4. GO/NO-GO課題から大脳活動の5つへの型分け
GO/NO-GO課題の形成実験は約束事ができているかどうかの確認を行ない,分化・逆転分化実験でゴム球を握るべく色のときに握り忘れた回数と,握ってはいけない色の時に握り間違いをした回数を調べます。その後,Pavlovの考えに基づき,神経系の興奮過程と抑制過程の強さ,その平衡性,易動性に着目し,先行研究の表1の統計処理表によって,興奮過程も抑制過程も備わっていない型で,幼児に多く見られるという特長を持つ不活発型。興奮過程が優位であるという特徴を持つ興奮型。抑制過程が優位であるという特徴を持つ抑制型。興奮過程と抑制過程は備わっていますが,その切り換えが緩慢であるという特徴を持つ緩慢型。興奮過程と抑制過程が備わり,その切換えもよく,全ての実験においてほとんど間違いがない,成人に多い特徴を持つ活発型という5つの型に分けます(図3)。先行研究から,大脳活動の型はおおむね不活発型,興奮型,抑制型,緩慢型,活発型へと移行することが報告されています18),19),21),24)。
図3: 不活発型
5. GO/NO-GO課題による大脳活動の型の研究経緯
幼児から中学生まで横断的に行われたGO/NO-GO課題による大脳活動の調査は,1969年・1979年・1998年の日本と1984年・1999年の中国,アメリカの2002年・韓国の2003年の合計で7回になります18),19),24),25),26),27),28),29)。日本でGO/NO-GO課題による大脳活動の調査が行なわれた結果,1969年に比べ1979年は,幼児に多く見られる不活発型の子どもが加齢と共に減少せず(図4),興奮型による子どもの出現率のピークが小学2年から小学6年に推移し(図5),活発型の出現率が小学4年から加齢と共に増加しない(図6)という傾向が見られはじめます19)。この3つの型の特徴的変化は,加齢と共にGO/NO-GO課題の間違い数が減少していかないことにあります。これらの特徴を更に詳しくつかむため,分化実験での握り忘れと握り間違いの合計値である各型の最小間違い回数に注目して統計処理したものが図6です。平均間違い数は日本の1969年と中国の1984年は加齢と共に減少していますが,日本の1979年,1998年,米国の2002年はいずれも小学6年生で増加しており,韓国では中学生で増加をしています28)。
図4: 興奮型
図5: 活発型
図6: 各調査におけるGO/NO-GOの課題の間違い数。*p<0.05
日本の1969年と1979年のGO/NO-GO課題による間違い数の加齢的推移の違いは,どこから来るのかを探るために,我々は,子どもたちを取りまく生活環境の変化に着目しますが,1969年の生活調査の整理された基礎的データがありませんでした。そこで1984年の中国による大脳活動の型のパターンは,1969年の日本のパターンと酷似していることから,1984年の中国と,1979年の日本の子どもたちによる生活調査の違いを調べてみました。すると,子どもたちの遊びの形態変化とテレビの視聴時間という2点に違いがみられました。すなわち,中国の子どもはスポーツで仲間同士,身体全体を動かす遊びが主流を占めるのに対して,日本の子どもはテレビ,ステレオ,ラジオなど静的な遊びが中心となっていました(表1,2),(図)。また,中国の子どものテレビ視聴時間は,一日平均50分に対して,日本の子どもは152分でした25),30),(図7)。日本の1998年には,子どもの遊びの主流はテレビ・テレビゲームとなり,この時間に読書とCDの時間を加えると1日4〜5時間にもなります31)。今後更に被験者数を増やしていく必要がありますが,日本の小学でGO/NO-GO課題と生活調査の関係を見たところ,テレビ・テレビゲーム時間が長い子どもと室内遊び時間が多い子どもは,有意にGO/NO-GO課題の間違い数が増加していました32)(図8)。
図7: 1984年中国と1980年日本のテレビ視聴時間
図8: 1984年中国と1980年日本の中学生の主な遊び
日本の子どもの遊びの変化は,高度経済成長がその背景にあることが予想されます。すなわち,車の保有台数が急増し,同時に交通事故が増えます。この時,多くの幼児が輪禍の犠牲になります。これにテレビの普及が重なり,日本の子どもは,危険な屋外から安全な屋内に遊び場を変えてます(図9)33)。
図9: 自動車保有台数・テレビ視聴台数・交通事故件数
そして,少子化にともない子どもの群れ社会の崩壊が起こり,子ども同士のコミュニケーションの機会が激減していきます。また身体活動を伴う動的な遊びは影を潜め,代わってテレビ・テレビゲームなどの静的な遊びが主流をなしたこと等が日本の子どもの大脳活動のパターンを変えた要因の一つと考えられます24),25),32),33),34)。
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