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船内犯罪発生時における初期対応の流れ
 本編3.4.1で船内犯罪発生時における船長の実務処理の参考を示したが、実際の犯罪発生時にどのような順で措置を実施していくかは犯罪発生時の状況によって異なり、船長は状況を判断しながらどの措置を先に実施していくか判断しなければならない。
 そこで以下に、犯罪発生時特に迅速に実施しなければならない措置について、状況に応じてどのような流れで実施していくかのフローチャートについて、以下に示す。
 同図の考え方として、犯人が凶器を所持したまま船内の安全を脅かしている場合は、最初に船内秩序確保のための措置をとるものと考える。そして被害者の状態を確認した上で、船舶管理会社への第一報を行い、船内秩序維持に関する措置と被害者の人命保護等に関する措置を同時並行で進めていく。
 船内秩序維持に関する措置については、犯人が現行犯で拘束されている場合、被疑者が特定されていない場合、被疑者が特定されているが拘束されていない場合に分けて考え、それぞれの場合で被疑者の特定、拘束等の措置、船舶管理会社等への連絡等を適宜行っていくものと考える。
 また、被害者の人命保護等に関する措置については、被害者がまだ生存している場合は人命保護のための措置を優先的に行うものとし、死亡している場合は死亡から24時間経過したのを確認の上、死体の冷凍保存、船舶管理会社への連絡等の措置を適宜行っていくものと考える。
 
船内犯罪発生時における実務対応のフローチャート
(拡大画面:99KB)
 
第1回委員会議事次第
(1)日時・場所
平成17年7月28日(木)14:00〜16:30
於 海事センタービル 8階会議室
 
(2)出席者
委員
相原 隆  関西学院大学 法学部教授
根本 到  神戸大学 海事科学部助教授
廣瀬 肇  呉大学 社会情報学部教授
寺島 紘士  (財)海洋政策研究財団 常務理事
井沢 文明  UK P&I CLUB 取締役
山田 吉彦  日本財団 海洋グループ 海洋教育チームリーダー
松重 太郎  日本郵船(株)安全環境グループ危機管理チーム
林 昌徳  (株)商船三井船舶部海務・安全グループ マネージャー
門野 英二  川崎汽船(株)安全運航グループ 安全運航チーム長
関係官庁(オブザーバー)
九鬼 令和  国土交通省海事局外航課 国際第一係長
吉田 昌子  国土交通省海事局船員政策課 国際企画室長
佐合 俊久  国土交通省国際企画室国際海事係
田中 祐美子  (財)海洋政策研究財団
事務局
森本 靖之  (社)日本船長協会 会長
赤塚 宏一  (社)日本船長協会 副会長
江本 博一  (社)日本船長協会 常務理事
福留 聖司  (株)エム・オー・マリンコンサルティング
 
(3)議事次第
1. 日本船長協会会長挨拶 (森本会長)
当調査研究委員会の目的説明及び事業計画等
2. 委員紹介 (事務局)
3. 委員長選出 (事務局)
4. 今後のテーマとスケジュール等 (事務局)
5. 今後の調査研究委員会の進め方について (事務局)
 既にメール連絡したとおり、委員会資料等については事前に各専門委員の先生方から関与する資料をいただき、その資料に基づいて自由討議の勉強会形式で行うことの承認。
6. タジマ号事件事例研究 (委員長)
7. 次回委員会日程の確認 (委員長)
8. その他(本委員会の正式名称等他) (事務局)
以上
 
配布資料
1. 議事次第 1枚
2. 委員名簿 1枚
3. 便宜置籍船における海事保安事件の処理と問題点テーマとスケジュール 1枚
4. 第1回事例研究テーマ資料一式
船長教養講座:海上保安事件の処理と問題点 1冊
TAJIMA号事件の公判概要 3枚
新聞記事抜粋 2枚
(当日席上配布補足参考資料一式)
 
(4)議事概要
1. 広瀬教授によるTAJIMA号事件についての解説
;TAJIMA号事件の経過の概要について説明
;船社、船長から見た問題点の解説
・なぜ犯人を船長権限のみを頼りに船内に拘禁しなければならなかったのか。
・一体何を根拠にVLCCをかくも長く止め置くことができるのか。
・FOC船乗組の日本人船員は日本国からの保護を受けることはできないのか。
・外国の裁判は何とひどいことか(FOC船はどこの国が保護するのか)。
;新聞に見る船社側の要求と官側のコメントについての解説
・TAJIMA号事件に関連する“海事新聞”、“読売新聞”、“海上の友”の抜粋を紹介し、船側(船長協会)、船社(船主協会)はどのような要求を行ったか、それに対し国側(法務省、海保、国交省、外務省、内閣)の対応はどうだったかを解説。
・国側の主張に対する学説からの答えについて解説。
;研究すべきことについての解説
・船員法に定められた船橋権限(船内警察権)の内容と根拠。
・便宜置籍国の法制度の調査。
・内水、領海、公海等の水域別での国内法の適用、国際法の適用の研究。
・外国に滞在し活動する日本国籍の国民の保護の枠組を確認する。
 
