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2.3.3 これまでの同化手法と新たな同化手法の精度比較
 同化手法の精度を調査するため、ナッジングとIAUの2種類の4次元同化を使用して推算計算を行い、精度を比較した。精度比較は、(1)同化なし、(2)これまでの同化手法(ナッジング)、(3)新たな同化手法(IAU: Incremental Analysis Update)の3種類について、検討した。
 対象台風は、2.1.3項の台風ボーガスの検討と同様に、1996年から2004年に八代海・周防灘に高波をもたらした6事例とした。推算時間は36時間とし、推算期間中はすべて同化を行った。IAUの係数は、T9918、T0215、T0416、T0418はナッジングと同様に第1領域GV=1.0e-4、第2領域G=2.0e-6とし、T9711、T9719は、第1領域GV=2.0e-4、第2領域G=2.0e-6とした。
 6事例の平均的な進路推定誤差を図2.25に示し、事例ごとの台風進路を図2.26に示す。推算時間36時間においては、T9918、T0215、T0418で新たな同化手法(IAU)の方がこれまでの同化手法(ナッジング)と比較して、ベストトラックに近い台風経路を推算していた。T9711やT0416では、これまでの同化手法(ナッジング)と新たな同化手法(IAU)とも推算された進路にほとんど差異がなく、誤差も変わらなかった。T9719では、新たな同化手法(IAU)の精度が悪かったが、これはこれまでの同化手法(ナッジング)がほぼベストトラックを再現していたためと考えられる。
 平均的な進路推定誤差は、初期12時間はナッジングと差異はないが、12時間以降は次第に新たな同化手法(IAU)の精度が上回り、推算時間36時間では、これまでの同化手法(ナッジング)が77kmに対し、新たな同化手法(IAU)は57kmと約20km精度が良かった。これは、未来に生じる誤差をあらかじめ計算しておき、その誤差を計算に投入するため、進路推定誤差が小さくなったと考えられる。
 以上から、新たな同化手法(IAU)はこれまでの同化手法(ナッジング)と比較して、進路推定誤差を小さくする傾向があると考えられる。
 
図2.25 推算時間ごとの台風進路推定誤差
 
図2.26 各事例のベストトラックと台風進路推算値
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 図2.27に、各台風の推算時間ごとにおける、気圧深度を示す。また、図2.28にそれぞれの手法について6事例を平均した推算時間ごとの気圧深度誤差のRMSEとBiasを示す。
 新たな同化手法(IAU)は、これまでの同化手法(ナッジング)と比較して、すべての事例で気圧深度が低くなった。そのため、T9711やT9918などこれまでの同化手法(ナッジング)を行った場合に気圧深度を浅く推算する事例では、精度がよくなったが、T0215やT0418、T0416など気圧深度を低く推算する事例では精度は悪化した。T0416では、最初の数時間でベストトラックより15hPaほど発達し、九州に上陸後に大きく減衰しており、非現実的な気圧の変化をしていた。
 6事例による平均的な結果では、推算開始から24時間までは、新たな同化手法(IAU)がこれまでの同化手法(ナッジング)と比較してBiasが低かった。これは、新たな同化手法(IAU)が気圧を浅く推算する傾向があるためと考えられる。24時間以降は、両者とも変わらなかったが、これはT0416で新たな同化手法(IAU)が大きく減衰したためである。
 
図2.27 推算時間ごとの中心気圧推定誤差
 
 以上から、新たな同化手法(IAU)は、未来に生じる誤差をあらかじめ計算しておき、その誤差を計算に投入するため、進路推算誤差は減少する傾向がある。一方、気圧深度は、これまでの同化手法(ナッジング)と比較してスムージングの影響が少ないため、気圧を下げる傾向があり、数事例で非現実的な挙動を示した。T9711、T9918など特定の事例では新たな同化手法(IAU)はこれまでの同化手法(ナッジング)よりよい再現性を持っていたが、すべての事例で精度が向上することはなかった。また、新たな同化手法(IAU)は、約2倍程度の計算時間が必要である。
 したがって、本研究では、計算負荷が低く、非現実的な挙動を示さないこれまでの同化手法(ナッジング)を使用することとした。
 
図2.28 各事例のベストトラックと中心気圧推算値
(拡大画面:60KB)


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