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 その次の被害管理というのは、いくら防護しても100%テロを防ぐことは不可能で、もし、テロが起こってしまった場合、できるだけ被害を最小限化して、パニックを抑えるということであります。
 問題は、その後に実行犯を追及していかなければいけない。国外に逃げてしまったら、国際協力で犯人の引渡し要請や捜査共助などがスムーズに運ぶように条約を整備していかねばならないということです。
 その後、テロを招いたことを失敗とみなして、その政策を検証し、教訓を導き、新政策を作る、こういう風に一つの流れがありまして、テロを予防する、テロを防止するというのは、予防措置をとるのは勿論重要ですが、それだけでは不十分です。日本の港湾、船舶はこれだけ予防措置をとっていますということでは、それは、私達の言葉で「拒否的抑止」と言って、テロリストにとって、「あぁここは狙えないな」と思わせることで、テロを諦めさせるという効果があるわけですが、にもかかわらず、やる人がいます。そうなると、やられたときに実行犯とかをどの程度まで追いつめるのか、逮捕するのか、その実行犯の背後に組織があるとか、国家があるとかが分かれば、そういう組織や国家に対して、どこまで日本として追いつめていくのか、ということをやっていくことが重要です。そうすることで、テロリストからみても、日本にテロをしたら後で痛い目にあうと恐れられるようにならなければならない。
 さらに、もし、テロを成功したとしても、我々の側が復旧を素早く実施して、パニックが日本国内で起きず、被害を最小限に止めることが出来たと分かれば、多分テロリストはがっかりするはずです。要するに、テロを防止するというのは、防護のためにフェンスを置く、監視カメラを設けますだけでなく、勿論、これらはSOLAS条約を締約し、国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律で決まっていることですから、やらなきゃいけないことで、それ自体「拒否的抑止力」を持ちうると思いますので重要ですが、考え方としては、防護すると言うことは、もしやられた時に、出来るだけ素早く対処をして、やった人間を徹底的に追いつめるという一連のプロセス、またテロをやられた後に、どうしてやられたのかと言う失敗の原因も探って、新しい対策を作っていくという、一連のことが出来て初めて、防護の強化、予防の強化に繋がって行くのではないかと思っています。
 それで、レジュメではちょっと飛びまして、「スレットコン」と書いてあるところに行きます。テロ対策にはメリハリがないといけない訳でありまして、アメリカ海軍の場合では、A、B、 C、 Dとあって、Dが多分一番緊急状況におかれ、もう今にも敵が襲ってくるという状況です。同じようにアメリカ国土安全保障省は米本土のテロの脅威レベルを色で表しておりまして、レッド、オレンジ、イエロー、ブルー、グリーンがあって、レッドが一番で、今にもテロにやられる蓋然性が非常に高い場合にレッドを使用しています。これは、国土安全保障省のホームページでいつでも扉の頁で色が出ていますが、真ん中のイエローの段階、つまりテロの脅威が上がっているから注意、を示している時が最も多いです。
 港湾に関しては、日本の保安レベルは1、2、 3となる訳ですが、国家全体として、日本がどれくらいのテロの脅威にさらされているのかが、分かるような目安がない。それでも航空貨物なんかはずっと緊急警戒状態「フェーズE」が続いていて、メリハリがないんですね。
 私が住んでいる街では、何時も乗るバス停に「テロ対策特別警戒中」という張り紙がずっと貼ってあって、何を警戒しているか分からない。何も警戒していないけど、取り敢えず張り紙を貼っておくのでしょう。そういうことではなくて、然るべきところがきちんとテロ情報を分析して、その結果として、今は、まあ通常の状況とか、しかし、こうこうだから、もう少し警戒体制を高めなければいけないと、誰にも分かるような形で色分けをしておくことが必要です。これをやらないと、要するに日本には情報力がないと思われても仕様がないですね。
 ロンドンでテロが起きたから、じゃあ日本でも起きるだろうと、一般の人は思ってしまいますし、国際的に大きな事件があれば、日本でも起きるのではないかと、そういう短絡的な話ではない訳です。さっき、海保のお話でもありましたが、日本国内にも、リオネル・デュモンという、彼はアル・カイーダのメンバーではないのですが、イスラム過激派の人が何度も日本に入国していました。この人が捕まったと大きく新聞に出ると、あぁ日本もターゲットという風に思ってしまう訳ですが、そのことと明日、明後日、日本国内でテロが起きると言うことと、全然レベルが違う話です。
 不安になるのは良いのですが、現場でも、一般の国民でも漠然とした不安は長続きしないし、緊張状態も長続きしない。そのメリハリをつけて、現場にテロ対策は今こうこうだからレベルを上げなければならないとか、下げても良いとかを、もう少し、これは国家レベルの話ですが、やっていかないと現場はもたないと思います。
 それから[レジュメの]次のマルですね。港湾・船舶関係者の身上調査。これは現状ではどうなっているか分からないので、ご教示頂きたいのですが、非常に多くの業者さんが本船に近づいていくわけでございまして、たとえばステベのなかにもどういう人達がいるのか。多くの業者で、調査が合理的に出来るか、どこまでやれるのか、またそういうことをやる意味があるのかと考えていくべきだと思います。
 というのは、テロ対策の他の分野で、例えば、ウイルスとか細菌を扱っている研究所だとかありますが、そういう所では、研究者の身分を言うことも随分議論されていて、職業的に○○研究所の研究員とか言えば、安心できるという話ではありません。兎に角、インフラだとか、危険物を扱っている人たちの身分の調査、採用時だけでなく、定期的に調査をちゃんとしているかどうか、変な人と接触していないかとか、その辺のフォローは難しいのですかね。それは検討する余地があるのも知れません。
 それから、国内船です。いま船舶保安情報を海上保安部署に通報することになっておりますけれども、これは外国から日本に入港する船舶、あるいは特定海域に入ってくる船舶であって、それに対して、日本国内で就航しているホーバークラフトとかフェリーだとかが、テロに使われるおそれがありますし、そういうことは先程申し上げたテロの想定というか、シナリオの中で、組み込んでいければなと思います。
 それから、シナリオ、シミュレーションの作り方も重要です。日本はPSIに参加していますが、昨年「チームサムライ」という演習をやりました。そのシナリオの全部は多分公表していないのでしょうが、公表されている分だけ見ると、サリンを船舶間で受け渡しして、それを押さえるというシナリオでした。なんて言うのでしょうか、事件が起こってそれを現場で取り押さえるとか、あるいはテロが起きたらどういう風に対処するのかということは、勿論、訓練上重要なことですが、そこにいくまでの想定も重要です。どうしてX月X日に、例えば横浜港の大黒ふ頭でテロが起きたのか、誰が起こしたのか、そのテロリストは武器をどうして日本に持ち込めたのか、日本の国内の誰が支援したのかという、我々は基礎想定といっていますが、基礎想定というのは訓練には直接は関係ないのですが、実は非常に重要だと思います。こまかな基礎想定をきちんとつくることは、現実の情勢分析をきちんと行うことにつながるのですし、なぜテロが起きるのかについて、訓練参加者にも理解が深まり、また訓練へのモチベーションもあがると思います。ある日、突然にテロが起きることはないのです。テロリストは時間をかけて準備し、またそれを可能にさせる内外の情勢があるのです。
 最後の国際協力、対外支援は言うまでもありませんし、海上保安庁さんもセミナーとかいろいろなことをやっておられます。全部は知りませんが、いろいろ伺っております。これは言わずもがなのことです。
 
 以上で終わりとさせていただきます。どうも、ありがとうございました。


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