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(7)海洋観測調査結果結果 武村浩希・齊藤誠一
1. 研究背景
北方四島を含む千島列島は北太平洋の中でも基礎生産量が非常に高く(Takahashi et al., 2002; Sasaoka et al., 2002; Honda, 2003; Goes et al., 2004)、生物資源の豊富な海域として知られている。千島列島周辺海域は、冬季に強い鉛直混合が生じ、有光層に栄養塩をもたらし、基礎生産に影響を与えていると言われている(Kusakabe et al., 2002)。また高基礎生産海域は、近年問題となっている地球温暖化において、気温を上昇させる要因となるCO2を海水中に多く取り込む重要な海域である。そのため、植物プランクトン量、クロロフィル a(chl-a)濃度、基礎生産量の推定は、炭素循環や炭素収支を予測する上で重要であり、食物連鎖の底辺を支える植物プランクトン分布の把握は、高次海洋生物の生息海域における餌環境を考える上でも重要である。
植物プランクトンをはじめとする海洋生物が生息する北方四島周辺の海洋の特徴として、北方四島は北側にオホーツク海、南側に太平洋の二つの大海を隔てている千島列島の南部に位置する。
北方四島太平洋側を流れる親潮の起源といわれる東カムチャッカ海流は、ベーリング海の南西部、オホーツク海の東部を南下して流れる(Kono, 1998; Stabeno et al., 1994 ; Overland et al., 1994)。この海流は、カムチャッカ海峡を50〜60cm s-1の速度で通過し(Stabeno et al., 1994)、その後カムチャッカ半島東部沿岸域を南西方向に流れ、千島列島北部からオホーツク海に流入するものと、太平洋側を流れるものとに分岐する(Kono and Kawasaki, 1997)。オホーツク海に流入した流れは、オホーツク海に反時計回りの循環を形成し、千島列島中南部より太平洋側に流出した後、太平洋側を南下する東カムチャッカ海流と混合し親潮水が形成される(Kono and Kawasaki, 1997; 大谷, 1989; 河野, 1990; 川崎・河野, 1992)。この親潮が、東北沖中層において黒潮と混合して26.8σθの塩分極小を特徴とする北太平洋中層水の起源と言われている(Yasuda, 1997; Kono, 1998)。また、海水交換の行われる千島列島周辺域およびカムチャッカ半島東岸域には、多くの中規模渦(直径100〜200km程度)が存在する(Rogachev, 2000; Ohshima et al., 2002)。千島列島北中部の中規模渦は、黒潮・親潮混合域や黒潮続流から切離されて北上してきた渦と、オホーツク海クリル海盆内の渦が太平洋に流出したものとに分かれる(Yasuda et al., 2000)。また、カムチャッカ半島東岸の中規模渦は、海岸地形と流速の変化により形成され(Cokelet et al., 1996)、これらの渦の規模により、東カムチャッカ海流、千島列島周辺親潮の流路や輸送流量は変化し(河野, 1990; Rogachev, 2000; Rogachev, 2002; Kono and Kawasaki, 1997; Rabinovich et al., 2002; Ohshima et al., 2002)、海水交換過程において重要な役割を果たしている(Kono and Kawasaki, 1997)。また、千島列島周辺海域は中規模渦による鉛直混合だけでなく、潮汐差により起こる潮汐混合が盛んな海域である(Nakamura et al., 2000; Nakamura and Awaji, 2004; Nakamura et al., 2004)。
オホーツク海は日本海の約1.5倍の面積で冬季その60〜75%が流氷で覆われる。流氷のできる海としては、オホーツク海は北半球で最も低緯度にあり、流氷南限の海といえる(Kimura and Wakatsuchi, 1999)。それはオホーツク海の表層の約50mが低塩分水で覆われており、この低塩分水はアムール川から流入する融雪水に起因すると考えられている(Shcherbina et al., 2004; 青田, 1986)。
冬季、流氷が生成・成長するにしたがって海氷から濃塩水(ブレイン)が排出される。排出されたブレインは、低温高塩分で比重が大きいため降下し、中層で安定する。暖流期になっても上層の低塩分水は暖まり、ますます比重が小さくなるため中層の水とは混合しにくい。したがって冬にできた冷たい中層水は、夏季においても100m層付近には水温極小(-1.7〜1.5℃)の低温を保ち続け、この水温極小水は中冷水と呼ばれる(大槻, 1983; 木谷, 1986; 青田, 1986; Gladyshev et al., 2003; Itoh et al., 2003)。一方、北海道沿岸は宗谷海峡から知床半島までほぼ海岸線に平行でかつ沖合いの水とはあまり混合せずに流れる宗谷暖流水が見られ(青田, 1975)、高温・高塩分水であることが特徴的である。この暖流は春から勢力を増大させ、夏季に最大となる(青田, 1975; 大槻, 1983; 山口, 1993)。夏季の輸送流量は毎秒80〜100万トンに達する(青田, 1986)。宗谷暖流の主流はその後、千島列島に沿って北上し、支流は知床半島沖から北上するものと、根室海峡を通って太平洋に流出する(Takizawa, 1982)。秋以降になると宗谷暖流水は衰退し始めて流氷期となる。北方四島を含むオホーツク海南西部では、冬季海上風により海氷が運ばれ、北海道オホーツク海沿岸に接岸する。その後、海水は平均して2月に根室・国後・択捉海峡から太平洋へ流出する(小笠原, 1987; 大谷, 1991)。この海氷の融解に伴い低温低塩分となった表層海水は、沖合いの親潮よりも密度が小さいために、沖合い方向に働く圧力傾度力と陸方向へのコリオリ力との釣り合いによって、沿岸境界流として安定的に道東太平洋沿岸を南下するということが分かっている(小笠原, 1987)。
以上のように北方四島周辺海域を含む千島列島周辺海域における物理的研究は数多く行われてきたが、生物的研究(特に、基礎生産量・植物プランクトン濃度に関する研究)はほとんど行われていない。そこで今回の調査では、北方四島周辺海域、特に歯舞群島・色丹島周辺海域における植物プランクトン分布特性とその海洋環境との関係を明らかにすることを目的とする。
2. 使用データ
各観測点(図1)において、クロロテック(アレック電子製)を用いて、水温・塩分・クロロフィル濃度(chl-a)を測定した。同時に、サイズ分画濾過・HPLC・吸光度測定用に表面海水を採水した。今回は表面水温分布及びchl-a分布、4本のラインの鉛直断面図をもとに解析した。
図1 2005年観測点
3. 結果
本調査中の歯舞・色丹島周辺海域における海面水温分布は、西側で約5℃の高水温、東側で約3℃の低水温となった(図2)。
図2 海面水温分布
また、二年前の6月の北方四島調査(択捉島周辺)海面水温分布結果と比べ全体的に2℃近く低温であった。表面chl-a分布は、最も低濃度の地点でも1mgm-3で、高濃度の地点では10mg-3もあり、本調査期間は春季ブルームをとらえていたと言える(図3)。
図3 海面chl-a濃度分布
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