2.3 船舶構造・安全性等の企画・検討
バラスト水処理にオゾンを利用する場合、強い酸化力による影響が懸念される。懸念される影響は、船体の腐食に伴う船体安全性及びオゾンが万が一漏洩した場合と排オゾンによる船員の健康に対する安全性である。以下では、船体及び船員等に対して考えられるこれら問題点を整理・把握し、試作システムの設計・製作に資する検討を行った。
(1)船体への影響
オゾンは強い酸化力を持っており、オゾンに触れる材料は耐食性を考慮する必要がある。しかし、オゾンの海水中における半減期は、5.8秒以下と極めて分解速度が速く、淡水中でも半減期は10分程度である。特に海水に注入した場合には、オゾンと海水の反応によって生成される臭素酸イオンの影響が支配的となる。腐食の影響はオゾン濃度・オゾン状態(気相、液相)によって異なると共に、接触時間とも関係する。そのため、オゾンの分解特性を踏まえ、材料に対する腐食影響を考える必要がある。
1)船体への腐食影響(海水の場合)
表II.2.3-1には、オゾンや臭素酸イオンの影響を受ける可能性がある船体、配管、装置等を示した。また、図II.2.3-1には、オゾン及び臭素酸イオンを含む水が影響すると考えられる場所を示した。
表II.2.3-1 オゾンの影響を受ける船体、配管、装置
状態 |
船体、配管、装置 |
オゾンガス |
オゾン発生装置〜オゾン注入装置
オゾン発生装置〜排オゾン装置
脱気槽〜排オゾン装置
排オゾン装置〜暴露部 |
溶存オゾン |
脱気槽 |
臭素酸イオン |
オゾン注入装置〜バラストポンプ〜脱気槽
バラストタンク
バラストタンク〜 |
|
注:船体、配管、装置の名称は、図II.2.3-1を参照。
|
図II.2.3-1 |
オゾン及び臭素酸イオンを含む水が流れると考えられる場所 |
注:オゾン海水ラインとはオゾンの影響が支配的な海水ライン
臭素酸海水ラインとは臭素酸イオンの影響が支配的な海水ライン
|
海水にオゾンを注入すると海水中の有機物・臭化物イオン等との反応により、オゾン濃度は急速に減少する。バラスト管内に3.0 mg/ のオゾンを注入した場合では、ポンプを通り数m後のスリット板付近でオゾン濃度を計測すると0.3 mg/ という結果が得られている。そこで、処理した後にオゾンの脱気槽を設けることにした。処理後のバラスト水を脱気槽内で30秒程度滞留させることによって、処理水に含まれる溶存オゾンは、海水中でのオゾンの半減期(5.8秒)を考慮すると、オゾンは消滅することになる。すなわち、オゾンの強い酸化力による船体の影響の懸念が無くなる。
脱気槽以降の配管及びバラストタンク内においては、オゾンとの反応により生成する臭素酸イオンの影響が懸念される。しかし、その腐食に関しても、図II.2.3-2及び図II.2.3-3に示す0.3 mg/ のオゾンを連続注入した浸漬電測定及び浸漬腐食試験結果から考えれば、影響が無いと判断された。
図II.2.3-2 オゾン腐食試験、浸漬電位測定結果
(拡大画面:15KB) |
|
|
図II.2.3-3 |
オゾン腐食試験、浸漬試験による腐食速度の経時変化 |
(拡大画面:8KB) |
|
|
2)船体への腐食影響(淡水の場合)
基本的には、海水をバラスト水に用いた場合と同様である。
淡水中にはオゾンを消費するような物質が極めて少ないことから、オゾンの半減期は約10分となり海水よりも長い。従って、淡水のバラスト水にオゾンを注入する場合は、オゾンによる腐食の影響が生じる可能性が高い。
ただし、淡水にオゾンを1.0mg/ 注入すると、70分程度で0.01mg/ までオゾン濃度が減少する。腐食防止のためエポキシ塗装しているバラストタンクに、オゾン濃度の高いバラスト水が保持された場合を想定すると、一時的には塗装の防食効果が低下すると考えられる。しかし、海水と淡水を比較した場合、淡水の方がオゾンの自己分解が速いことから、実際の腐食影響は小さく、船体に影響するとは考えられない。
3)一般的な船体構造部材に対する腐食影響
船体構造材料、コーティング剤等は、大部分がオゾンに対する耐食性を有しておらず、オゾンの腐食影響を受けやすい。しかし、オゾンの影響を受ける時間は、オゾンの分解特性上短い。また、高濃度なオゾン部分もわずかであるため、腐食影響は限られている。なお、主要な船体構造であるバラストタンクではオゾンは消滅しており、オゾンの腐食影響は無視できると考えられる。
表II.2.3-2 船体部材として代表的な材質のオゾン耐食性
材質 |
耐食性等 |
鋼材(裸) |
耐オゾン性なく、腐食影響を受ける |
ステンレス鋼 |
耐オゾン性あり、殆ど腐食影響を受けない |
亜鉛 |
耐オゾン性なく、腐食影響を受ける |
塗装 |
有機物であり腐食影響を受ける。樹脂(塗料の種類)により影響の大小が現れる(フッソ樹脂系は耐オゾン性に優れる) |
ゴム/樹脂 |
有機物であり腐食影響を受ける(フッソ系は耐オゾン性に優れる) |
|
|