2.1.3 データの解析結果とシステムの有効性
(1)背景
東京湾の湾口は相模湾東部に位置し、沿岸海域に大きな影響を与える黒潮が流れる外洋へとつながっている。図2.1-16は2002年の4月にNOAAによって得られた海面水温の分布で、黒潮から分岐した暖水が大島の西側から相模湾へと波及し、東京湾の湾口に達している過程を明確に示している。このように黒潮から分岐した暖水が東京湾湾口付近において漁業被害をもたらすことが近年明らかになっている。この暖水がさらに東京湾内湾まで進入するかどうかは、湾内の密度成層構造や風の場との関係によって決まると推察される。本事業で水質監視装置を設置する東京湾湾口東部の海域は、1998年5月下旬に黒潮系暖水が波及して急潮が発生した際、最初に被害が出た海域であり、水質監視装置の耐久性試験だけでなく、東京湾や相模湾への暖水波及を捉えるのに適した地点である。
図2.1-16 NOAAによる海面水温の衛星画像.
黒潮系暖水が相模湾・東京湾湾口東部へと波及する過程を示している。 |
ブイ型水質監視装置(第1号機)は千葉県富山町漁業協同組合が管理する定置網南側の土台ブイに係留され、2005年6月9日に設置して以来順調に稼動し、非常に有用なデータを取得することに成功している。ここでは、得られた水温データの意義と有効性について紹介する。モニター点の水深は約55mで、水温センサーの深度は5, 10, 15, 20, 30, 40mの計6層、測定間隔は10分である。観測記録はパケット通信により毎正時ごとに送信でき、準リアルタイムでの水温構造の監視が可能である。
(2)水温変動の特徴
水温記録(図2.1-17)には、半日・1日周期の内部潮汐による顕著な水温変動が見られ、大きいところでは5℃を超える温度変化がある。40m深に設置したセンサーの水温が10m深のものと同じになるという温度変化から、この内部潮汐による鉛直変位は30mに達すると判断できる。非常に大きな振幅の内部潮汐が観測された。
2005年6月10日〜9月5日の期間の記録から算出した水温パワースペクトル(図2.1-18)には、全層で半日周期変動に顕著なピークが認められる。また、40m深では、1日周期のエネルギーレベルもかなり高いことが分かる。10m深、20m深には2日周期帯にもピークが認められる。
図2.1-17 ブイシステムによって得られた水温記録の一例.
図2.1-18 |
2005年6月10日〜9月5日の期間の記録から算出した10m、20m、40m深の水温パワースペクトル |
(3)内部潮汐による信号の時間変化
内部潮汐の振幅の時間変化を調べるため、15日間ごとに分け(1: 6/10-6/24、2: 6/25-7/9、3: 7/10-7/24、4: 7/25-8/8、5: 8/9-8/23、6: 8/24-9/7)、各期間のパワースペクトルを計算した。図2.1-19に1日周期と半日周期のスペクトルエネルギーの変化を示す。観測期間の前半では、1日周期の振幅が半日周期に匹敵する値を持つことが分かる。図2.1-20に示すように、これまで相模湾内で行われた観測(1991年、Period 1: 7/14-7/29、Period 2: 8/2-8/16、Period 3: 8/31-9/14)では、1日周期変動は半日周期よりもかなり小さい。このように相模湾内ではあまり大きくない一日周期の内部波が顕著に見られると言う点が興味深いことである。
相模湾では一日周期内部波はほとんど観測されていなかったが、数値実験では、相模湾湾東部すなわち東京湾湾口東部においてその存在が示唆されていた。図2.1-18に数値モデルにより計算された内部潮汐の振幅の分布を示す。相模湾内では、半日周期の振幅が一日周期に比べかなり大きいが、東京湾湾口東部では、一日周期の振幅もかなり大きいこと推定されていたことが分かる。本観測の結果により、数値モデルの結果の妥当性が実証されている。
図2.1-19 |
各期間における1日周期、半日周期のスペクトルエネルギーの変化. |
図2.1-20 |
相模湾における内部潮汐に伴う水温振幅の分布. |
(Kitade and Matsuyama, 1997より) |
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