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3. ヒューマンモデルによる身体負荷解析
3.1 解析方法
 ここでは,潮が引いた状態でカーフェリーに乗下船する場合を考え,傾斜のついた渡橋を車椅子で昇降する時の介助者の身体負荷について検討を行った。解析は,ディジタルヒューマンモデルのシミュレーションソフトJack(米国UGS PLM Solutions社製)を使用し,人体の各関節の静的負荷および消費エネルギーの解析を行った。
 静的負荷解析は人体を剛棒と関節からなるリンクモデルで構成し,力の釣り合い計算から各関節に於けるトルクを求めるものである5)。また,Jackは静的負荷に耐えられる人口割合を統計的に求め,これをPercent Capable(p.C.)として出力することができる。
 消費エネルギーについては(1)式によっている。すなわち,姿勢を保持するためのエネルギーとタスクのためのエネルギーを加え,単位時間当たりのエネルギー消費を算出している。ただし,本解析では細かな手作業や腕作業に対して,また,気温や湿度,環境などの影響については考慮していない。
 
 
 ここで,姿勢iを保持するために必要な代謝エネルギー消費率Eposiは性別,体重,姿勢に依存し,静的負荷解析から求められる。
 また,タスクjの代謝エネルギー消費量ΔEtaskjはGargeの算式によっている6),Gargeらは各種の作業を持上げや引張りなど単純な22種類のタスク(要素作業)に区分し,それぞれに対し酸素消費量の計測を実施し,統計解析(回帰分析)して近似式を求めた6)。これは,性別,体重,姿勢の他,持上げ重量・高さ・早さ,負荷頻度,腕の水平面内の動き,体の上下運動,歩行姿勢・速度,タスク時間などがパラメータとなっている。今回のpushのタスクでは次式が与えられている。
 
 
 消費エネルギーの許容値については,Ayoub and Mitalは,1日8時間の肉体的な作業での許容エネルギー代謝率として,最大酸素消費量(Max. aerobic power)の1/3を提案し,男性で5.0 Kcal/min,女性で3.35 Kcal/minを与えている7)。ここでは女性の許容値3.35 Kcal/minを用いることにする。
 
3.2 介助者の身体負荷
 まず,近隣のフェリー乗り場に出かけ,実際に車椅子を押して渡橋を渡り,この時の介助者の姿勢を観察した。Fig. 3は代表的な2姿勢であり,これを元にJackのモデルをFig. 4,Fig. 5のように作成した。前者は上り姿勢,後者は下り姿勢である。いずれも(a)は肘を曲げて車椅子を押す姿勢,(b)は体をやや前傾させ肘を伸ばして押す姿勢である。人体モデルは,車椅子の介助者は高齢の女性が多いことから,50〜80歳の女性の平均体格(身長152cm,体重52.2kg)を採用した8)。被介助者のモデルは男性で60代以上の平均とし,身長159.4cm,体重58kg8)とした。車椅子はKAWAMURAのKR4-40(42)N9)をモデル化している(重量は18kg)。
 
Fig. 3 Typical postures
 
Fig. 4 Human models (upward)
 
Fig. 5 Human models (Downward)
 
 解析は,この介助者の両手に車椅子を押す水平力を負荷した。この水平の力は被介助者の体重58kgと車椅子の重量18kgの合計76kgに対し,転がり摩擦係数を0.03として求めた。力の方向は介護者へ向かって水平に,左右の手に均等に与えた(Fig. 6)。厳密には動的な影響を考慮する必要があるが,ここでは簡便のため静的な解析としている。
 通常,急傾斜面を下りる場合は介助者が背面に下りるのが正しい下り方であるが,傾斜が緩やかな場合は正面を向いて下りる場合が多い。今回は比較検討のために傾斜が急な角度でも正面を向いて下りるケースを解析し,背面で下りるケースとも比較した。
 
Fig. 6 Skeleton models


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