日本財団 図書館


2.2.2 新たな台風ボーガス
 MM5の非現実的なパラメータの投入などの問題を解決する新たなボーガスとして大野木・上野(1992)、大野木(1997)、上野(2000)などに詳細に記述されている気象庁ボーガスを検討した。
 この台風ボーガスについては、神戸大学海事科学部海洋情報科学講座、大澤輝夫助教授と受託型協力研究を委託し、作成していただいた。
 気象庁ボーガスは、(1)地上気圧分布をFujitaの式から計算し、(2)高度偏差の3次元軸対象構造を、解析関数を用いて表現し、3次元高度場の計算を行い、(3)コリオリ、遠心力、気圧傾度力のバランスから傾度風を計算し、(4)解析値にある非対称成分を付加し、(5)クレスマン内挿によりゲス値への埋め込みを行う手法である。気象庁ボーガスの作成フローを図2.7に示す。
 これまでの台風ボーガスとの大きな違いは、以下の4点である。
1. 台風の取り除き過程が存在しない。
2. 気圧と風速との関係に、地衡風近似ではなく、傾度風近似を用いている。
3. これまでの台風ボーガスは風速を投入したのち、その風速にバランスした気圧を求めるのに対し、新たな台風ボーガスでは、気圧を投入したのち、その気圧にバランスした風速を求めている。
4. 新たな台風ボーガスでは、湿度の投入を行わない。
 
図2.7 気象庁ボーガスの計算フロー
 
(1)地上気圧分布の計算
 地上気圧分布PS(r)は、Fujita(1952)の経験式を用いた。
 
 
PS(r):地上気圧(hPa)
Pmax:無限遠の位置での地上気圧(hPa)
RO:最大風速半径(km)
r:台風中心からの距離(km)
 
 ここで、無限遠の位置での地上気圧Pmaxは、台風半径RBの円周上で平均した気圧PBと中心気圧PCを用いて、以下で求められる。
 
 
PB:台風半径RBの円周上で平均した気圧(hPa)
PC:中心気圧(hPa)
RB:台風半径(km)
 台風半径RBは、15m/sの風速半径であるR15を用いて
 
 
R15:15m/sの風速半径(km)
f:コリオリパラメータ(−)
 で表される。これは、強風半径を15m/sの速さで回転する空気リングを角運動量が保存するように外向きに移動させたときに回転速度が0m/sになる半径に相当する。台風中心付近での気圧分布のシャープさを表すROは、強風半径で風速が15m/sになるという条件から求める。
 
(2)3次元高度場(D値)の計算
 気象庁ANLボーガスは、高度のD値(台風域内の等圧面高度Zの周辺値からの偏差)の3次元軸対象構造を、解析関数を用いて記述する点に大きな特徴がある。任意の気圧面(p面)における、台風中心から半径rだけ離れたところのD値は以下で表される。
 
 
R:ガス定数(J/kg/K)
g:重力加速度(m/s2
Ps:地上気圧(hPa)
PB:地上気圧のリファレンス(hPa)
TB:層圧温度のリファレンス(K)
ZB:高度のリファレンス(m)
 ここで、リファレンスとは、台風半径の円周上で平均した値である。
 D値は、ZBからの偏差であり、最右辺の第2項は地上気圧のリファレンス値である気圧PBでのD値で、PSが小さくなるほど大きな負の値になる。それに対し最右辺の第1項は、温度偏差を海面から任意の気圧面まで鉛直に積み上げたものである。この段階ではPSは既知であることから第2項は既知の量である。従って問題は第1項を求めることに帰着する。第1項は以下の解析関数で表せるものと仮定する。
 
 
β:比例定数(−)
PTax:気温のアノマリーが最大となる気圧レベル(=250hPa)
PTa0:気温のアノマリーが0となる気圧レベル(=150hPa)
β,ζ,δ:パラメータ(−)
 ここで左辺第1項は、高度と共に(pがPsより小さくなるにつれ)In pについて線形にΔZを大きくする項で、このときの比例定数がβ(≥0)である。第2項は、 PTa0でΔZを最大にする項でP=PTa0を中心としてIn pについて対称な形をしている。ほかが同じであれば、ζ(≥0)が大きいほどΔZは全体的に小さくなる。第3項は、P=PTaxでΔZを最大にする項でp=PTaxを中心としてIn pについて対称な形をしている。δは最大値のシャープさを決める因子で負の値である。これらの3項を掛け合わせることによりΔZはp=PTaxとp=0の間のあるレベルで最大となる。どのレベルで最大となるかはパラメータβ,ζ,δの絶対値の関係に依存する。
 この解析関数はコンポジット解析で得られた台風構造を表現すべく作成されたものであり、PTaxは気温のアノマリーが最大となる気圧レベルであり、PTa0は気温のアノマリーが0となる気圧レベルである。これらを考慮すると前述のパラメータζ,βとPTax, PTa0との関係は、以下で表される。
 
 
 PSが台風中心からの距離(半径)の関数なのでζやβも半径によって値が異なる。βについては台風中心とそれ以外のところでは別々に計算される。台風中心におけるβの値は、台風中心でのあるレベルのD値が分かれば(2.8)式から計算可能である。ここでは、p=PTaxでD値が0になるとしてβを求めている。中心以外のところでのβは、p=PTa0のD値が台風中心から外側に向かって線形に減少し、台風半径のところで0になるという仮定に基づき、計算した。
 
(3)傾度風の計算
 傾度風は、以下のコリオリ、遠心力、気圧傾度力のバランスの式から計算した。
 
 
r:曲率半径(m)
Vg:傾度風(m/s)
 
 曲率半径は、台風中心からの距離とした。気圧勾配が負となり傾度風が求まらない場合は(上空などで起こりやすい)は、ボーガスデータを使用せず、ゲス値をそのまま使用した。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION