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8. EUにおけるセキュリティ強化と貿易手続簡易化
8.1 EUと米国のセキュリティに関する協力
8.1.1 EUと米国の税関協力協定
 1997年5月、EUと米国は税関問題に関する相互支援協定(CMAA)を締結しました。この協力は、国際貿易のセキュリティに対する税関管理を確保するため、米国CBP、欧州委員会およびEU参加国の間で税関関連情報およびベスト・プラクティスについて意見交換を目的とするものです。
 
 適正貿易のセキュリティをより一層高めるためには、サプライチェーンのできるだけ早い段階で、輸出国の税関当局と協力により、コンテナの船積前または出港前あるいは積替え前に、輸入国の税関当局がハイリスク・コンテナを絞り込み、検査できるようなシステムが必要です。ハイリスク・コンテナを識別・検査して輸送中のコンテナ貨物の安全性を高めるため、世界中の海港の協力を高めることにより、グローバルな海上輸送の安全を保障するように設計されたCSIの目的をEUは支援します。
 
8.1.2 貨物のセキュリティに関するEUと米国の協定
 2003年11月、米国とEUは輸送のセキュリティに関する協定を締結しました。この協定はEUと米国が相互主義に基づいてセキュリティを促進することを目的とするもので、EUと米国の税関協力協定(CMAA)を拡大することになります。この協定の重要な点は、いわゆる米国の船積前24時間ルールの導入です。この協定により、欧州委員会が2003年7月に提案した「事前情報提供」(IP/03/1100)実施の可能性が高くなりました。30
 
30 EUIの改正関税法(COM (2005) 608 final)は、電子方式による事前申告を導入しました。
 
8.1.3 EUと米国のCSIに関する協定
 2004年4月、EU-US Agreement on CSIが締結され、欧州議会は、テロ対策として、EU域内の主要海港のセキュリティ強化および米国向け貨物の船積24時間前に電子方式によるマニフェスト情報提供を承認しました。この協定により、米国のContainer Security Initiative(CSI)を欧州の20の海港で導入することになりました。これらの港から米国へ輸送されるコンテナ貨物は、欧州から米国に向けて輸送される全コンテナ貨物の86%を占めます。
 
8.1.4 セキュリティ強化の新協定
 2004年11月16日、EUと米国はテロ対策として、海港を通して移動するコンテナ貨物のセキュリティ強化を目的とする新協定を採択しました。EUは税関職員を米国CBPの“National Targeting Center”に駐在させて、情報交換、ベスト・プラクティスの分担、テロリストの脅威に関するリスク要因の精査などの向上に取組みます。また、サプライチェーン・セキュリティを確保する一方で、貿易取引の迅速化を図るため、EUと米国の専門家は、EUおよび米国で実施される産業界とのパートナーシップ計画を研究する予定で、この研究成果は、C-TPATのような相互に受け入れられる形の産業界とのパートナーシップ計画の開発に向けて、今後の協力を支援することになります。さらに、先端技術が一層の効率性を高め、国際サプライチェーンのセキュリティを高めることを認識し、EUと米国は共同研究グループを設置して革新的な技術開発とその応用に関する共同研究を推進します。
 
8.2 EUの関税法近代化
8.2.1 EUのeCustoms VisionとStrategic Plan
 現行の共同体関税法(Community Customs Code: CCC)は、1990年代に加盟国の関税法を一つに纏めたもので、既に時代遅れのものとなっています。最近の情報通信技術の進歩と電子データ交換利用の急増に伴って、税関業務の対象に変化がみられるようになりました。そこで、効率的な税関業務処理および域内市場におけるリスク管理業務にかなった関税法の近代化計画への取組みがはじまりました。これはe-Europeイニシアティブ ― 特に、e -Governmentイニシアティブに基づくもので、関税法の近代化のビジョンとアクションプラン“Draft eCustoms Vision Statement and Multi-Annual Strategic Plan”31 を欧州委員会が2004年12月に発表しました。
 
31European Commission, Draft eCustoms Vision Statement and Multi-Annual strategic Plan, TAXUD/477/2004-Rev.3-EN, Brussels 20/10/2004.
 
