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第3章 国民保護措置の実施に関する事項
第1節 武力攻撃事態等における基本的対処
1 対策本部の設置
○長官は、政府に武力攻撃事態等対策本部(以下「政府対策本部」という。)が設置された場合には、直ちに、本庁に長官を長とする海上保安庁武力攻撃事態等対策本部(以下「本庁対策本部」という。)を設置するものとする。
 本庁対策本部を設置した場合には、政府対策本部、関係省庁、独立行政法人海上災害防止センター等に本庁対策本部の連絡先等を通知するものとする。
○本庁対策本部は、庁内における国民保護措置などに関する調整、情報の収集、集約、連絡及び庁内での共有、広報その他必要な総括業務を行うものとする。
○管区本部の長(以下「管区本部長」という。)は、本庁対策本部が設置された場合において、管轄区域内における武力攻撃事態等の発生の有無、現状及び予測等の状況に基づいて、必要に応じ又は長官の指示により、管区本部に管区本部長を長とする管区海上保安本部武力攻撃事態等対策本部(以下「管区対策本部」という。)を設置するものとする。
 管区対策本部を設置した場合には、関係する地方公共団体等に管区対策本部の連絡先等を通知するものとする。
○本庁対策本部及び管区対策本部の組織、事務分担並びに職員の配置並びに本庁対策本部の長及び管区対策本部の長の職務代行その他必要な事項については、別に定めるものとする。
 
2 職員の参集
○長官及び管区本部等の長は、あらかじめ定めた呼集要領及び参集基準に基づき、関係職員を参集させるものとする。
 
3 職員の派遣
○長官は、事態対処法第11条第7項の規定により政府対策本部の職員として内閣総理大臣から任命された場合のほか、必要に応じて政府対策本部等に職員を派遣するものとする。
○管区本部長は、国民保護法第29条第3項の規定により都道府県対策本部長から職員の派遣の求めがあったときは、都道府県対策本部との緊密な連携を図るため、その指名する職員を速やかに派遣するものとする。
○長官又は管区本部長は、国民保護法第151条第1項の規定により地方公共団体の長等から職員の派遣の要請があったときは、その所掌事務又は業務の遂行に著しい支障のない限り、個人の有する技術・知識・経験等に着目して適任と認める職員を派遣するものとする。
○管区本部等の長は、必要と認める場合には、連絡調整等のため、都道府県、市町村等の対策本部等に職員を派遣するものとする。
 
4 情報の収集及び報告等
○長官及び管区本部等の長は、国民保護措置の実施上必要な情報について、船艇、航空機等を活用し、積極的に情報収集活動を実施するとともに、政府や都道府県等の対策本部等及び関係機関と密接な情報交換等を行うものとする。
・武力攻撃の兆候等に係る情報の収集及び分析に努めるとともに、これらの情報を入手したときは、直ちに管区本部長、長官を経由し政府対策本部長に報告するよう努めるものとする。
・武力攻撃災害の兆候を発見した者からその旨の通報を受けた場合は、速やかにその旨を市町村長又は都道府県知事に通報するとともに、関連する情報の収集に努めるものとする。
・武力攻撃災害が発生した日時及び場所又は地域、発生した武力攻撃災害の状況の概要、人的及び物的被害の状況等の被災情報は、速やかに管区本部長、長官を経由し政府対策本部長に報告するものとする。
 
5 情報通信手段の確保
○長官及び管区本部等の長は、情報通信手段を確保するため、必要に応じて次に掲げる措置を講ずるものとする。
・携帯無線機、多重通信装置、携帯電話、携帯ファックス等を搭載した船艇を配備する。
・非常の場合の通信(電波法(昭和25年法律第131号)第74条に規定する通信をいう。)を確保するための通信施設の配備及び通信要員の配置に努める。
・ヘリコプター撮影画像伝送システム等を搭載した航空機を効果的に活用する。
・防災行政無線、携帯無線機、携帯電話、携帯ファックス等利用可能なあらゆる手段を活用する。
・インターネット等を利用した情報システムの増設を行う。
 
6 船艇、航空機等の出動、派遣等
○管区本部等の長は、情報収集活動の実施により得られた情報等に基づき、必要に応じて、所属の船艇及び航空機に食料、飲料水、燃料のほか、所要の資機材、情報通信機器等を搭載させ、対処が必要とされる周辺海域に出動させるとともに、所要の即応体制をとらせるものとする。ただし、極めて迅速な対応が求められる警報及び避難措置の指示の伝達等に従事させる船艇及び航空機については、上記にかかわらず速やかに出動させるものとする。
○長官は、予想される被害状況、被害規模等を勘案し、本庁及び隣接管区本部等の船艇、航空機及び職員を、武力攻撃事態等への対処を実施する管区本部に派遣する等必要な措置を講ずるものとする。
 
