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4. 波浪中動揺試験
4.1 供試模型船
 船上に搭載した時のARTの横揺れ減揺効果に及ぼす左右揺れの影響を調べるために,鹿児島大学の漁業練習船“かごしま丸”の1/40縮尺模型を用いて,規則的横波中での動揺試験を行った.模型船の主要目はTable 2の通りである.また,ART模型の搭載位置を記載した模型船側面図および正面線図をFig. 15およびFig. 16に示す.
 ART模型内の水の重量は船の排水量の3%とし,ビルジキールは無しの状態で,横揺れ,左右揺れ,縦揺れおよび上下揺れを自由とした.
 
Table 2 Principal particulars of the model
Items Actual ship Model
Scale 1 1/40
Lpp(m) 62.000 1.550
B(m) 12.600 0.315
D(m) 9.000 0.225
Dm(m) 4.800 0.120
GM(m) 1.200 0.030
KG(m) 4.800 0.121
LCG(m) -1.860(aft) -0.0478(aft)
Cb 0.575 0.575
 
Fig. 15 Profile of ship with ART
 
Fig. 16  Body plan of ship with ART in high and low location
 
4.2 実験結果
 船の横揺れ固有周期T0SとARTの固有周期T0ARTの比を変化させるために,船の横揺れ固有周期が,ARTの固有周期と同じ場合(T0S/T0ART=1),ARTの固有周期より長い場合(T0S/T0ART=1.2),ARTの固有周期より短い場合(T0S/T0ART=0.9)の3通りに変化させ,ARTの減揺効果を調べた.また,比較のためにARTを搭載していない状態での横揺れをストリップ法(横揺れ減衰力の推定は池田らの方法6))で計算も行った。
 Fig. 17に,船の横揺れ固有周期とARTの固有周期と同じ場合(T0S/T0ART=1)の結果を示す.横揺れ同調付近において,ARTが40%近い減揺率を示すことがわかる.図を詳細に見ると,周波数ω/ω0が0.85付近においてART作動時に横揺れ振幅が小さなピークを持っているが,これはART内の水が左右揺れによって大きく揺れる周波数に対応しており,左右揺れ振幅の影響が出たものと思われるが,その影響は極めて小さい.また,ARTが効果のある周波数域は固有周期の±15%に限られていることがわかる.
 Fig. 18に,船の横揺れ固有周期がARTの固有周期より20%だけ長い場合(T0S/T0ART=1.2)の結果を示す.この場合には,同調時の減揺率が52%となっており,Fig. 17に示す船とARTの固有周期が一致した場合よりも高い減揺効率が得られている.減揺効果が現れる周波数域は船の固有周期を中心に±15%とFig. 17に示す結果と変わらないが,高周波数側の減揺効率が高くなっている.
 Fig. 19に,船の固有周期がARTの固有周期より10%だけ短い場合(T0S/T0ART=0.9)の結果を示す.同調時に27%の減揺効果となっている.
 ARTの固有周期を減少させるために内側のタンクを停止したARTMの状態にした結果も示している.この場合,ARTの固有周期は船の固有周期にかなり近いが(T0S/T0ART=095),タンクの水線面が減少したこともあってARTLの時の減揺効果とあまり変わらない結果となっている.
 
Fig. 17  Roll amplitude of model ship with and without ART in beam seas when natural periods of ship and ART are same (T0S=T0ARTL=1.17sec)
 
Fig. 18  Roll amplitude of model ship with and without ART in beam seas when natural period of ART is smaller than that of ship (T0S=1.28sec, T0ARTL=1.17sec)
 
Fig. 19  Roll amplitude of model ship in beam seas (T0S=1.05sec, TOARTL=1.17sec, TOARTM=1.0sec)
 
 以上の実験結果より,ARTの固有周期を船の横揺れ固有周期より若干短くした方が,高いARTの減揺効果が得られることが確認できた.この事は,左右揺れの影響によって,ARTの固有周渡数より低周波数領域において横揺れ減衰力が増加するという本論文3章での結論と符合している.
 
5. ART特性への考察
 ARTについては,横揺れ軽減についてはかなりの効果があることが確認されているものの,不自然な横揺れを行うことに対する不快感や,比較的穏やかな海象において予期せぬほどの横揺れが発生することがあるなどが報告されている.
 これらの原因として,本研究で調査した左右揺れの影響の可能性があるかどうかについて以下に若干の考察を行った.
 まず,本論2.3節で得られた,左右揺れに伴ってART内の水が運動することによる横揺れモーメントによって誘起され得る横揺角を求めた.その結果,排水量843トンの船で,GMが1.5mと仮定した場合,1.54dcg程度の横揺れとなることがわかった.ただし,この時の左右揺れ強制試験における振幅は30mm,すなわち実船ベースでの左右揺れ振幅は1.83mに相当する.実際の海域においては,200m程度の波長の長いうねりの中を斜め向波状態で,20ノット程度で航行する場合,もしくは高速船の曳き波を受ける場合には,波による横揺れに加えて,左右揺れの影響でARTによって誘起される横揺れが加わり,横揺れが予想以上に大きくなる状況が発生する可能性があることがわかった.
 
6. 結言
 アンチローリングタンク(ART)の横揺れ減揺性能に及ぼす左右揺れの影響について実験的に研究し,次の結論を得た.
1)船体の左右揺れによってART内の水が運動し,それが横揺れを誘起する可能性がある.特に,横揺れが相対的に小さくなった時に顕著となる.
2)船体の左右揺れがARTの横揺れ減揺効果に大きく影響し,ARTの左右揺れ固有周波数より低周波数域側では横揺れ減衰力を増加させ,高周波数域側では減少させる.
3)左右揺れの影響によって,高周波数域において負の横揺れ減衰力,すなわち横揺れ強制力が発生することがある.
4)横揺れおよび左右揺れの連成運動するART内の水の運動は,横揺れおよび左右揺れの単独運動時の結果を線形重ね合わせすることによって概略推定できる.
5)左右揺れの影響を考慮して,ARTの固有周期を船の横揺れ固有周期より若干短い周期に設定する方が大きな減揺効果が得られる.
 
 本研究は,アンチローリングタンクを製造するスタビロ(株)との共同研究の一環として実施されたことを記し,松村社長他関係各位に感謝する.また大阪府立大学大学院の片山講師には実験および解析にあたっての指導を頂いた.心から感謝する次第である.
 
参考文献
1)池田良穂, 芳山朋史(1991), “アンチローリングタンクに関する研究”, 関西造船協会誌, pp.111-119
2)Lloyd, A.R.J.M. (1998) "Seakeeping: Ship Behavior in Rough Weather", pub. by Lloyd, pp.258-269
3)Park. L, Yang, J. & Shin, H. (2004) "Roll Motion Reduction Devices for Harsh Environmental FPSOs," Proc. of 14th ISOPE, Toulon, pp.682-686
4)渡辺恵弘(1973), “Anti-Rolling Tanksの理論に就て”、渡辺恵弘先生講義集, 第I巻, 日立造船株式会社編集, pp.334-348.
5)渡辺四郎(1969), “動揺軽減法−減揺水槽その他”, 耐航性に関するシンポジウム(日本造船学会)テキスト, pp.156-179
6)池田良穂(1984), ”横揺れ減衰力”, 運動性能研究委員会・第1回シンポジウム(日本造船学会)テキスト, pp.241-250


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