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2.5 設計波高の決定法
 構造形式、操船性能のさらなる検討には設計波高の設定が不可欠となるが、設計波高は以下の手順による多数の台風回避シミュレーションにより決定される。
A 構造形式を仮定する。
B 浮体のポーラーカーブとスイッチバック所要時間を計算する。
C 定時海象情報と予報から次の定時情報までの進路方位を決定し、速度を計算し、次の定時情報時の位置を求め、それを繰り返す。
 
 遭遇可能性のある最大波高、波周期と最大風速が得られたら、Aを修正して、再度B、Cを繰り返し、合理的な設計を完成する。発電量と逃げ足はトレードオフの関係にある。帆翼の数を増し、補助プロペラの推力馬力を増すと浮体の逃げ足は増すが、その分、風車数が減ったり、エネルギーを消費したりしてしまう。その結果、発電量は少なくなるが、設計波高を小さく出来る。シミュレーションで必要な逃げ足速度と設計波高を割り出し、設計を繰り返し最適なシステムを決定することになる。
 
3. 設計例
 環境研、東京大学、大阪大学、東海大学、マリンフロートの共同研究4)の設計例では以下の条件の下に検討されている。
・外洋環境下で安定した強度を維持し、風力発電に悪影響を与えない配置を提供する浮体構造とする。
・水深が数千mとなる海域でも位置保持可能とする。
・巨大低気圧等による荒天海象にも対応する。
・100年を超える長期耐用性、維持補修性を有する。
・大型浮体を連続建造する建造方法・能力を把握する。
 特に、外洋の海象条件に対して非係留による位置保持性能の確保と、構造強度の確保が重要である。将来の波浪予測技術の進歩により更に安全性が増すものと考えられる。
 
Fig. 6 Schematic view of sailing wind farm
 
Table 2 Design conditions
常用状態 退避限界状態
有義波高 2.0m 6.0m
平均波周期 5 sec 10 sec
潮流 3 knt 3 knt
位置保持性能 1日に1回程度針路変更
運行速力 6 kts
供用年数 100年
 
3.1 主要目
 主要目は次の通りである。
(1)浮体
 基本形状は、図6に示す通り移動時の抵抗を極力少なくするため、筏状のスリムな半潜水型形状となっている。全長1,020m、全幅480m、深さ32m、喫水20m、排水量約166,600tonである。水面を貫通するストラット部は揚力を発生させる目的で翼型断面とし、ロワーハル部分は、波漂流力を受けない左右非対称の断面形状となっている。
(2)搭載風車
定格出力:5MW(定格風速14m/sec)
寸法:水平軸タイプ、ローター直径120m、ハブ高さ80m
基数:11基/浮体
風車間距離2 x ローター直径
(3)位置保持システム
帆:4基/浮体
スラスタ:旋回型、推力240ton(合計)
(4)デッキ上構造物
 デッキ上の構造物は、図6には図示していない。風車間の広い空間は、必要に応じてデッキを張ることで水素製造等の上載施設を搭載できる。
(5)維持管理(補修・点検)
 風力発電装置を搭載した本システムは、機械類の交換、メンテナンス等が必要と考えられる。メンテナンスの方法については、外洋上での点検の他、定期的な静穏海域への曳航避泊による点検・補修が必要と思われる。また、没水部を導電塗装し風力発電による電気を定期的に塗装に流すことで次亜塩素酸を発生させ、生物付着を防止する手段等の対策が検討されている。
 
3.2 波浪中の応答
 波浪中応答および構造強度も検討した。図6の浮体の中央部を長さ400m分だけ切り出した部分弾性模型(縮尺1/100)を製作し、大阪大学船舶海洋試験水槽および東京大学生産技術研究所海洋工学水槽において、規則波中弾性応答実験を実施した。(図7)この実験により、以下のことが分かった。
(1)全ての波向きにおいて、横桁或いはロワーハルの2節振動以外に大きな振動は現われない。従って、構造強度検討には、2節の振動モードに注意を払えば良い。
(2)横桁の2節振動が顕著に現われるのは横波中のλ/L=0.3付近である。この時、上下変位振幅比は2.4程度に達する。一方、縦波中ではλ/L=0.6付近で振幅費1.0程度のピークが見られるが、総じて大きな応答は生じない。
 従来の浮体構造物とは異なる上記の性質は、ロワーハルを細長体形状として波力を極力小さくし、中性軸を波力の作用点に近くした浮体形状の特徴ではないかと考えている。
 
Fig. 7 Model test in wave
 
 水槽実験結果の一例として、浮体前端部の横桁に沿ったストラット上の4点で計測した、横波中での上下変位応答関数を図8に示す。
 
Fig. 8 Vertical displacement in Beam Sea


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