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タラバガニ
 現在南千島におけるタラバガニの成体の個体数は著しく減少してしまった。
 タラバガニのゾエアIIは、5月に表層で水平プランクトンネット引き調査をした際に、北緯48度45分、東経140度30分、水深が108mで、表層水温が+0.6℃の調査地点で数サンプル捕獲された。
 全体として過去これまでのデータと比べて、タラバガニの幼生の個体数は大変低くなっている。これは、個体数が低いため、再生産のサイクルが損なわれた結果だといえる。
 
ケガニ
 2005年5月、ケガニのゾエアは、水深20〜136mの捕獲調査点全体のうち、36%の場所で見られた。幼生の分布海域の表面水温は、+0.8℃から+2.9℃(平均水温1.2℃)までにわたり、塩分濃度は32.4〜32.8‰の幅があった(表3参照)。
 
 幼生の最大集積密度(6サンプル/m2)は南千島海峡の中央部と北部で見られ(北緯43度55分〜44度20分の水域)、水深は32〜136mで水温が+0.9から+1.2℃まで、塩分濃度は32.7‰(図8)であった。幼生の大半はゾエアIの段階にあって、発達指数は1.4だった(表4参照)。
 
図8.  2005年5月の南千島におけるケガニの幼生の分布(サンプル/m2
 
 二回目のプランクトン調査の期間、ケガニの幼生は発見されなかった。おそらくハナサキガニと同様に、この種の幼生も大半が7月の始めまでに着生していたのだろう。
 
クリガニ
 A.K.クリチンが1998〜1999年に得たデータ(クリチン2002年)と比較すると、クリガニの幼生の個体数は増加した。
 2005年5月のこの種のゾエアは水深13〜101mの捕獲調査点全体のうち、76%の場所で見られ、表面水温は、+0.8℃から+4.3℃(平均水温1.8℃)まで、塩分濃度は32.2〜32.8‰(平均32.5‰)だった。平均集積密度は63サンプル/m2表3参照)。
 最大捕獲(1,350サンプル/m2)は、国後島の沿岸の、北緯43度57分、東経145度50分、水深が31mで表層水温が+2.6℃、塩分濃度は32.3‰のところで得られた(図9)。幼生の全体の83%がゾエアIIの段階にあり、幼生の発達指数は1.9だった(表4参照)。
 2005年7月の初め、メガロパの段階にあるクリガニの幼生は、水深27〜64m、水温が+6.9〜9.2℃、塩分濃度が32.4〜33.1‰のところでみられた(表3参照)。プランクトン中にメガロパがいることから、幼生の着生プロセスが活発に進行中であることが裏付けられる。
 最大捕獲(10サンプル/m2)は、色丹水道の北緯43度49分、東経146度26分、水深が57mで表層水温が+6.9℃、塩分濃度は32.9‰のところで記録された(図10)。メガロパの平均集積密度は、5サンプル/m2以下だった。
 
図9.  2005年5月の南千島におけるクリガニのゾエアの分布(サンプル/m2
 
図10.  2005年7月の南千島におけるクリガニのメガロパの分布(サンプル/m2
 
 この種のメガロパの分布は、水深100mの等深線のラインまでで限られていた。その最大平均集積密度(7サンプル/m2)は水深57〜64mの範囲で見られ、ここはあらゆる点から見て、彼らの着生が行われている場所だと言える。(図11)
 
図11.  クリガニおよびオオズワイガニの幼生の水深ごとの平均集積密度
 
オオズワイガニ
 オオズワイガニのメスの産卵と幼生の発達は、他の種に比べて遅い時期に行われる。よって、5月にはゾエアI段階の幼生は、唯一、北緯43度55分、東経146度41分、水深が86mで表層水温が+1.1℃、塩分濃度は32.8‰のところで見つかっただけだった(表3参照)。
 
図12.  2005年7月の南千島におけるオオズワイガニの幼生の分布(サンプル/m2
(×印でゾエア1が5月に捕獲された場所を示した)
 
 この種のカニの幼生は、第二回目の捕獲調査の時には最も広範囲で見られた。幼生の最大の集積密度(18サンプル/m2)は、南千島海峡の北部(北緯44度10分、東経146度38分)で、水深が140m、表面水温が+11.2℃、塩分濃度は33.4‰のところで得られた(図12)。平均集積密度は7サンプル/m2以下だった。幼生の中で量的にはゾエアIが優勢を占めた。幼生の発達指数は1.4だった(表4参照)。
 オオズワイガニの幼生が見られた場所の水深の幅は、他の種と比べて最も大きく、20〜240mにわたった。平均集積密度(12サンプル/m2)は、水深100〜140mの所で最大となった(図11参照)。
 
参考文献
1)プランクトン標本の数的方法による処理の手引き. イルクーツク大学, 1978.-44c.
2)海洋プランクトンの採集と第一次処理の手引き-ウラジオストクTINRO, 1980. -45c.
3)クリチンA.K. 1998、1999年南千島列島の漁獲対象カニの幼生の分布.//TINRO報告-2002.- T.131.-C.266-283.
4)マカロフR.R. 西カムチャッカ大陸棚のエビ、ヤドカリ、カニの幼生とその分布-M.: ナウカ, 1966. -164c.
5)ヤシノフV.A. プランクトンの採集と処理の手引き-M.: VINIRO, 1934. -43c.
6) Kurata H. The larval stages of Paralithodes brevipes (Decapoda, Anomura) //Bulletin of Hokkaido Regional Fisheries Research Laboratory. -1956. -Nl4. -P. 25-32.
7) Kurata H. Larvae of Decapoda Crustacea of Hokkaido 1. Atelecyclidae (Atelecyclinae) //Bulletin of Hokkaido Regional Fisheries Research Laboratory. -1963a. -N27. -P. 13-24.
8) Kurata H. Larvae of Decapoda Crustacea of Hokkaido 2. Majidae(Pisinae) //Bulletin of Hokkaido Regional Fisheries Research Laboratory. -1963b. -N27. -P. 25-31.
9) Sato S. Studies on larval development and fishery biology of king crab, Paralithodes camtschatica (Tilesius)//Bulletin of Hokkaido Regional Fisheries Research Laboratory. -1958. -N17. -P. 1-102.


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