(4)非対称成分の付加
前項までで作成された軸対称成分ボーガスに対して、非対称成分を付加した。JMAボーガスでは、非対称成分としてはゲス値から抽出したものを利用した。まず、地上気圧場からゲス値に表現された台風の中心位置(以降、ゲス中心)を特定する。その後、各等圧面についてゲス中心から距離ごとに方位角平均高度を計算した。
Zb:ボーガス投入後高度(m)
Zbs:軸対称ボーガス(m)
Zg:ゲス値の高度(m)
Zgs:方位角平均高度(m)
上式の括弧内が高度場の非対称成分である。ここで、Zbを与える部分と、Zgを取り出してくる地点はそれぞれ実況の台風中心、ゲス中心からの距離、方位角が同じであるが、実況中心とゲス中心が一致しない限り、異なる地点である。
風速場についても、高度場と同様に、以下の式で計算する。ただし、Vbs・Vgsはそれぞれ高度場Zbs・Zgsから計算した。
Vb:ボーガス投入後の風速場(m/s)
Vbs:軸対称風(m/s)
Vg:ゲス値の風速(m/s)
Vgs:方位角平均風速(m/s)
(5)台風ボーガスの埋め込み
台風ボーガスでゲス値を修正する領域は円形であり、その半径を台風半径と称する。台風半径内で台風ボーガスをゲス値に埋め込む際は、以下に示すクレスマン関数による重み付けを用いて埋め込みを行った。
RB:台風半径(m)
W:ボーガス重み(−)
(6)台風ボーガス投入前と投入後の比較
前項までに示した台風ボーガスの投入前と投入後の解析値を、1999年の台風18号を例に、比較した。
投入前と投入後の気圧・風速分布を図2.8に、台風中心からの距離と風速・気圧の関係を図2.9に示し、台風中心からの距離と接線風速の鉛直断面図を図2.10に示す。風速は、最大風速半径(76km)でもっとも強く、ボーガス投入前30m/s、投入後40m/sと約10m/s大きくなった。風速は台風中心の南東部分がもっとも大きかったが、その非対称性も表現されている。気圧深度は、ボーガス投入前はベストトラックの気圧深度(930hPa)と比較して30hPa程度高く、なべ底の気圧傾度であった。ボーガス投入後は台風のシャープな構造が表現されており、ベストトラックと同程度の気圧深度になっていた。また、接線風速の鉛直断面図に示すように、3次元的に接線風速成分が強化されていた。
同時刻のボーガス投入前と投入後の地表面付近の温位分布図を図2.11に示し、台風中心からの距離と温位アノマリーを図2.12に示す。この台風ボーガスは、静水圧平衡を仮定しているため、台風の中心付近では約1度、高くなっていた。また、台風の南東付近の比較的低い温位分布があるなどの非対称性も表現していた。鉛直分布では、温位アノマリーの最大値は250hPa付近にあり、3次元的にアノマリーが強くなっていることが分かる。
図2.8 ボーガス投入前と投入後の気圧・風速分布
(上:投入前、下:投入後)
|