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2.1 水質監視装置の開発過程
2.1.1 水質・海況監視装置の経緯概略
 海況監視システムは大きく分けて、リアルタイムで現海況を観測し、解析して可視化する部分と観測データを数値モデルに組み込んで流況を予測する部分により構成される。2005年度では、まず現海況を監視するシステムの開発を中心に進めた。監視装置を設置した地点は図2.1-2に示した点A〜Cである。
 現場に設置する水質・海況監視装置は、日油技研工業(株)により開発された水質監視システムを基に、複数層での測流などに加え、大容量の観測記録をパケット通信により定期的に送信できるように改良された。さらに、荒天下においても安定して計測できるように、伝送装置全体を耐圧(ブイ)式にする改良を施した。実用化へ向けた現場とのやり取り、作業に関する経緯は表2.1-1に示したとおりである。ブイ式装置の開発・改良を進める一方で、千葉県安房郡富山町の漁業協同組合が管理する定置網(図2.1-2地点A)において、6月9日から第1号機の試験運用を開始し、データ収集・転送試験、耐久試験等、実用化へ向けた試験を行った。その後、2号機は神奈川県水産技術センターが管理する相模湾小田原沖(図2.1-2地点C)の係留ブイにおいて、試験・改良を繰り返し小型軽量化を図った。この試験結果を基に、3号機ではFRPコーティングした一体化ボディーとすることにより耐久性能を格段に向上させている。さらに、第1号機はデータ転送部の基盤変更と浮力調整を施した後でADCP流速計対応型へと改良し、富山町沖の定置網へと設置された。
 東京湾への外洋の影響を効果的に監視するために、2地点以上でモニタリングする必要がある。そこで、富山町に加えて、千葉県館山市坂田にある東京海洋大学水圏科学フィールド教育研究センター館山ステーション(図2.1-2地点B)に水質監視装置を設置した。ただし、館山ステーション沖には、適切な設置場所が無いことから、アクアeモニター(日油技研工業)を用いて実験用に取水している海水の水温と塩分を計測するように設置した。
 以上の水質監視装置からパケット通信により毎時送られてくる大量の観測データは、水塊構造や力学構造などの解析を施して、現海況を把握できるように可視化された。
 
表2.1-1 水質監視装置の設置作業に関する経緯
2005年
4月15日

日油技研工業とのブイ型モニタリングシステムの製作に関する打ち合わせ、およびモニタリングシステムの製作開始
5月19日 千葉県水産総合研究センター、千葉県富山町漁業協同組合の参事および定置網船頭らとの水質監視装置の設置に関する打ち合わせ
6月8-9日 水質監視装置第1号機を富山町漁業協同組合が管理する定置網に設置
6月10日 小型軽量化、耐圧性能の強化を図り、水質監視装置第2号機の試作開始
8月1日 ブイ型モニタリングシステム2号機の小田原沖(神奈川県水産技術センターが管理する係留ブイ)における現場試験
8月15日 小田原沖テスト機の撤収および修理調整
9月1日 小田原沖への2号機の再設置
11月14日 東京湾湾口東部富山町の第1号機を流速計タイプヘ変更するため撤収
11月18日 東京湾湾口東部富山町の定置網へ水温計アレイのタイプの第3号機を設置
12月27日 RD社のドップラー式流速計の膨大なデータを処理、転送できるタイプを設置
2006年
2月10日

東京海洋大学水圏科学フィールド教育研究センター館山ステーション(坂田)の水温センサーを水温・塩分センサーに改良
3月15日 海況モニタリングシステム(流速計タイプ)の回収整備作業
 
2.1.2 水質・海況監視装置の開発・設置状況
(1)第1号機
 第1号機は、図2.1-3に示した形状で、ステンレス製の枠にフロートを取り付けたタイプである。それぞれ独立した枠、浮体、電送装置を組み立てたものであり、装置全体の寸法は、直径約1.1m、高さ約0.9m、重さ約50kgである。本機は容易に浮力調整が容易で、使用するセンサーにより浮力を調整することができる。しかし、拡張性がある反面、大きく重いため、小型船舶での設置作業において難点がある。第1号機は、図2.1-4、図2.1-5のように千葉県安房郡富山町漁業協同組合の管理する定置網の土台に2005年6月9日に設置された。この第1号機は、11月14日まで設置されていたが、その間に幾度か通過した台風の時にも安定した水温データを提供し、ほとんどトラブルも無く運用試験を終えた。第1号機は、この安定性と十分な浮力を生かし、後述のADCP(Acoustic Doppler Current Profiler)による流速計測のタイプへと改良される。
 また、先に述べたようにこの第1号機は小型船舶での作業性の問題がある。今後の普及汎用性を考えると小型軽量化を推進する必要がある。そこで、第1号機の設置直後から、第2号機の開発が始められた。
 
図2.1-3 第1号機浮体形状の設計図(資料提供:日油技研工業)
 
図2.1-4 第1号機の概観
 
図2.1-5 第1号機設置作業.
右上のように先に係留用のロープを底網の土台に縛り、クレーン(左)で設置した。


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