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図2.1-21  数値モデルによる内部潮汐の振幅・位相の分布.半日周期(上側)と一日周期(下側)成分.

(a)〜(c)では成層条件が異なる。(Kitade and Matsuyama, 1997より)
 
(4)数日周期変動の特性
 次に、東京湾の水質・海況に変動を与える数日周期の変動の特性について、富山町沖で得られたモニタリングデータから紹介する。図2.1-22は大島の風と富山町沖の水温時間変化を示している。水温変動には数日周期の変動が顕著に認められるが、この変動は大島の風の変動に見られるように、低気圧の通過などに伴う風の変動と関係している。たとえば、南西風が吹くと房総半島西岸の水温が上昇し、南西風が弱まると急激に水温が低下する関係が見られる。
 風に対する水温場の変動を模式的に図2.1-23に示す。南西風吹送時には、房総半島の西側に沈降域、東側に湧昇域が形成される。南西風衰退時には、房総半島の東側で湧昇域が東京湾湾口へ沿岸に捕捉された波(沿岸捕捉波と呼ばれる)として波及する。東京湾の湾口へ達した沿岸捕捉波は暖水あるいは冷水部と強い流れを伴い、湾内の密度成層の状態によって、東京湾内に伝播するか、湾口部を通過するかが決まる。沿岸捕捉波は、東京湾内部まであからさまに入射しない場合でも、順圧的な応答として、数十センチメートルの潮位変化をもたらすと考えられ、台風による吹き寄せや吸い上げ効果など他に潮位上昇を引き起こす要因が重なる場合には注意が必要である。このような数日周期の変動が、相模湾や富山湾、若狭湾などで強い流れ(急潮)を引き起こし、甚大な漁業被害をもたらしていることが最近になって明らかになってきた。しかしながら、この時間スケールの現象に対する監視と予報体制は関係省庁においてもほとんどなされていない。そこで、これまでの研究成果をふまえて監視・予報体制を整えることが本事業研究で進めているところである。2005年度の事業研究によって、水質・海況監視のためのアイテムはほぼ完成させることができたと言える。今後、設置場所を検討して、展開していくことにより予報体制の基盤を確立することができると考えている。
 
図2.1-22  上段:大島における風の変動.スティクの方向に風が吹いていることを示す.
下段:富山町沖で本水質監視装置で観測された水温記録.25時間の移動平均が施されている.
 
図2.1-23 風に対する水温場の変動を示す模式図.
左図:南西風吹送時には、房総半島先の西側で沈降域、東側で湧昇域が形成する.
右図:南西風衰退時には、房総半島先東側で湧昇域が東京湾湾口へ伝播すると考えられる.


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