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回流水槽用造波機による造波実験と高速艇の波浪中試験
正員 佐藤信一*  正員 鈴木勝雄*
 
* 防衛大学校
原稿受理 平成17年3月18日
 
A wave maker for a circulating water channel and experiments for a high-speed boat in head waves
by Shinichi Sato, Member
Katsuo Suzuki, Member
 
Summary
 A wave maker for a circulating water channel is newly designed and constructed and its wave making properties are reported. The characteristics obtained experimentally for the cases of 5 velocities and 4 frequencies are good for unsteady model test in head sea. Some following problems are pointed out. The amplitudes of the generated waves increase near the side walls and the distortion factors of the waves are large in some cases. Model test for a planning boat is also performed in regular head waves caused in the circulating water channel and the obtained results for the increase of resistance and the motions in waves are shown to be good. Some results are different with that for displacement type of ships, for example the added resistance may be in proportion to the amplitude of incident wave at high speeds. The unsteady wave pattern analysis can be performed more easily and in a shorter time compared with in a long tow tank.
 
1. 序論
 船舶が静水中を航行するときの抵抗は模型試験結果を外挿して求めており、試験は曳航水槽で行うのが普通であるが、最近では性能の向上した回流水槽を使うことも多い。しかし、波浪中の動揺性能や抵抗増加などを計測する場合は造波装置を備えた角水槽や曳航水槽に限定され、いまだ回流水槽が使われることは無かった。これは、一様な流れのある回流水槽の水面に、任意周期の単一進行波を生成することが従来困難であったことに起因している。一様流中に動揺する物体を設置するとFig. 1に示すような4種の波長の進行波が発生して、一般には単一進行波を得ることができないからである1,2)。しかしながら、4種の波のうち3種を発生させずに、ただ1種の波すなわち単一進行波が生成できるならば、回流水槽において非常に簡便に波浪中の実験が実施可能となる。回流水槽における実験は模型の大きさや水面流の一様さなど長水槽に較べ精度の面で劣る点もあるが、水路に終端が無いため測定を長時間連続的に実施可能であり実験も手軽に実施できる等の利点がある。なお、通常の模型試験を行う状態(フルード数0.2以上、波長/船長比3以下)ではβ1,2波は発生しないのでα1波のみを消せばよい。
 
Fig. 1  Waves generated by an oscillating object in a uniform flow
 
 回流水槽水面に単一進行波を造波する試みは古くからある。その中で特にWadaら3)は本論に先立ち、回流水槽特有の定在波という空間固定の波動を軽減させる装置の一つである制波板を動揺運動させ、その動揺形態(上下揺と縦揺の組合せ)を制御することにより造波を試みており、小型回流水槽(いわゆるパソタン)内においては単一進行波の造波が可能であることを実験的に得ている。しかしながら、実際に波浪中の模型試験を実施するには小型回流水槽では無理があり、大型回流水槽にて造波を行わなければならない。本論では小型回流水槽における造波装置に関する上述の経験を踏まえて新たに大型回流水槽用造波機を設計、製作し、大型回流水槽における単一進行波造波を試み、同時に造波された波の性質として、波振幅分布、平均水位分布、歪率などについての検討を行った。
 今回設置した造波機により回流水槽中において単一進行波の生成が可能となり波浪中試験が可能となったので、次に応用実験として高速艇の波浪中試験を行った。波浪中における抵抗増加や姿勢変化等の波浪が高速艇に与える影響を調べるため定常流(平水)中及び波浪中の比較試験を実施し、通常の排水量船舶の性能と異なる場合があることなどを得た。最後に、動揺しながら前進する船の抵抗増加を船の作る波を計測して求める波形解析を実施した。
 
2. 回流水槽における造波実験
2.1 回流水槽における造波の試み
 回流水槽に造波を試みたのは知る限りでは田古里らが最も古い。田古里ら4,5)は回流水槽の水流中に没水させた板を動揺させることにより、回流水槽に波を発生させることが可能であることを実験的に示した。しかし、造波された波の特性の解明までには至っていなかったようである。その年代の前後に他の人々も種々の検討を行ったようであるが報告例はない。
 柏木ら2)は回流水槽に単一進行波を生成させる方法について最初に具体的に提案を行っている。一様流中で2次元没水楕円柱を上下揺、縦揺させたとき、その運動を制御することによって単一進行波を得ることができること及びその条件が理論的、数値的に求められている。また、Bessho6)は回流水槽に2つの水中翼をタンデムに配置して、各々の縦揺モードを制御することにより単一進行波を生成する方法について提案を行っている。しかしながら没水体を造波機とするには種々の難点がある3)
 回流水槽には定在波という空間固定の波動が存在することが知られており、定在波を軽減させるために、水位(水量)の調整と合わせて、制波板と呼ばれる吹出し口に設置した板状のものの角度等を調整することが行われている7)。この制波板を動揺させることにより造波が可能であるなら、没水体に関する問題は回避できる。
 制波板の動揺による造波を初めて具体的に検討したのは関野ら8)である。関野らは制波板の動揺振幅が小であるとして、滑走艇に関する理論9)のうち2次元線形動揺滑走板理論10)を用いて、制波板の動揺により発生する波動の解析を行っている。
 次に、Wadaら3)は関野の装置を改良し、制波板を上下揺、縦揺を組み合わせた動揺を可能とする装置を作製した。しかし、Wadaらの実験では、単一進行波に到達するためには、理論から得られる動揺の組み合わせを出発点としても実験的に何度も繰返し補正する必要があった。これは装置の機構上、制波板の運動が制限されていることに起因すると考えられた。このため、実際の制波板の運動と理論で想定した運動とに差異が生じ非線形の効果が大きく作用し、また、制波板の上流側にある可撓シート前端が前後に運動してしまい何らかの造波作用を引き起こしている可能性があることが考えられた。
 そこで今回は造波板の運動を理論で想定した運動により近いものとすること、すなわち、制波板上流側の可撓シート前端を回流水槽吹き出し口に固定して前後運動を抑制し、その部分からの造波をなくすような造波板の拘束方法とした11)
 
