日本財団 図書館


2.4 性能向上陸上実験
 2004年度には,採択された条約における処理基準が予想以上に厳しくなったことに対応するため,2001年度と同様,20m3/h容量実験機による,自然海水を用いた性能向上陸上実験を実施した.パイプ自体の性能向上(スリットの間隔及び2枚のスリット板の距離の再検討など)に加え,病原菌等に効果が高く又“Special Pipe”との組合せで相乗効果が高いと考えられる化学処理法一つとして,オゾン(1997年度実験で確認済み)を添加する方式で,システムとしての処理性能向上を図った.
 
図11 ワシントン州からのレター
 
 図10は,実験装置の状況を示したものである.
 表9〜11については,スリット幅0.3mm,スリット部流速40m/s注入オゾン濃度0.7mg/で1回処理した処理直後,処理5日後及び処理8日後の処理効果について,採択されたサイズ別条約基準に従って,50μm上,10μm上50μm満の生物,大腸菌群数それぞれに対する処理効果を示したものである.生物数の計測値については4回の実験における計測地の平均を示したものである.これらの表において,未処理原水とは,港湾内自然海水のことであり,処理5日後及び処理8日後の処理効果については,処理した原水をバラスト水タンクに模して暗闇貯厳し,当該日に計測したものである.
 50μm上の水生生物については,96%以上の処理効果があるとはいえ,10個体/m3未満というきわめて厳しいバラスト水排出基準を満足していない.しかしながら,10μm上50μm未満の水生生物については,当該基準が10個体/未満と甘いため,満足する可能性が高い.
 大腸菌については,値的には当該基準を満足しているが,原水に含まれていた数が少なかったこともあるので,その数が増加(再増殖)すれば満足しない可能性もある.
 
表9 50μm生生物処理効果
 
表10 10μm≦50μm水生生物処理効果
 
表11 大腸菌処理効果
 
 オゾン注入濃度については,0.7,1.0,2.5及び5.0mg/のそれぞれについて実験した.当然のことながらオゾン濃度が高いほど処理効果も高くなるが,経済性,二次影響等を考慮すると,低ければ低いほど実用性が高くなる.
 今回の実験では,スリット部流速40m/hおける,オゾン濃度5.0mg/で条約の排出基準を達成し,2.5mg/でも十分可能性のあることが判明した.
 注入オゾンの分解状況については,2.5mg/注入の場合で,水生生物処理直後の貯留タンク注水直後で0.03mg/となった.また,オゾンが海水中の臭素等と反応して生成されるオキシダントについては,貯留タンク注水後1時間の間に急速に減少し,5日後には,未処理原水と同じレベルまでに分解された.
 
3. まとめ
 米国においては,条約の基準に比べ百倍も厳しい処理(排出)基準を持った法案が議会に上程されており,また,同法案よりさらに厳しい基準がカリフォルニア州でも検討されている.このように,今後,処理(排出)基準は益々高度化する傾向にあり,条約等の基準を達成するためには,“Special Pipe”自体の性能向上で殺菌効果を高めるよりは,他の殺菌効果のあるものと組み合わせ,プランクトン類は"Special Pipe"で,またバクテリア類はオゾン等による殺菌で処理する方法が,経済的かつ実用的と判断した.
 今年度についても,昨年度までと同様,日本財団の助成事業として,関係者のご支援・協力を受け,昨年度までの実験の成果を考慮し,かつ,化学物質等の利用に関するガイドラインに留意して,“Special Pipe”をベースとした実船で試運用可能なプロトタイプ・システムを開発・製作・陸上実験する予定である.
 
参考文献
1)菊地武晃(2004):バラスト水問題と管理条約の採択,特集,バラスト水への取り組み,日本海難防止協会情報誌「海と安全」No.522
2)菊地武晃(2005):流体力等を用いたバラスト水処理,シンポジウム「世界の沿岸環境を乱すバラスト水−対策は可能か?」,海洋理工学会平成17年度春季大会「講演論文集」
3,植木修次(三井造船株式会社),和田雅人(2005):船舶バラスト水管理への取り組み−オゾン処理への適用−,第23回オゾン技術に関する講習会講演要旨,特定非営利活動法人日本オゾン協会
 
著者紹介
和田 雅人
・1966年生.
・社団法人日本海難防止協会.海洋汚染防止研究部主任研究員.
・1987年国立富山商船高等専門学校卒業
・1992年株式会社商船三井入社.
・2002年より同協会に出向.
・2005年船長に昇進.
・一級海技士(航海).


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION