2.4 横揺れ・左右揺れ連成強制動揺試験
ARTの横揺れ減揺効果に対する左右揺れの影響を明らかにするために,ART模型の横揺れ・左右揺れの連成強制動揺試験を行い,ART内の水の運動を計測し,その結果から横揺れ減衰力を求めた.
まず,ARTの横揺れと左右揺れ運動と,両ウィングの水位差hrsを次の通りに定義した.
本連成強制動揺試験では,横揺れ振幅を6.4°,左右揺れ振幅を30mmとし,横揺れと左右揺れの位相差εγ-εsは0,-π/2,-πの3つに変化させた.-π/2の場合は,ちょうど船体が波浪中で横揺れ同調している場合に相当し,0は同調の場合よりも低周波数,πは高周波数の場合に相当する.
Fig. 8,Fig. 9に両ウィングタンク内の水位差振幅および,水の運動と横揺れとの位相差を示す.水位差振幅はεγ-εs=-π/2,-πの場合,周波数が増加するにしたがって減少する.しかしεγ-εs=0の場合においては,ω/ω0=1付近の周波数において最小値をとり,周波数が増加するにしたがって振幅は増加している.この振幅が増加する高周波数域においては,Fig. 9に示す位相差が270°前後となっている.すなわち,ウィングタンク内の水の運動は,左右揺れの影響により,周波数の高いところで低周波数の場合とは反対称となっている.このことは,左右揺れによって高周波数領域で負の横揺れ減衰力が発生することを意味している.
Fig. 8 |
Amplitude of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll-sway coupling test. |
Fig. 9 |
Phase difference between sway motion and motion of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll-sway coupling test. |
Fig. 10に連成強制動揺試験と横揺れ強制動揺試験によって得られた横揺れ減衰係数の結果の比較を示す.連成時のARTによる横揺れ減衰力は,ω/ω0=1より低周波数領域で横揺れ単独時のものとほぼ一致しているが,ω/ω0=1より高周波数領域では減少している.特に,εγ-εS=0の場合,高周波数領域における減少が大きく,負の値になっている.このことは,ARTの中の水は,横揺れ減衰力としてではなく,逆に動揺を大きくする,すなわち一種の強制力として働く可能性があることを意味している.
Fig. 10 |
Roll damping coefficient obtained by water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll-sway coupling test. |
3. 連成時におけるARTによる減揺効果
3.1 線形重ね合わせによる推定
横揺れと左右揺れとの連成運動をする場合のART内の水の運動が,2.2節および2.3節で述べた横揺れ試験と左右揺れ試験で得られた水の運動の線形重ね合わせで求めることができると仮定すると,下式で連成時の水の運動hrsが推定できることとなる.
ここで,hra**およびhrs**は,横揺れ試験および左右揺れ試験で得られた左右ウィングタンクの水位差を,φaおよびyaを用いて正規化した無次元振幅であり,εr-εsは横揺れと左右揺れの位相差を表す.またlmはW/2である.この時,連成時にARTが発生する横揺れモーメントの減衰力係数B44は,左右ウィングタンクの水位差によって発生する重力モーメントから,
で表される.
この線形重ね合わせの有効性を確かめるために,推定式に左右揺れ・横揺れ強制動揺試験で得られた水位差・位相差を代入し,連成運動時の横揺れ減衰力を求めた.さらに,連成運動の強制動揺試験で得られた結果と比較することにより,推定式の妥当性を検討した.
3.2 実験値との比較
Figs.11〜13に,横揺れと左右揺れの位相差を,εr-εs=0,εr-εs=π/2,εr-εs=-πと変化させた場合の連成試験の実験値と推定式による計算結果との比較をそれぞれ示す.
Fig. 11に示すεr-εs=-πの場合には,運動周波数の増加と共に横揺れ減衰力が減少する傾向はよく合っているが,左右揺れ時にART内の水が激しく運動するω/ω0ART=0.84付近でのピークが連成運動試験の結果には現れていない.これは,横揺角があることによって左右揺れ試験のような水平振動時の水の激しい運動が抑制されたためであると思われる.このピーク付近を除くと,定量的にも両者は比較的よく一致している.
Fig. 12に示すεr-εs=-π/2の場合には,定性的にはよく一致する結果が得られている.ただし,高周波数域における横揺れ減衰係数の減少は,推定値の方が急で,定量的に若干の差異があることがわかる.
Fig. 13に示すεr-εs=0の場合,上述の2つのケースに比べると一致度が最も悪い.ただし,注意深く見ると,Fig. 11に示すケースと同様に,左右揺れ試験時に水が激しく揺れる周波数での傾向を除くと,推定値は実験値と定性的にはよく似た傾向を示していることがわかる.
以上の推定値と連成実験値との比較から,横揺れ試験および左右揺れ試験の結果を線形重ね合わせして求めた連成時の推定値は,左右揺れ試験において水の激しい運動が現れた付近の傾向を除くと,連成時のARTによる横揺れ減衰力を定性的にも定量的にもよく表すことができている.
Fig. 11 |
Comparison between estimated and experimental results of roll damping created by ART in roll-sway coupling motion atεr-εs=-π |
Fig. 12 |
Comparison between estimated and experimental results of roll damping created by ART in roll-sway coupling motion atεr-εs=-π/2 |
Fig. 13 |
Comparison between estimated and experimental results of roll damping created by ART in roll-sway coupling motion atεr-εs=0 |
3.3 横揺れ減衰力への左右揺れの影響
横揺れと左右揺れの位相差εr-εs=-π/2の時のARTによる横揺れ減衰力が,左右揺れ振幅の変化に伴ってどのように変化するかを,前節までに述べた方法で推定した結果をFig. 14に示す.この結果から,横揺れ減衰力に及ぼす左右揺れの影響が,無次元周波数ω/ω0=0.75を境に逆転していることがわかる.すなわち,この周波数より高周波数においては,左右揺れがARTによる横揺れ減衰力を減少させ,その減少量は左右揺れ振幅の増加に伴って増加する.また,この周波数より低周波数域においては,左右揺れがARTによる横揺れ減衰力を増加させることがわかる.この逆転の境となる無次元周波数は,左右揺れ試験において位相差εsがπ/2となる周波数,すなわち,左右揺れ時のART内の水の運動の同調周期に一致している.また,横揺れ振幅と左右揺れ振幅との比率がARTの減揺効果に大きく影響することがわかる.
Fig. 14 |
Estimated result of effects of sway amplitude on roll damping created by ART |
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