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II. ハナサキガニの漁業実態とカニかごの漁獲性能に関する研究
根室市水産研究所:長瀬 桂一
 
網目の異なるカニ寵で得た甲幅組成に関する調査
1. 目的
 ハナサキガニの異なる漁場の資源量を比較したり、それぞれの漁場におけるカニの甲幅(年齢)別の生息量を比較する必要性があるが、特性の明らかな標準的な籠を使って、カニを採捕しなくてはいずれの比較もできない。
 今後、標準カニ籠漁具を提案するにあたり、この調査では、網目サイズが採捕するカニの甲幅をどの程度選択するかを明らかにする。
 
2. 方法
(1)調査年月日
 平成17年6月10〜19日(実働10日間)
(2)調査場所
 根室市昆布盛地先の水深7mから15mの海域で4点。
 浜松地先の水深11mから16mの海域で5点。
(3)使用漁具・餌
 
Fig. 1 調査海域
 
Fig. 2
 
 根室市内の漁業者が『ハナザキガニかご漁業』で一般的に使用している籠。この籠の目合をA: 30mm、B: 60mm、C: 120mmの3種類にして調査で使用した。
 餌は、冷凍のサンマで1籠につき1〜2尾を餌袋に入れ使用した。
 
 
Fig. 3:  籠の配列 : Schematic diagram of setting method of the experimental gear.
 
(4)籠の設置方法
 A、B、Cの3種類の籠を1ブロックとし、各ブロック毎に籠の配列をランダムに配した。1回の調査でA、B、Cそれぞれ10籠、合計30籠使用した。
 籠の間隔はいずれの調査点でも約12mとした。
 設置時間は、一昼夜で、漁獲したハナサキガニは全て船上で雌雄を判別し、甲長、甲幅などを測定した。
 
3. 結果
 9回の調査で漁獲されたハナサキガニは、雄709尾、雌881尾、合計1,590尾であった。
 
Table 1 調査結果:Result of resarch
目合:Mesh size 30mm 60mm 120mm 全体:Whole
漁獲個体数
Catch number
雄:Male 242 247 220 709
非抱卵雌:Non brooding female 240 244 265 749
抱卵雌:Brooding female 41 37 54 132
合計:Total 523 528 539 1,590
最大(mm):Max. 甲長:C.L. 108 107 104 108
甲幅:C.W. 123 124 125 125
最小(mm):Min. 甲長:C.L. 60 59 66 59
甲幅:C.W. 68 66 77 66
平均(mm):Ave. 甲長:C.L. 83.2 83.2 83.5 83
甲幅:C.W. 94.3 94.3 95.1 95
籠数(籠):Number of pots 90 90 90 270
 
Table 2  目合、調査回別の漁獲尾数:Observed numbers by the time of research caught by exerimental fishing with different mesh size.
調査回 目合(mm):Mesh size 合計:Total
120 60 30
1回目 13 14 22 49
2回目 26 40 33 99
3回目 12 35 29 76
4回目 29 36 50 115
5回目 154 108 132 394
6回目 107 90 100 297
7回目 42 28 37 107
8回目 67 115 76 258
9回目 73 62 60 195
合計:Total 523 528 539 1,590
 
 調査回別では最多394尾、最少49尾であった。
 3種類の籠で甲幅66mmから125mmの範囲の個体が漁獲された。
 漁獲されたカニの平均甲幅は、表に示すように目合30mm及び60mmの籠の場合ともに94.3mmで、目合120mmの場合が95.1mmであり、3種類とも大きな違いはなかった。また、図に示すように、それぞれの籠の甲幅組成も大きな違いはなかった。
 
Table3  目合別の甲幅組成:Observed numbers by C.W. class of Hanasaki crabs caught by experimental fishing with different mesh size.
甲幅範囲(mm) 目合(mm):Mesh size
30 60 120
<66 0 0 0
66-68 0 1 0
68-70 0 2 1
70-72 0 1 0
72-74 0 3 3
74-76 0 2 4
76-78 2 2 0
78-80 4 3 4
80-82 5 5 9
82-84 10 14 13
84-86 17 23 24
86-88 34 33 33
88-90 41 58 43
90-92 46 44 49
92-94 69 65 76
94-96 64 62 75
96-98 57 46 36
98-100 46 37 45
100-102 41 37 30
102-104 22 22 30
104-106 26 24 26
106-108 8 11 15
108-110 12 9 7
110-112 6 5 2
112-114 5 8 7
114-116 4 5 3
116-118 1 2 0
118-120 1 2 0
120-122 0 0 3
122-124 1 1 1
124-126 1 1 0
126< 0 0 0
合計:Total 523 528 539
 
Fig.4 目合別の甲幅組成:Distribution of C.W.
 
 得られたデータを基に、母集団の分布型について一切の仮定を設けないノンパラメトリックな手法による検定を行った。
(1)漁獲尾数の差
 調査回及び目合における漁獲尾数についてFriedman検定を行った。
a 調査回間の検定
H0: 調査回間で漁獲尾数に差はない。
H1: 調査回間で漁獲尾数に差がある。
計算された統計量は
χ2r = 21.69 であった。この値は自由度8のχ2分布に近似できる。
χ2r = 21.69>χ2 (P = 0.05,d.f. = 8) = 15.51
χ2r = 21.69>χ2 (P = 0.01,d.f. = 8) = 20.09となり、H0は棄却されH1が採択された。
b 目合間の検定
H0: 目合間で漁獲尾数に差はない。
H1: 目合間で漁獲尾数に差がある。
計算された統計量は
χ2r = 0.22 であった。この値は自由度2のχ2分布に近似できる。
χ2r = 0.22<χ2 (P = 0.05,d.f. = 2) = 5.99
χ2r = 0.22<χ2 (P = 0.01,d.f. = 2) = 9.21となり、H0を棄却できない。
 9回の調査回間では漁獲尾数に差があるが、3種類の目合間では漁獲尾数に差があるとはいえない。
(2)甲幅組成の分布形の違い
 目合別の甲幅組成について分割表にまとめた結果を基に、χ2独立性の検定を行った。
H0: 各群の分布の形は等しい。
H1: 各群の分布の形は異なる。
計算された統計量は
χ2 = 52.04 であった。この値は自由度58のχ2分布に近似できる。
χ2 = 52.04 < χ2 (P = 0.05,d.f. = 58) = 76.78
χ2 = 52.04 < χ2 (P = 0.01,d.f. = 58) = 85.95となり、H0が採択された。
 各群の分布の形は異なるとはいえない。
 
 以上の結果から、9回の調査それぞれでは漁獲尾数に差があるが、今回使用した30mmと60mm及び120mmの目合では漁獲尾数に差が認められなかった。
 また、30mmと60mm及び120mmの目合の籠で漁獲された漁獲物の甲幅組成の分布形にも差が認められなかった。


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