8.2.1.1 eCustoms Vision Statementの概要
 欧州委員会およびEU加盟国は、次の点を2008年までに達成することを目標とします。
・すべての税関手続およびその他の問題(例えば、事前申告)について、EU全域の税関官署間で電子データ交換(electronic data exchange)を可能にする。
・輸入者は、貨物がどの加盟国を通ってEUに持ち込まれたかに関係なく、自社の営業所から電子方式で包括輸入申告または個別輸入申告を行うことを可能にする。
・輸出者は、貨物がどの加盟国を通ってEUから持ち出されたかに関係なく、自社の営業所から電子方式で輸出申告を行うことを可能にする。
・輸入税の徴収などの業務は原則として、輸入者または輸出者の会社設立場所および通関記録の保管場所を管轄する税関官署が担当する。
・国境および内陸にある税関官署で貨物の選別を行うためのリスク管理基準を導入する。リスク分析は、国際基準、EU基準および加盟国基準に基づくものとする。
・認定された経済関連業者(Authorized Economic Operators: AEO)は、通関業者も含めて、自社の要請により、EU全域で確立された基準に従って付与されたSingle Authorizationに基づいて事業を行なうことを可能にする。Single Authorizationは、貨物の迅速な処理、AEOに関する共通の認識番号(common reference)と共通のクオリティ基準(common quality standards)、およびEU全域の税関官署がアクセスできる共通のAEOデータベース(common AEO database)を前提とします。
・貿易業者は、輸出入取引がどの加盟国で始まり(あるいは終わる)かに関係なく、また税関以外の行政機関にかかわる場合でも、Information Portalを利用して適用される規則や手続を確認し、Single Electronic Access Point(シングルウインドウ、ワンストップサービス)にアクセスして業務を行うことを可能にする。
 
8.2.1.2 eCustoms Multi-Annual Strategic Plan (MASP)の概要32
 現行のコンピュータシステムおよび将来開発されるものを含めて、すべての税関システムは、eCustoms Multi-Annual Strategic Planの一部です。eCustomsに関するMASPは、(1)法律改正および手続簡易化、(2)税関業務集中化、(3)税関手続の電算化という3つのカテゴリーに分類されます。新しい挑戦に効率的に取組むために、3つの改革を並行して進めなければなりません。カッコ内は、各プロジェクトの遂行期間です。
 
32 European Commission, Draft eCustoms Multi-Annual Strategic Plan, TAXUD/477/2004, Rev. 4, Brussels, 8 June 2005.
 
(1)法律改正および手続簡易化(2003〜2007年)
 税関および経済関連業者(AEO)がベネフィットを受ける情報通信技術(IT)を使用するためには、電子環境に適応した関税法の改正が必要です。また、ITが広く使用されることによりEU域内の税関手続の簡易化と調和が促進されます。今回の関税法の改正は、(1)セキュリティ要件およびAEOに関する規定を追加することと、(2)関税法の近代化が主要目的です。
(1)セキュリティ要件およびAEOに関連する次の規定が含まれます。
・事前到着申告または事前出発申告に関する共通のデータセットに関する規定
・事前到着申告または事前出発申告に関する電子手続に関する規定
・貨物の輸入税関(customs office of import)と搬入税関(customs office of entry)の間のデータ交換、および貨物の輸出税関(customs office of export)と搬出税関(customs office of exit)の間のデータ交換に関する規定
・電子リスク・マネジメント・システムに関する規定
・認定された経済関連業者(AEO)に関する法的枠組みと共通基準
 
(2)関税法の近代化に関連する次の規定が含まれます。
・電子通関申告を行う貿易業者の義務
・シングルウインドウを導入する加盟国の義務
・AEOのためのSingle Simplified Declaration Systemの創設
 
(2)税関業務の集中化(2003〜2005年)
 共通の法規それ自体だけでは、経済関連業者や関税同盟の効率的マネジメントの実施を確保できません。税関手続簡素化およびリスク・マネジメントの分野では、法規改正に伴うガイドラインやワーキング方式が必要であると考えられています。税関業務を優先して集中するのは、次の課題です。
 
(1)リスク・マネジメント
 効率的なリスク分析を行うために、共通の基準に従ったデータ交換が不可欠です。税関2007年プロジェクト・グループが、2003年9月からリスク・マネジメント・システムを実施するための詳細な分析作業を行っているとのことです。
 
(2)AEOの資格に関する共通基準
 税関資源をリスク・マネジメントに集中し、認定された経済関連業者にとって有利な条件を提供するために、AEOの概念を明確にすることが重要です。欧州委員会の関税法改正案は複数の作業グループで検討されていますが、2005年に条文の起草が、33 また2006年にガイドラインの作成が予定されています。
 
(3)AEOに認める簡易化手続の共通基準
 AEOの資格に関する共通基準と並行して、資格認定に伴うベネフィットを明確にする必要があります。この作業は、リスク・マネジメント作業と協力し、また関税法改正案との調整を図りながら進められています。
 
33 欧州議会及び理事会は2005年11月30日、改正関税法案を発表しました。本稿8.2.2項を参照してください。
 
(3)税関手続の電算化
 税関業務処理の電算化は、税関当局および貿易業者双方にとってベネフィットがあります。これによって、税関当局は効率的なリスク分析、関税行政上関心のある貿易取引の流れのモニタリング、貨物の適切な選別などを行うことができます。電算化により、貿易業者は、EU域内でビジネスを行う場合にコスト削減ができ、貨物の移動を加速し、不必要な手続を省くことができます。欧州委員会は、EU域内の付加価値を高めるために、(1)加盟国間のインターオペラビリティと(2)貿易業者のための税関へのアクセシビリティを平行して進めることを提案しています。
 
(1)インターオペラビリティ
(1)異なる加盟国の税関当局間のインターオペラビリティ(2004〜2009年)
 域内の貨物の流れを円滑にするため、EU加盟25カ国の税関当局(およびその他の行政官庁)が貨物の移動およびAEOに関する情報を遅滞なく交換することが重要です。このため、加盟国および欧州委員会の自動税関システムはすべてCCN/CSIに完全に統合されて、欧州理事会によって集中管理されます。インターオペラビリティを確保するために、次の主要プロジェクトがあります。
・Automated Export System (AES) (2003〜2007年)
・Automated Import System (AIS) (2004〜2009年)
・Exchange of Risk Information (2004〜2007年)
・AEO database(s) (2005〜2009年)
(2)同一加盟国内にある関税局と税関業務に関係のある他の行政機関の間のインターオペラビリティ(2004〜2007年)
(3)税関手続にインパクトをもつセントラル・システム間のインターオペラビリティ
 輸出管理システム(ECS/AES)、輸入管理システム(ICS)、消費税貨物の移動を管理するシステム(EMCS)、共通通関システム(New Computerised Transit System: NCTS)、共通通信ネットワーク/共通システムインタフェース(Common Communication Network/Common System Interface: CCN/CSI)などの現行システムおよび将来導入されるシステムを統合して、これらの間のインターオペラビリティを確保します。34
(2)税関へのアクセシビリティ(2004〜2010年)
 貿易業者にとって、自動税関コンピュータ・システムに電子的にアクセスが可能であり、税関手続および情報入手がすべてオンラインで行われることが大切です。これは、欧州委員会のCommunication on e-Governmentに示されている“Inclusive Access”(Multi-Platform Access)の原則に基づいて達成されるものです。これに関連して、次のプロジェクトが進められています。
・Common Customs Information Portal for Traders (2004〜2010年)
・Single Electronic Access Point for Transactions (2004〜2010年)
 
34 EU加盟国2003年6月30日までにNCTSに完全に対応することを求められています。NCTSは、EU加盟国内にとどまらず、欧州域内で広く利用され、事実上、欧州標準システムとなっています。各国関税局のNCTS対応システムはベルギーのブリュッセルにある中央ドメインを通して相互に通信ができ、最終的に参加国の約3000の税関官署が接続されることになり、その他の欧州諸国も参加を検討しています。
 
8.2.2 改正関税法(近代化関税法)の目的と構成
 欧州議会及び理事会は2005年11月30日、「関税法(近代化関税法)を定めた欧州議会および理事会の規則」(Regulation of the European Parliament and of the Council laying down the Community Customs Code (Modernized Customs Code))35 を提案しました。改正関税法は税関手続簡素化と国境のセキュリティ強化を意図しています。改正趣意覚書は、提案の根拠と目的について、次のように述べています。36
 現行の共同体関税法(CCC)37 は既に時代遅れとなっており、国際貿易を取り巻く急激な環境変化、特に情報技術や電子データ交換の利用が急速に拡大している環境にも対応できないし、また、税関業務の焦点が変化している点にもついていけなくなっています。その結果、共同体市場における通関業務やリスク管理の効率が低下しています。Doha Development Agendaに沿って、EUの貿易簡易化およびEUの対外国境における安全とセキュリティ強化に取組まなければなりません。関税法の近代化、税関手続および手順の円滑化、ならびにITシステムに関する共通の標準ルールの採択などは、次のことを可能にします。
 
―税関領域におけるe-Governmentイニシアティブの導入
―できるだけ簡易化し、体系的に各種規則を見直した結果、この領域における良好な法規の完成
―EU域内でビジネスを行っている企業または当域内との取引を行っている企業の競争力の強化および経済成長の高揚
―情報通信の枠組みを構築して、リスク分析のための標準を含め、域内共通標準の導入、管理により、対外国境における安全とセキュリティの強化
―間接税、農業、商業、環境、保険および消費者保護政策に関する共同体政策に対する貢献
―改正規則、ガイドラインなどを実施するための有効な議決手順を確保することにより、欧州委員会が各加盟国の行政に対する優先権を要請する機会の取得
 
 このような幅広い変更は、現行の関税法をこれまでどおり改正するだけでは達成できないので、完全にこれをオーバーホールし、近代化された共同体関税法に置き換えることによってのみ可能であると判断されました。
 
 今回の改正関税法の提案理由の一つは、電子税関(e-Customs)により、企業が近代技術から十分に恩恵を享受し、貿易の円滑化によりe-Governmentの目的を達成することです。税関と貿易にとって簡単でペーパーレスな環境づくりを目指す欧州委員会の提案は2003年12月の欧州理事会議決により支持されました。現行法は1992年に採択されたので、特定の問題について限定的な改正を行った以外、全般的な改正は行いませんでした。現行法は紙をベースとした取引による手続を基礎としており、実際には各加盟国の電子システムにより電子通関手続が一般的に行われていますが、このようなシステムを使用することがEU域内の法律ではいまだに義務になっていません。全域内にわたってITを税関手続に適用することはまだ存在しませんが、共通通関システム(New Computerized Transit System: NCTS)は、このようなシステムの実現可能性を示唆するものです。
 
 さらに、税関の役割は、従来の関税徴収から、安全とセキュリティの確保、偽ブランド商品、マネーロンダリング、麻薬などとの闘い、衛生保健、環境、消費者保護法の適用、ならびに輸入貨物の付加価値税や内国税の徴収、輸出貨物の免税などを含む非関税的対策へと大きくシフトしています。関税法は、通関手続や貿易のための電子的環境に適応しなければなりませんが、同時にこのような環境を管理できなければなりません。さらに、経済関連業者(Economic Operators)と税関当局にとって、税関手続の簡素化とより良い制度を構築するために、税関法を大幅にオーバーホールすることが必要であると判断したのです。
 
 同法は全部で200か条からなり、次の9部で構成されています。
Title I: General Provisions
Title II: Factors on the Basis of Which Import or Export Duties and Other Measures in Respect of Trade in Goods are Applies
Title III: Customs Debt and Guarantees
Title IV: Arrival of Goods in the Customs Territory of the Community
Title V: General Rules on Customs Status and Customs Procedure
Title VI: Release for Free Circulation and Relief from Import Duties
Title VII: Special Procedures
Title VIII: Departure of Goods from the Customs Territory of the Community
Title IX: Customs Code Committee and Final Provisions
ANNEX: Correlation Tables 1〜3.
 なお、近代化関税法の概要説明書が発行されています。38
 
35 COM(2005)608 final, Brussels, 30. 11.2005.
36 Explanatory Memorandum of the Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council laying down the Community Customs Code (Modernized Customs Code).
37 Council Regulation (EEC) N0.2913/92.
38 European Commission, An Explanatory Introduction to the Modernized Customs Code, Brussels, TAXUD/447/2004 Rev. 2, 24th February 2005.


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