3.3 位置保持システムの検討
設計例では基本コンセプトに沿って、帆走による本浮体の位置保持性能をシミュレーションにより確認し、次に荒天回避等、移動速力の観点からスラスタについて検討している。位置保持システムは、浮体上の風車の設備利用率を常に高く保つよう、浮体の最適な航路を自動的に求め、危険な海象を回避する機能を持たせている。帆走シミュレーション法は、浮体のデミハル、ストラット、風車、帆、スラスタに作用する流体力をベースに、浮体の3自由度(前進、横流れ及び旋回)の運動方程式を時間発展的に解いて求めている。デミハルは摩擦抵抗、ストラットと帆は摩擦抵抗、形状抵抗、揚力及び誘導抗力を考慮し、迎角15度強までは完全失速しないものとした。帆の迎角は相対風向に対して常に前進推力が最大となる角度とし、予め相対風向ごとの浮体に対する前進推力係数と横力係数を求め補間してシミュレーションに用いている。風車間、風車と帆、ストラット間の流体力学的な相互干渉はないものとしている。一本のストラット形状は、幅15m×水面下深さ15m、翼厚3mの前後対称翼、帆の総面積は約12,000m2、帆の揚力係数は迎角15度で1.6としている。
波漂流力は、規則波中水槽試験結果を用い、長波頂不規則波中における波漂流力を求めている。ただし、水槽試験結果は浮体の中央部(長さ400m分だけ切り出した部分模型)に働く波漂流力であり、浮体全体に作用する波漂流力は中央部に働く波漂流力が全長にわたり等しく作用するものとして求めている。なお、スペクトル形状はISSCとしている。
(1)位置保持性能と移動速力
風速14m/s、有義波高2m(波周期5秒)の時、帆のみで、風車を何基搭載(風荷重の増加)するまで風上に移動できるかを検討したところ、5MW風車を11基/浮体まで搭載可能な結果となっている。(図9)
また風車11基/浮体を搭載した場合の、帆走ポーラー曲線をシミュレーション計算で求めている。風上側に少し上ることができ、風波に対して真横(90度もしくは270度の方向)に移動する時の速力は4.8ノットであり、帆のみで位置保持可能であるとの結果となっている。(図10)
Fig. 9 |
Boat speed and VMG thrusted by only sails (wind speed 14m/s, significant wave height 2m) |
次に危険海象からの避航を想定し、風速14m/s、有義波高6m(波周期10秒)、風を真横に受けながら、スラスタを併用すると何ノットまで速力を上げられるかを検討しところ、最大7.6ノットまでの逃げ足を確保できる結果となっている。(図11)
Fig. 10 |
Polar diagram thrusted by only sails (wind speed 14m/s, significant wave height 2m) |
Fig. 12 Polar diagram thrusted by sails and thrusters
Fig. 11 |
Boat speed vs. thrust of thrusters in case of sails and thrusters (wind speed 14m/s, significant wave height 6m) |
また一例として、風速14m/s、有義波高2m(波周期5秒)の時に帆に加え、240トンのスラスタ推力(6基合計)を浮体の前後方向に向け、浮体の速力を増してストラット揚力を大きくしたところ、図12に示すように、風上側へ移動可能な範囲が10度ほど広がり、浮体の速力は7.5ノット(風波に対して90度もしくは270度方向に移動時)に増し、有義波高6m(波周期10秒)の場合の速力は7.3ノットに増す結果となった。すなわちスラスタを併用した機帆走によって位置保持能力と移動速力が増し、浮体運航の安全性が向上することが分かる。
図13に方向転換の一例を示す。方向転換時の風下への風抗力を最小化するためにまず全風車をフェザリングし、風に対して約60度の方向に上り、迅速に逆方向への加速を行うため、帆をうまく使って浮体を減速させたのち風下側へ約30度回頭させて真横からの風を捉え、船尾方向(新しい船首方向)に浮体を加速させる。この時、波なし、全風車フェザリング時の風荷重は風速14m/sで風車1基分(120トン強)としている。この減速開始から加速終了までに約2時間30分の時間を要している。
Fig. 13 |
Switchback trajectory (all wind turbine feathering in still water) |
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