2. フリーディスカッション(敬称略)
委員長;TAJIMA号事件は刑法3条2項の追加で一応の解決を見ているが、この事件から更に何を読み取っていくかが重要だと考える。自分では船員法上の船舶権力の見直しが重要な論点だと思うが、その点について解説してもらいたい。
委員;実際の事件を想定して、船長が何をどこまでできるか法律上に明記することが必要と考える。
委員長;船長の地位は司法警察にあたるのか。
委員;概括的に司法警察の地位が定められているが、具体的に何ができるかは明かではない。手続きも明かではない。
委員長;過去、実際に船長の警察権が発動された実例はあるのか。
事務局;船員法26、27、29条では船内秩序維持のための規則が定められており、船長は船員及び乗客への懲戒権も持つ。自分も実際船内で発生した船員同士の傷害事件の際、船内のキャプテンズコートで何人か集まり、本人の供述も取って強制下船させたことがある。実質的に船長ができる措置はその程度である。
委員長;船長警察権というものは万国共通か。
事務局;はっきりは分からないが、恐らく各国で船内統制のための規則を持っているのではないかと思う。
委員;日本の船社が運航する船舶の内、日本籍船は非常に少ない現状なので、国内法の適用よりもグローバルなルールの適用を考慮した方が良いのではないか。プレステージ号事件のように船長が拘束されたケースでは、グローバルな取り扱いのガイドラインを作っていこうとの話も出たので、そういった情報について勉強していくことも2年間のスケジュールの中に入れたらどうか。
事務局;国際的なルールの中では、船長の権限とはどこにも明記されてない。しかし近年、プレステージ号事件の後、EUにおいても油流出は理由如何問わず罰することとなって船員団体も危機感を持ち、それを受けてIMOとILOによってグローバルなルールに関するアドホックな作業部会(Fair treatment of sea seafarers)がなされている。この研究会としては、Fair treatment of sea seafarersについての情報等、グローバルなルールについての情報収集も仕事の一つとしてやるべき。
委員;船長の職務権限を考える上で、国内の刑法の適用範囲の研究も依然として重要である。現在は刑法に3条2項が書き加えられたが、実際の適用において属地主義を採る国の刑法との抵触等、様々な問題が生じる可能性がある。ドイツ等既に同様の法律を持っている国での事例の研究等、3条2項のもと生じる論点について研究するのは有意義である。
委員;日本の船員法では船内規律権が定められているが、便宜置籍船ではどのような法的根拠に基づいて船内を規律せねばならないのかお聞きしたい。恐らく船舶管理会社が出している就業規則に何らかの船内規律の取り決めがなされていると思うが、実態はどうなのか船社の方に伺いたい。また、そういったものがあるとして、就業規則は法源になりうるのか先生方にお聞きしたい。
委員長;船長権限の法源も結局は旗国法である。就業規則は私法であり、当事者間しか拘束しない。
委員;現場では法律がどうなっていようと、暴動が発生した場合等は手の打ちようがなく、船内規律のためにできる最大の措置はせいぜい解雇である。ただ事実上、日本の法律が適用される日本籍船ではこういった事態は発生しにくいが、現状で便宜置籍船を日本籍船にするとビジネスが成り立たないので、解決策として
・ビジネスとして成り立つような日本籍船制度を整備する
・便宜置籍船でも日本の法律が適用されるような制度を整備する
の二つの方法が考えられる。実際パナマと米国は二国間条約で、公海上のパナマ籍船にはアメリカの法的効果を及ぼして良いことになっている
委員;便宜置籍船を問題とするなら、問題発生時における対応として
・わが国の国内法をどう解釈するか
・IMOのような国際的な場で、旗国である便宜置籍国にもっと責任を持たせるようなアプローチをする
・日本と便宜置籍国の二国間の問題として整理する
の三つの対応が考えられる。
 
