩分
サンプル数が少ないと、通常は信頼度が落ちるのであるが、面白いことに得られた分散値は、データ数が少ない冬季において、データ数の多い夏季よりもかえって小さくなる傾向を示している。この傾向は、ここに示さなかった他の海区でも同様に見られる。このことは幸運であり、冬季のデータが少ないとはいえ、得られた季節変化は、ある程度の信頼性を持っていると考えることが出来ることを示している。
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