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第2章 東京湾における海況監視システムの開発
 東京湾内で起こりうる災害は人為的災害と自然災害に大別される。人為的災害には船舶事故による重油流出事故や沿岸コンビナートや河川から重油や有害物資の流出事故が考えられ、短時間での防災対応が迫られる。人類への直接の影響と共に、海洋生態系への影響は計り知れないものがある。事故発生時には、まず有害物質の拡散・分散の正確な把握と高精度の予測などの一次的な対応が緊急課題となるが、中長期的な視野において人類への影響を含んだ生態系に対する影響の評価も必要になってくるだろう。
 一方、自然災害には海気象に伴うもので、台風や低気圧などの気象擾乱により引き起こされる気象災害、さらには気象災害と連動して起こる高潮や波浪による沿岸災害、また近い将来に本州南岸で発生すると予測されている大地震に伴う津波などが考えられる。都市化の進行と地球温暖化の影響を受けて湾内の水温が上昇し、その影響が水位にも現れ始めていることから、現象が複合的に起こった場合は非常に危険である。例えば、大潮時の満潮時に巨大な台風が通過すると水位は風に依る「吹き寄せ効果」に台風の「吸い上げ効果」で水位は数m上昇し、波浪はもちろん水位も高い防波堤を越える事も起こりうる。2004年の秋、瀬戸内海で高潮が発生し被害が出たことは東京湾災害対策の警鐘と考えるべきであろう。
 災害対策の基本的な点は、(1)東京湾の物理環境の現状、すなわち流動・水位・波浪などを正確に把握し、再現すること、(2)物理環境を常にモニターし、災害発生時により正確な状況を把握すること、(3)災害発生時に対応するための高精度の予測モデルを構築しておくこと、である。
 このため海況監視システムの開発に関する事業研究では、まず外洋からの影響を監視できるように、東京湾湾口に、連続して水温、塩分、流速の鉛直構造を測定し、リアルタイムでデータを取得できる観測システムを設置する。湾口での観測は、外洋からの影響をいち早く察知することだけでなく、東京湾内の流動を数値モデルで表現する際に重要な境界条件を与える。初年度では、これらの海況情報を専用のWebサイトにより、広く一般に公開することを第一段階の目標として事業研究が進められた。次年度以降において、湾口でのモニタリングに加え、湾内の主要地点にモニター点を順次増やすことができれば、高い精度で東京湾の海況を把握できるようになると期待される。
 次に、これらのリアルタイム海況情報を東京湾の海況予測モデルに同化することによって、より精度の高い流況予測ができるように現有モデルの改良発展を進める。さらに、このモデルを随時運用し、東京湾全域の海況の現況と予測値を公表できるシステムの開発を目指す。海況監視システムの構成の概略は、図2.1-1に示すとおりである。モニタリングを実施している地点は、図2.1-2のA、B、Cである。
 
図2.1-1 システム構成の概略図
 
図2.1-2  2005年度モニタリング実施地点.
A: 富山町漁業共同組合、B: 館山ステーション、C: 神奈川県水産技術センター
(a)東京湾全体の地形と2005年度モニタリング実施地点.
 
(b) 相模湾全体の地形と東京湾湾口.挿入図は日本における相模湾の位置.


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