委員;船内でフィリピン人同士の喧嘩が起こった場合等、刑法3条2項により解決できないこともあり、それらに国際的な基準ではどう対応していくか等、本来解決すべき問題は数多く残っている。
委員;東京条約では、航空機内で犯罪が起きた場合、どこの上空で起ころうとも最初に到着した国に裁判管轄権があることが定められている。もし船舶にも同様の条約があったらTAJIMA号事件は解決できていた。
委員長;密航者が発見された場合、どこの国でも引き取ってくれないので船長は非常に苦労する。密航者を入港した港で下ろし、強制送還させる国際的なルールはないのか。
委員;密航者についての条約は、1967年の密航者条約があったが結局発効せず、現状としてIMOのFAL条約のChapter6に密航者に関する規程がある。しかし、勧告であるため強制力はなく、現状でも密航者の引き受け国を探すのは困難である。
 また、便宜置籍国の法律については、最近はIMOのオーディティングシステムの関係もありほとんどの国が持っているようであるが、旧宗主国の引き写しという場合が多い。STCW条約では本来、士官は乗り組む船の旗国の法律を知っていなければならないが、日本人の場合は実際に法律の知識がなくても、船長から自動的に授権されるようになっている。
事務局;先日パナマ大使館を訪問し、パナマ大使と面会して船員法等に関するヒアリングを行った。船員法については現在ドラフト中で、あと3、4年で完成するとのことであった。また、類似の法律としてMaritime technical lawというもののコピーをもらい、その中に船長の職務について一部記載されているところがあったが、現段階では明確な資料は入手していない。
 便宜置籍国と日本の関係について考慮するため、参考資料−2にワールド カード号事件について記した。この事件を基にして、国連海洋法条約でもよく言及される船舶と旗国の“真正な関係”について、先生方からの御説明をいただきたい。
委員;“真正な関係”は国籍付与の条件として求められているが、具体的に内容が定められているわけではなく、強制力も伴わない。
委員;“真正な関係”の概念は、80年代の船舶の登録要件に関する国際条約で初めて出てきた概念であり、90年代初めにはほとんど出てこなくなったが、最近になって再び脚光を浴びた概念である。しかし、強制力を伴う概念ではない。
委員;船舶の安全、環境については船舶の旗国に多くが求められているので、便宜置籍国はもっと責任を持つべきである。なかなか難しいことではあるが、声を上げていくことに意義がある。又、近年におけるテロ対策と関連して、慣習的なものである船長の権限を国際的に明確化していく議論は意義のあることだ。
オブザーバー;この会議の趣旨は、現場の船長に役立つマニュアルを作成することだと思う。そのためには、国際的な船長の権限はどうなっているのかの確認、そして具体的に船でどのような事件が起こっているのか、それに対してどのような対応ができるのかをまとめていくのが、会として実のあるものとなると思う。
委員長;便宜置籍の問題と、公海上での適用法規の問題とは分けて考えられるものだと思う。船舶に、一つの国の法律が適用されると困るのは、その法律の内容がどうであるかというより、各国法制の不一致の問題である。そこで、この会の作業としては、
・国際条約、二国間条約がどうなっているかという法制の確認
・実際にどのような問題が起こりうるのかの整理
 が作業の核になると思う。これらについて皆で問題点を持ち寄り、整理して方法論を検討していこうと思う。
委員;海上保安庁が、日本近海で発生した韓国船内の暴動を鎮圧する事例は年に数回あり、その後韓国でどのような法的処理を行っているのか非常に興味がある。又、船長にとって役に立つマニュアルを作成するなら、実際にどのような事態が想定されるか洗い出すのが実効的だと思う。
委員;便宜置籍国は法制度がなっていない国なので、何か事が起こった場合は船をオペレートしている国に対応を頼みたい節がある。便宜置籍船は、形式上外国籍でも実質的に日本船なので、具体的な事が発生した場合には日本の官庁と連絡し、便宜置籍国とも協調して対処できる体制にするべき。
委員長;問題解決のためには、便宜置籍国の事情と、それを利用する側の国の事情両方を考慮した方が良い。
委員:パナマ籍船で何か事が発生した場合、アメリカ政府が何か要請するとパナマ政府はすぐ動く状態であり、わが国においても船主協会等も絡めて、便宜置籍国との交渉窓口を設け、国同士のパイプを構築していったら良いと思う。
委員;国交省の方は、例えば日本人が1、2人乗っている便宜置籍船が海外で事故に遭った場合等に、その運航や積荷についてどの程度の関心を持っておられるのかお聞きしたい。例えばアメリカは、自分の国益になることなら何でも直ちに実行する。
オブザーバー;国交省の意見としては言えないが、省内でも海外における便宜置籍船の貨物については問題意識を持っている。
委員長;便宜置籍船に関しては、自国の経済活動、職員の保護という話と、それを敢えて選択しているという話が必ずでてくるので、その地位の評価の問題は、議論の説得力を持たせるために避けては通れない。
 船長の権限について、それに基づいて何ができるのか、どこまでが限界なのか(属地主義との関係等により)、障害になっているものがあるとすればそれは何なのかを確認すべきである。
以上


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