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2.3.2 新たな同化手法
 本項では、同化手法の分類を行い、本研究にもっとも適切な同化手法を選択し、その同化手法について検討を行った。
 
(1)同化手法の分類
 同化手法は、様々な観点からの分類をすることができるが、本項では、データの取り込む手法に注目して分類した。表2.4に同化手法の分類を示す。
 
表2.4 同化手法の分類
手法 データの取り込み方法
間歇同化 初期時刻にのみ、解析値の情報を反映する手法
ナッジング 予測によって生じる誤差をモデル方程式に付け加える手法
IAU
(Incremental Analysis Update)
予測によって生じる誤差を前もって計算し、その誤差を同化する手法
4次元変分法
(4DVAR)
モデルの動的な力学に従って同化する手法
 
 間歇同化は、初期値にのみ観測値を同化する手法である。解析値の情報は初期・境界値にのみ利用される。
 ナッジングは、予測によって生じる誤差をタイムステップ毎に外力として与えることで、徐々に予測値を解析値に近づける手法である。したがって、解析値の情報は時空間の下流にのみ反映される。
 IAUは、ナッジングを高度化した手法で、ナッジングを行わない場合に生じる解析値と予測値の誤差を前もって計算し、その誤差をAnalysis Incrementとして同化する手法である。したがって、予測によって未来に生じる誤差を取り入れることができ、時空間の上流にも誤差を反映することができる。計算負荷は、ナッジングと比較して約2倍である。
 4DVARは、予測の時間発展と任意の時刻の観測値との差を最小になるように、随伴方程式を用いて繰り返し計算を行う手法である。4DVARは、モデルの動的な力学が直接に反映されるので、様々な要素間の関係がすべての時空間において正しく反映されるなどの長所が存在する。その一方で、その他の手法と比較して10倍以上の計算負荷がかかるという問題がある。
 本研究では、「できる限り計算負荷の軽いモデル」を作成するという観点から、IAUを検討することとした。
 
(2)新たな同化手法の概要
 新たな同化手法としてIAU(Incremental Analysis Update)の概要を示す。IAUは、ナッジングを行わない場合に生じる予測の誤差を前もって計算し、その誤差をIncrementとして同化する手法である。計算フローを図2.22に示す。
 解析値は、台風のベストトラックが発表されている3時間毎に作成しておく。解析時刻をτとするとIAUの手順は以下であらわされる。
(1)解析時刻の中間点(τn+τ/2)から解析時刻(τn+1)までを、同化手法なしで予測する。
(2)解析時刻(τn+1)において解析値と予測値との差(Analysis Increment)を算出する。
(3)その誤差を外力として投入し、解析時刻の中間点(τn+τ/2)から中間点(τn+1+τ/2)まで予報を行う。この際、(τn+1+τ/2)でリスタートに必要なファイルを残しておく。
(4)次解析時刻について(1)〜(3)を実行する
 
図2.22 IAUの計算フロー
 
 式は、下記(2.18)〜(2.19)で表される。ナッジングと同様に、αi(x,t)は、予報変数の風や気温、比湿であり、Fは予報式である。右辺第2項がIAUを示すものであり、ΔWa(Analysis Increment)を外力として加える。ΔWa(Analysis Increment)は解析時刻(τ/2)における、計算値と解析値との差で、ナッジングと比較すると、右辺第2項の外力が、時間に依存せず定数になっているのが特徴である。
 
 
αi(x,t):予報変数
F:予報式
G:ナッジング係数(−)
Wa:解析値
Wb:第一推定値
τ/2:解析時刻
 
 IAUの特徴を以下に示す。
・ナッジングは状態に依存した外力を与えるのに対し、IAUは定数を与えるため、スムージングの影響が小さい。したがって、台風を減衰させずに強い勢力を保ち、かつ台風の移動をベストトラックに近づけることができる可能性がある。
・ナッジングは、予測値と解析値に誤差が生じた後、外力が加わるため解析値の変化に対して予測値が遅れる傾向がある。しかし、IAUは生じる予測値と解析値の誤差を前もって計算して外力として投入するため、ナッジングで生じる変化の遅れは生じない。
・ナッジングと比較して、計算負荷が約2倍である。
 
 ナッジングとIAUの違いを模擬的な1次元モデルで比較した。簡単のため、図2.23のように、初期時刻において、解析値と予測値は同値であり、次第に誤差が大きくなる場であると仮定した。また、本来ならIAUは解析時刻の中間点で接続するが、ナッジングと比較できるように解析時刻で接続した。
 図2.23に解析値と予測値の経時変化図と、ナッジングとIAUの外力の図を示す。ナッジングは、該当時刻における解析値と予測値とのずれに比例して外力が生じるため、初期時刻において外力は0であり、次時刻(τ)まで予測値が解析値から外れるにつれ次第に大きな力が生じる。一方、IAUは前もって次時刻(τ)における誤差を計算しておき、その誤差を外力として与えるため、常に一定の次時刻における誤差による外力がかかる。
 
図2.23  解析値と予測値の経時変化図(左)、
ナッジングとIAUの外力の模式図(右)
 
 上記の場合において、ナッジングとIAUを使用した場合の推算値の時系列変化図を図2.24に示す。ここで、ナッジング、IAUともG=0.5/stepとした。
 ナッジングは、初期には外力がないため、予測値と同様の変化をし、予測値が解析値から外れるにつれ次第に予測値から離れ、解析値に近づいていた。IAUは、初期から外力が加わるため、初期近傍では負の値を取り、次第に正の値になった。また、IAUで時刻τにおいて、G×(step)×(Wa(τ)−Wb(τ))の力が加わるため、Gを0.5/stepとした本計算では、予測値と解析値の中間の値となった。
 ナッジングは、解析値と予測値の誤差が生じた後に外力が働くため、同化するデータに対して遅れて変化していたが、IAUは予測値と解析値の誤差をあらかじめ計算して外力を設定するため、誤差の生じる前から変化が生じていた。
 
図2.24 ナッジングとIAUの比較図


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