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2.2.6 公海
 上記2.2.1〜2.2.5のいずれの水域にも属さない海洋のすべての部分について、国連海洋法条約においては公海であると定められている。公海は沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、すべての国に開放されている。また、公海の自由は国連海洋法条約並びに国際法の他の規則に定める条件に従って行使され、いかなる国も、公海の一部たりとも主権の下に置くことはできない。
 
表2.2.1 国際法上の水域の区分とその法的地位のまとめ
区分 範囲 法的地位
内水 領海の基線等の陸地側の水域。河川、湖、運河、港内、湾内、内海等がこれあたる。 領土と同様、沿岸国の主権が全面的に及ぶ。
領海 原則として、沿岸国の基線から12海里以内の水域。 原則として沿岸国の主権が及ぶが、その行使は国際法の制約を受ける。
接続水域 領海の外側12海里以内の水域。 沿岸国は領土・領海内における通関、財政、出入国管理又は衛生上の法令違反の防止、処罰のため必要な措置をとれる。
排他的経済水域 原則として、沿岸国の基線から200海里以内の水域。領海、接続水域ともこの範囲に含まれる。 沿岸国は、同水域の天然資源に対する主権的権利を有する。船舶航行等の通常の利用に関しては、公海と同じ規則を適用。
群島水域 群島基線の内側の水域で、内水を除くもの。 原則として、沿岸国の主権が及ぶ。
公海 いずれの国の排他的経済水域、領海もしくは内水、群島水域に含まれない全ての海域 国連海洋法条約等に規定される。
 
図2.2.1  国際法における海域の区分1; 内水、領海、接続水域、排他的経済水域、公海
 
図2.2.2 国際法における海域の区分2; 内水、群島水域、領海
 
2.3 旗国の責任等
 船舶は、国際法上、必ずある国の国籍を有すべきものとされ、国籍を付与している国をその船舶の旗国という。各国は自国の国内法によって、どのような船に自国の国籍を与えるか、船舶の登録にはどのような手続きが必要か、またどのような船舶が自国の国旗を掲げる権利を有するのかなどを決定することができる。
 しかし、各国は船舶への国籍付与について、まったく自由に定めてよいわけではなく、第一次国連海洋法会議において採択された1958年の公海条約では、まず第四条で、航行については、すべての国が自国の旗を掲げる船舶を航行させる権利を持つとするが、第五条で、そのようにして国籍を与える自国の船舶との間には「真正な関係」が存在しなければならないとした。
 この真正な関係については、2つの解釈が対立している。1つは、真正な関係については、国籍付与の基準に国際法上の要件が課されると解する。これに対して、他は、国籍付与の基準にまで国際法が介入することはなく、この基準をどのようにするのかは、各国の判断に任されている、と解する。したがって、前者の考え方によれば、国家は実際に自国との結びつきのうすい船舶に対して自国の国籍を与えれば、条約違反を生ずるのであって、これは便宜置籍を非難する立場に繋がる。
 また、国連海洋法条約においては、「真正な関係」に関連する条文としては次の三つが挙げられる。
 
a. 第91条(船舶の国籍)
1 いずれの国も、船舶に対する国籍の許与、自国の領域内における船舶の登録及び自国の旗を掲げる権利に関する条件を定める。船舶は、その旗を掲げる権利を有する国の国籍を有する。その国と当該船舶との間には、真正な関係が存在しなければならない。
2 いずれの国も、自国の旗を掲げる権利を許与した船舶に対し、その旨の文書を発給する。
 
b. 第92条(船舶の地位)
1 船舶は、1の国のみの旗を掲げて航行するものとし、国際条約又はこの条約に明文の規定がある特別の場合を除くほか、公海においてその国の排他的管轄権に服する。船舶は、所有権の現実の移転又は登録の変更の場合を除くほか、航行中又は寄港中にその旗を変更することができない。
(2 省略)
 
c. 第94条(旗国の義務)
1 いずれの国も、自国を旗国とする船籍に対し、行政上、技術上及び社会上の事項について有効に管轄権を行使し及び有効に規制を行う。
(2 以下略)
 
 上記の条約において、旗国の義務は更に詳細かつ具体的に規定されることとなったため、「真正な関係」について二つの解釈のいずれをとるかにかかわらず、船舶に国籍を付与した旗国は実効的に担うべき法律効果を執行すべき責務を負っており、その責務を果たせない場合は「真正な関係」にならず、法的な問題を生じる。
 しかし、途上国である旗国による便宜置籍船への管轄権行使は事実上困難であり、管轄権行使の不履行を理由に旗国の法的責任を追及するのは事実上便宜置籍船の排除につながるため、今日の外航海運の便宜置籍船への依存度に鑑みて、旗国への管轄権不履行の責任追及は困難な状況である。その中で、便宜置籍船における船内刑事事件の処理も含めた諸問題を、旗国に頼らずに現実的にどのように対処していくか検討していく必要がある。


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