7 海上交通の安全確保
○長官及び管区本部等の長は、海上交通の安全を確保するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
・被害が発生した海域又は発生するおそれがある海域に係る海上交通情報の提供等を実施するものとする。
・船舶交通のふくそうが予想される海域においては、避難住民及び緊急物資の運送を行う船舶並びに緊急輸送を行う船舶が円滑に航行できるよう、政府対策本部長により海域の利用指針(武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律(平成16年法律第114号)第13条第1項の海域の利用指針をいう。以下同じ。)が定められた場合は、その利用指針に基づき、必要に応じて、同法第14条第1項の規定による船舶の航行制限を原則として告示により海域を定めて実施する。また、同条第2項の規定に基づき、船舶乗組員に対し、航行警報その他の適切な手段により海域の利用指針の内容及び船舶の航行制限に係る情報を迅速に提供するとともに、船舶交通の安全確保のためその他必要な措置を講ずるものとする。
・海難の発生若しくは漂流物の存在又は航路標識の損傷その他の事情により船舶交通の危険が生じ、又は生ずるおそれがあるときは、その旨を政府対策本部に報告するとともに、迅速に航行警報等による周知を実施し、必要に応じて、船舶交通の制限等船舶交通の安全の確保のため必要な措置を講ずるものとする。また、当該海難船舶又は漂流物等の所有者等に対し、これらの除去その他船舶交通の危険を防止するための措置を講ずべきことを命じ、又は勧告するものとする。
・船舶交通の混乱を避けるため、被害の概要、港湾・岸壁の状況、関係機関との連絡手段等、船舶交通の安全確保のために必要と考えられる情報について、無線電話、航行警報等により船舶への情報提供を行うものとする。
・水路の水深に異常を生じたおそれがあるときは、必要に応じて調査を行うとともに、応急標識を設置する等により水路の安全を確保するものとする。
 
8 避難住民及び緊急物資の運送
○長官及び管区本部等の長は、指定公共機関及び指定地方公共機関の輸送力が不足した場合等においては、事態の状況を判断し、又は政府対策本部長の総合調整により、船艇・航空機を用いて避難住民及び緊急物資の運送を実施するものとする。なお、これらの運送の実施に当たっては、機動力のある航空機及び大量輸送が可能な災害対応型巡視船等を有効に活用するものとする。
 船艇及び航空機の輸送力の目安は、第6章第1節のとおり。
 
9 治安の維持
○長官及び管区本部等の長は、海上における犯罪の予防、鎮圧を図るため、必要に応じ、巡視船艇等・航空機により、生活関連等施設等の周辺海域における警備の強化、被災地周辺海域、避難住民及び緊急物資の海上運送経路等における監視・取締り活動を行うものとする。
 
第2節 住民の避難及び避難住民の救援に関する措置
1 住民の避難に関する措置
(1)警報及び避難措置の指示の通知及び伝達
(1)管区本部等及び指定公共機関に対する通知
・長官は、政府対策本部長から警報及び避難措置の指示の通知を受けた場合は、直ちにその内容を全ての管区本部長に通知するものとする。
・管区本部長は、直ちに管下の事務所の長等に通知するものとする。
・長官は、直ちにその内容を独立行政法人海上災害防止センターに通知するものとする。
(2)船舶内に在る者に対する伝達
○長官は、政府対策本部長から警報及び避難措置の指示の通知を受けた場合は、以下の手段を用い、直ちにその内容を船舶内に在る者に伝達するよう努めるものとする。
・本庁及び管区本部等が実施する航行警報による伝達
・海上保安(監)部が行う沿岸域情報提供システムによる伝達
・船艇、航空機が行う無線電話及び船外マイク等による伝達
・船舶通航信号所が無線電話等により行う伝達
○港内在泊中の船舶等に在る者に対する伝達については、必要に応じ、市町村と連携協力して実施するものとする。
(2)警報及び避難措置の指示の解除
 警報及び避難措置の指示の解除については、警報及び避難措置の指示の通知及び伝達に準じて実施するものとする。
(3)避難に当たって配慮すべき事項
(1)避難に当たっての配慮すべき地域特性
・長官及び管区本部等の長は、離島の住民を島外に避難させる必要が生じた場合、沖縄県の住民を避難させる必要が生じた場合においては、関係機関と連絡をとりつつ、船艇・航空機により、可能な限り避難住民を運送するものとする。
・長官及び管区本部等の長は、自衛隊施設、米軍施設等の周辺における住民の避難については、それらの施設は防衛に係る諸活動の拠点となる等の特性があることから、避難施設、避難経路及び運送手段の確保に当たって、平素から内閣官房、消防庁、厚生労働省、防衛庁、防衛施設庁、外務省、警察庁、国土交通省、地方公共団体等の関係機関と密接な連携を図るとともに、武力攻撃事態等において地方公共団体が住民の避難に関する措置を円滑に講ずることができるよう、これらの関係機関と必要な調整を行うものとする。
(2)事態の類型等に応じた留意事項
○基本指針及び次に掲げる事項に留意するものとする。
・ゲリラや特殊部隊による攻撃がまさに行われており、住民に危害が及ぶおそれがある地域においては、市町村、都道府県、都道府県警察及び自衛隊との間における適切な役割分担の下、避難住民の誘導を行うものとする。
・NBC攻撃の場合には、防護服を着用する等対応職員の安全を図るための措置を講じた上で、避難住民の誘導を行うものとする。避難住民の誘導に際しては、風下方向を避けるとともに、皮膚の露出を極力抑えるため手袋、帽子、ゴーグル、雨ガッパ等を着用させること、マスクや折りたたんだハンカチ等を口にあてさせることなどに留意するものとする。なお、化学剤による攻撃の場合には、化学剤は一般的に空気より重いため、可能な限り高所に避難させるものとする。
・大型の船舶は空調装置、送風機により船内空気の循環が行われていることから、放射性物質や化学剤、生物剤が船内に拡散しないよう、送風の遮断や分画を徹底する必要があることに留意するものとする。
(4)避難住民の誘導
○海上保安部長等は、市町村長等から要請があった場合のほか、武力攻撃事態等の状況又は海域の状況を勘案し、必要と認める場合には、市町村、都道府県、都道府県警察、自衛隊等の関係機関と連携し、必要な避難住民の誘導を行うものとする。この場合、国民保護法第64条の規定に基づき、あらかじめ関係市町村長と協議し、避難実施要領に沿って避難住民の誘導が円滑に行われるよう船舶交通の整理、秩序の維持、船艇・航空機による情報収集等必要な措置を講ずるとともに、自ら又は市町村長の求めに応じ、避難誘導の実施状況について必要な情報を提供するものとする。
○避難住民の誘導を行う海上保安官は、国民保護法第66条第1項及び第2項の規定に基づき、海上における避難に伴う混雑等において危険な事態が発生するおそれがあると認めるときは、当該危険な事態の発生を防止するため、危険を生じさせ、又は危害を受けるおそれのある船舶等に対し、必要な警告又は指示をするものとする。この場合、特に必要と認めるときは、危険な場所への立入りを禁止し、若しくはその場所から退去させ、又は当該危険を生ずるおそれのある物件の除去その他必要な措置を講ずるものとする。
○避難住民の誘導を行う海上保安官は、国民保護法第70条の規定に基づき、避難住民の乗船する船舶その他の船舶等に対し、避難住民の乗船する船舶の先導等、誘導に必要な援助について協力を要請するものとする。この場合、当該船舶等の安全の確保に十分配慮するものとする。
 
2 避難住民等の救援に関する措置
(1)救援の支援等
○長官及び管区本部長は、都道府県知事から救援を行うに当たって支援を求められた時は、救援に係る物資の供給等必要な支援を迅速かつ積極的に実施するものとする。
○長官及び管区本部長は、医師、看護師、助産師等で構成する救護班の緊急輸送又は広域後方医療施設への傷病者の搬送については、必要に応じ、又は関係省庁、指定公共機関若しくは地方公共団体の長からの依頼に基づき、迅速かつ積極的に実施するものとする。
○化学剤による攻撃の場合には、専門部隊等を中心に防護服を着用する等職員の安全を図るための措置を講じた上で、可能な限り早期に被災者を除染し、速やかに適切な医療機関に搬送するなど、使用された化学剤の特性に応じた対処を行うよう努めるものとする。
○遺体については、地方公共団体等と協力し、身元の確認、遺族等への引き渡し等に努めるものとする。
○行方不明者の捜索に当たっては、都道府県が行う被災者の捜索及び救出又は死体の捜索及び処理との連携を図るよう努めるものとする。
(2)安否情報の収集及び提供
○管区本部等の長は、地方公共団体の長が行う安否情報の収集等が円滑に実施されるよう、保有する安否情報を速やかに地方公共団体の長に提供するなど、地方公共団体の長が実施する安否情報の収集に協力するものとする。
○安否情報は、原則として、対象となる住民の現に所在する地方公共団体の長に提供するものとし、当該住民が住所を有する地方公共団体が判明している場合には、併せて当該地方公共団体の長に対し、安否情報の提供を行うよう努めるものとする。
○安否情報の収集及び提供に当たっては、個人情報の保護に十分な配慮を行うものとする。


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