3.2 20事例による総合的な検証
日本近海に接近した台風20事例について検証を行った。台風20事例は、1996年以降の台風で、(1)八代海・周防灘、(2)伊勢湾、(3)播磨灘に高波をもたらせた事例を選択した。それぞれの海域における台風事例を表3.1に示す。
表3.1 対象台風事例
海域 |
数 |
台風事例 |
八代海・周防灘 |
12 |
T9612,T9711,T9719,T9918,T0014,T0205,
T0215,T0306,T0314,T0416,T0418,T0514 |
伊勢湾 |
2 |
T0111,T0406 |
播磨灘 |
5 |
T9708,T9807,T9810,T0310,T0421,T0423 |
|
(1)八代海・周防灘
周防灘の苅田港に高波をもたらせた13事例を対象に、これまでの推算手法、数値予報モデルを用いた推算手法について海上風の推算を行い、その精度を比較した。精度比較は表1.1に示した地点について行った。
表3.2に、事例ごとの統計値(RMSE、相関係数)を示す。統計は、それぞれの事例における地点毎の48時間の海上風の観測値と推算値から算出した。また、それぞれの事例における数値予報モデルを用いた推算手法の、台風が通過する時期の平均的な進路推算誤差を示す。
数値予報モデルを用いた推算手法は、相関係数は、T9719を除くすべての事例で0.5以上、7事例で0.7以上と高い相関であり、全事例でも0.74であった。RMSEは、ばらつきが大きく2.5m/sから7.0m/sまでの範囲であり、全事例では4.89m/sであった。平成16年度事業では、数事例で進路推定誤差が100km以上となり、海上風推算精度が悪かったが、本手法では進路推定誤差が平均的に小さくなっていた。これは、台風ボーガスを気象庁ボーガスに変更したことで、進路推定誤差が小さくなったためと考えられる。
これまでの推算手法は、相関係数にばらつきがあり、0.7以上の事例が4事例であり、全事例での相関係数は0.49であった。RMSEは3.5m/sから9.0m/sの範囲であり、全事例では4.90m/sであった。
以上から、八代海・周防灘では、数値予報モデルを用いた推算手法の方が、相関係数が高く精度が良いと考えられる。
表3.2 事例ごとの統計値
|
これまでの推算手法 |
数値予報モデルを用いた推算手法 |
台風 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
進路誤差
(km) |
T9612 |
3.56 |
0.71 |
5.78 |
0.59 |
89.2 |
T9711 |
5.45 |
0.32 |
2.89 |
0.71 |
56.4 |
T9719 |
4.80 |
0.22 |
5.60 |
0.40 |
22.2 |
T9918 |
6.07 |
0.64 |
4.70 |
0.85 |
64.3 |
T0014 |
5.78 |
0.84 |
3.07 |
0.84 |
27.4 |
T0205 |
4.00 |
0.43 |
3.70 |
0.56 |
41.0 |
T0215 |
4.23 |
0.43 |
5.70 |
0.63 |
54.4 |
T0306 |
6.06 |
0.50 |
3.31 |
0.74 |
46.3 |
T0314 |
5.85 |
0.72 |
3.18 |
0.79 |
25.4 |
T0416 |
3.84 |
0.62 |
6.79 |
0.58 |
69.7 |
T0418 |
8.61 |
0.74 |
6.23 |
0.85 |
52.8 |
T0514 |
7.72 |
0.19 |
8.92 |
0.64 |
49.4 |
全事例 |
4.90 |
0.49 |
4.89 |
0.74 |
|
|
(2)伊勢湾
伊勢湾に高波をもたらせた2事例の精度を比較した。精度比較は表1.2に示した地点について行った。表3.3に、事例ごとの統計値(RMSE、相関係数)を示す。
数値予報モデルを用いた推算手法は、相関係数は、T0111で0.70、T0406で0.84とこれまでの推算手法と比較して高かった。RMSEは、T0111では数値予報モデルを用いた推算手法の方がよく、T0406ではこれまでの推算手法の方がよかった。
以上から、伊勢湾では、数値予報モデルを用いた推算手法の方が、相関係数が高く精度が良いと考えられる。
表3.3 事例ごとの統計値
|
これまでの推算手法 |
数値予報モデルを用いた推算手法 |
台風 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
進路誤差
(km) |
T0111 |
3.79 |
0.59 |
4.69 |
0.70 |
44.2 |
T0406 |
3.94 |
0.53 |
5.70 |
0.84 |
32.6 |
全事例 |
3.86 |
0.55 |
5.22 |
0.75 |
|
|
(3)播磨灘
播磨灘に高波をもたらせた5事例の精度を比較した。精度比較は表1.3に示した地点について行った。表3.4に、事例ごとの統計値(RMSE、相関係数)を示す。
数値予報モデルを用いた推算手法は、相関係数は、各事例でこれまでの推算手法より高いが、八代海・周防灘、伊勢湾と比較して低かった。播磨灘を通過する台風は、八代海・周防灘、伊勢湾を通過する台風と比較して、進路推定誤差が大きかった。この原因としては、播磨灘に達する台風は、九州や四国を通過してくるために、対称性は崩れており、台風ボーガスで表現することが難しいことが考えられる。
以上から、播磨灘では、数値予報モデルを用いた推算手法の精度は十分でなく、今後、改良する必要があると考える。
表3.4 事例ごとの統計値
|
これまでの推算手法 |
数値予報モデルを用いた推算手法 |
台風 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
RMSE
(m/s) |
相関係数 |
進路誤差
(km) |
T9708 |
4.33 |
0.42 |
4.49 |
0.35 |
152.0 |
T9807 |
4.50 |
0.68 |
4.57 |
0.56 |
134.3 |
T9810 |
3.69 |
0.73 |
5.57 |
0.56 |
163.5 |
T0310 |
6.64 |
-0.12 |
9.72 |
0.44 |
64.7 |
T0421 |
4.21 |
0.69 |
5.30 |
0.75 |
52.5 |
T0423 |
4.49 |
0.47 |
8.03 |
0.58 |
36.4 |
全事例 |
5.10 |
0.42 |
6.95 |
0.53 |
|
|
|