2.2 大型回流水槽用造波機による造波実験
2.2.1 実験装置と実験状態
 造波装置を設置した回流水槽の大きさは、長さ×幅×高さ=13.5×1.8×6.0m、観測部は、長さ×幅×水深=5.0×1.8×1.0mであり、最大流速は2.5m/sである。また、水位を調整する装置としてリザーブタンクを有している。
 
Fig. 2  Wave making apparatus for a circulating water channel
 
 今回新たに設計製作した造波機の概観をFig. 2に示す。サーボモーターは上下流側各々2台、計4台を使用しており、上流側、下流側のモーターはそれぞれ同期して回転運動する。造波板(長さ60mm)はクランクにより上下流側各々のサーボモーターに連結されている。このサーボモーターの回転運動(半径22.5mm)により造波板を任意の上下揺、縦揺を組み合わせた動揺状態で運動させることができる。造波板上流側の可撓シート(塩化ビニール、厚さ1.5mm、長さ60mm)は回流水槽吹き出し口で固定し、制波板上流での流れの剥離を防ぐようにしてある。
 造波機制御部に入力できる情報は前後サーボモーターの中立位置(動揺中心位置)、動揺周期、上下流側各々の動揺振幅(Af,Aa)、上下流側のモーターの運動の位相差(ε)であり、動揺振幅、位相差は造波中であっても変更可能となっている。
 造波実験を行う前の段階として、回流水槽に特有のいわゆる定在波を減少させる作業を行っている。定在波は水位(水量)及び制波板(造波板)の角度の調整により相当程度(波高1mm以下)に減少させられることが判っており7)、各流速における定在波最少となる条件を求めておき、その状態で造波実験を行っている。
 造波実験状態をTable 1に示す。流速5種×周波数4種の計20状態について、与えられた波高/波長比のα2のみの波を得ることを目的としている。
 
Table 1 Experimental conditions for making α2-wave
流速 周波数
0.526(m/s) 1.5Hz 3Hz 4Hz 5Hz
0.729(m/s)
0.990(m/s)
1.298(m/s) 2Hz
1.549(m/s)
波高/波長比 1/80
1/160
1/40
1/80
 
2.2.2 α1波波無し状態の実験的実現
 α1波波無しとなる造波板の動揺形態を2次元線形動滑走板理論により求め造波を行った3)。この理論条件は比較的良好な結果を与えたが、そのままではα1波の成分がかなり大きく残る。このため、理論値から少しずらした状態で再度造波実験を行い、これらの波をα1、α2波に分離し、α1波波無し状態となる動揺形態を解析的に求める。これらの補正を繰り返すことによりα2波のみとする造波実験を行った12)
 α2波のみの造波に成功した場合の解析に用いた図の例をFig. 3に示す。図中黒丸は造波板下流x(m)の位置で計測した波動の振幅を示している。α1波が消滅していれば一定値となりビートしない。造波板の運動と波動との位相差の計測直を+印にて示す。α1波が消滅していれば直線となる。図中振幅の小なる正弦波は分離されたα1波のある時間における波形の解析値を示す。振幅の大きな正弦波はα1、α2波の合成された波の各時間毎の波形の解析値を示す。ほとんどα1波が消滅していることがわかる。
 
Fig. 3  Beat of amplitude and phase angle for α1-wave free condition
(0.990m/s, 3.0Hz, 1/40)
 
2.2.3 α1波波無し条件の実験結果及び理論との比較
 このように理論的に求めたα1波波無し条件から出発し数回の繰り返し補正をすることにより、全20状態についてα1波波無し状態を得た。なお、α1波波無し状態とは便宜上α1波とα2波の波高比が5%以下であることとした。
 各流速について、実験的に得たα1波波無しの条件である造波パラメーターの1例をFig. 4に理論値と比較して示す。理論値と実験による補正値は高速、低周波数域を除けば比較的よい一致を示している。これは、本造波機による造波板の運動が線形理論のそれにかなり即したものとなっているためだと考えられる。また、繰返し実験回数も2、3回と前装置3)に比べ少ない回数とすることが出来た。
 
Fig. 4  Amplitudes of fore and aft cranks and phase difference for α1-wave free condition (0.990m/s)


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