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2.3 造波特性
2.3.1 造波波高の分布
 観測部全体に造波された波の特性を得るため波高計トラバーサーを水槽の幅方向に移動させ波高等の計測を行った。
 波高分布の計測結果の一例をFig. 5に示す。上図が等高線図で、上端は側壁位置、下端は水槽中央である。図には計測位置30(側壁近傍)、547(標準位置)、900(水槽中央)mmをそれぞれ点線、実線、一点鎖線で示してある。下図は上記3計測位置における波振幅を示し、各線種は上図中に示した計測位置のそれに対応させてある。横軸は造波板後端からの距離である。これらから波振幅は観測部全体ではほぼ一定であるが、側壁近傍の特に下流域で中央部の波高の1.5〜2倍と大きくなっていることがわかる。しかし、模型試験を実施する観測部上流域の中央部及び水位計測基準位置(等高線図中実線)ではほぼ一定の波高が得られており波浪中実験には影響がないと考えられる。
 
Fig. 5  Distribution of wave height and equi-phase lines
(Δh=0.5mm, 0.990m/s, 3.0Hz, 1/40)
 
 等高線図にはある瞬間における波の谷や山を結んだ線(同位相曲線)を示してあり、側壁近傍の下流域で波の準行に遅れが生じていることが分かる。この遅れの発生原因は波動のオービタルモーションと側壁の粘性効果などによると考えられ、先に述べた波高増大の一因として考えられる。この波の遅れは観測部上流域及び波高計測標準位置には無いようであり、やはり波浪中試験には影響がないと思われる。
 
2.3.2 平均水位
 造波時の平均水位の変化の一例をFig. 6に示す。これは極端に悪い場合であるが平均水位が流れ方向に波打っていることがわかる。他のほとんどの場合にはこれほど悪くなく模型設置位置付近では1〜2mmの変化に留まるが、図の場合では両振幅は5mm程度である。造波を実施していない定常状態で発生する回流水槽特有の定在波の振幅が1mm以下であるのと比較してかなり大きい値である。その波長を見てみると定常状態の定在波の波長とも異なっているので、定在波が増幅された波ではない。この波の発生原因は不明であり、その減少方法とともに今後の検討課題である。
 
Fig. 6  Distribution of mean water level
(Δh=0.5mm, 0.990m/s, 3.0Hz, 1/40)
 
2.3.3 波の歪率
 造波した波形が正弦波から歪んでいる場合がある。その程度を見る指標として歪率δなる量を導入し検討を行った。標準位置における計測点xiでの計測波形をη(xi,t)とし以下のフーリエ級数展開により高次の項を求めておく。
 
 
 各計測点における歪率δxiを次の式で定義する。
 
 
 さらに、各点xiで求めたδxiの平均値を求め歪率δとした。歪率は、α2波のみの正弦波形なら0になり、高周波成分を含むほど大きくなる。
 歪率が大なる場合の波高の一例をFig. 7に実線で示す。横軸は時間、縦軸は各計測点(xi)における波高である。フーリエ級数展開した1〜3次の項を破線にて示す。図中にα2波の位相速度を一点鎖線で、周波数2ωのα2波のそれを破線(共に直線)で示した。
 全実験状態における歪率の計測結果をFig. 8に示す。高速、あるいは、波高/波長比が大になると歪率が大となる傾向があり、高速で波高/波長比を半減させると歪率は約2/3に減少していることが分かる。従って、波高/波長比が小さい領域で模型試験を行うことが望ましいといえる。歪率が大となる原因は、Fig. 7からも分かるように高周波成分が大きいためであり、特に2ωの成分の波が大きいことがわかる。この波の位相速度はFig. 7の二点鎖線と一致し、周波数2ωのα2波であることが確認できる。
 その発生原因は造波装置の機構上、造波板の運動が複雑になるためと予想されたので、造波板の運動のシミュレーションを行った。その結果、造波板の傾き及び端点の上下方向運動はほとんどsinωtの正弦状であり、3ωの成分が少し乗るだけであった。α1波波無し条件が理論値と位相差を除いてほとんど一致するのはこのためであろう。しかしながら造波板端点の水平方向運動は2ω成分が主であり、この運動が2ωのα2波を造波する主要因と思われる。
 この2ωのα2波を消去するためには2ωのα1波波無しとなる逆立相のα2波を造波すればよいはずである。上の条件を同様な実験により求め、造波装置の信号に重畳させて実験を行った結果、2ω成分の波動はかなりの程度除去することに成功したが、今度は3ω成分の波が大きく現れたのでこの試みを断念した。従って、2ω成分のα2波除去はかなり困難なことが伺える。むしろ、2ω成分波を残したまま、ω成分、2ω成分の波動中の諸量の周波数分析を行うことにより、2成分の周波数の応答が同時に計測できると考えた方が建設的である。
 以上の波振幅、平均波高分布、歪率などの計測結果より、回流水槽における造波性能はまだいくつかの問題はあるものの、模型の波浪中試験を行うには十分に耐えうるものと考えられる。
 
Fig. 7  Wave profile and its Fourier expansion
(0.990m/s, 3Hz, 1/40)
 
Fig. 8 Distortion factor


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