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13 規則の適用
 ノンバラスト船型の実用化に向けて、安全上や海洋汚染防止の観点から、船級規則や国際条約の適用上、本船型の特有の問題となりそうな次の規則要件について検討を行った。尚、船級規則としては、日本海事協会の規則を想定した。
1)航海船橋の視界(SOLAS条約V章22規則)
 ノンバラスト船型は、空荷状態において船尾トリムが増加するため、船橋視界が悪化する事が予想される。これを解決する為には高い操舵室配置とする必要性がある(スエズマックスタンカーの場合は従来船型より1層高くする必要がある)。
 本問題については、他船種・船型にも共通の一般的な問題として、前方監視システム等の代替システムの実用化・規則化が国際的に認められれば、居住区配置の制約が減り、より柔軟な設計が可能となる。
2)喫水/トリム要件(MARPOL条約13規則(2))
 タンカーには、貨物油タンクにバラスト水を積載することなく安全なバラスト航海ができるよう、貨物タンクとは分離された分離バラストタンク(以下、SBTという。)の設置が求められ、その容積が定められている。ノンバラスト船では、バラスト水を積載しなくとも安全な空荷状態の航海が可能であり、しかも、より厳しい海象においても、前述に規定の喫水/トリム状態より浅い喫水で比較的安全に航行できる等の利点を有している。しかも、船体配置上、バラストタンクとして利用可能な十分なボイドスペースを有する本船型は、種々の空荷状態に対応できる柔軟性のある船型であると考えられる。
3)船首船底スラミング強度
 本ノンバラスト船型特有の船底傾斜及びV型船首形状は、通常最も厳しいと考えられる船首正面波に対しスラミング衝撃を緩和させる効果があるため、在来船型に較べて比較的浅い船首喫水においても十分安全に航行できることが分かった。一方、スラミング衝撃に対する船首船底部の強度は、損傷事例からの逆解析により荷重と強度評価算式が与えられ、これが永年の就航実績により見直され改善されてきたものである。この規則要件の背景には、荒天遭遇時に、船首喫水や船速の調整を行うという前提に条件が存在しているものの、これらの条件に関する指針は共有されていない。本研究開発では、これらの問題に対して、種々のバラスト状態への対応が可能であることから、より高い安全性を追求する為に、海象に応じた所要の船首船底強度及び船首喫水を与える方法を提案した。
4)縦強度
 船体を一本の梁としてその強度を規定する縦強度要件は、船体重量分布及び浮力分布により発生する静水中曲げモーメントに波浪変動圧分布により発生する波浪曲げモーメントを加えたものに対して、十分な船体梁としての強度、即ち、縦部材に発生する縦曲げ応力が許容応力内に収まり、且つこれが十分な座屈安全率を有する必要がある。従来船型に適用されてきた波浪縦曲げモーメントは、あくまで従来型船型に対してパラメトリックに算式を与えるものであり、本ノンバラスト船型の様に船底が広範囲に亘り傾斜する船型に適用できるか否か不明であることから、船体運動計算及び模型船を使用した水槽試験によって、本船型の設計波浪縦曲げモーメントを求め所要の縦強度要求値を示し、船体構造の試設計に反映した。
5)横強度
 従来船型に適用されてきたタンカー船体構造の横部材の寸法を与える算式は、あくまで、実績ある一般的な船型に対して定めたものであり、本船型に対しては、作用する波浪加重を修正して構造解析を行った上で、構造部材の寸法・配置を決める必要がある。本船型用に新たに求めた設計荷重を用いて、日本海事協会の「タンカー構造強度に関するガイドライン(PrimeShip-HULL)」に従って試解析(3次元FEM解析)を実施し、必要な補強を行えば十分な横強度を得る船体構造設計が可能である事を確認した。
6)疲労強度
 疲労強度は、構造部材に作用する応力振幅とその作用回数並び作用方向に大きく影響を受ける。特に、構造不連続部における応力集中が応力振幅を大きくせしめる。本船型では、一般に最も疲労強度が厳しいと予想される船側縦通肋骨において、同部材が配置される二重船側区画(バラストタンク)の内圧の作用頻度が小さく、圧縮応力状態が多い為、従来船型より安全側であることが予想される。実船の設計においては、積付状態を特定した上で日本海事協会の「タンカー構造強度に関するガイドライン(PrimeShip-HULL)」に従って疲労強度計算を実施し、要すれば、ソフトブラケット取り付け等の応力集中緩和措置により、十分な疲労強度を有する構造の設計が可能と考えられる。
7)その他
 実船の設計に向け、本ノンバラスト船型の利点を極力活かす実用的な設計を実現する為に、従来船型ではそれほど困難とならなかった機能要件を、従来船型と同等以上の安全性を確保しながら達成できるような規則開発が、今後必要となるものと思われる。
 例として、1)で述べた前方監視システムによる船橋視界要件の代替、燃料消費に伴うトリム変化が少ない燃料油タンクの船体中央部付近(貨物エリア内)での配置等が考えられる。従来船型では、これら代替措置を採用せずとも容易に規則を満足することができることから、これら課題に対する検討が十分には行われていない。しかし、本船型においては、これら課題を適切に検討することにより、本船型の実現が比較的容易になるものと期待できる。今後、具体的且つ実際的な設計を行う過程でこれらの課題を解決していく事が、本船型の普及に役立つものと考える。
 
図34 応力評価、座屈評価の結果
(拡大画面:51KB)
 
14 経済性評価
 ノンバラスト船型の経済性について検討するため、イニシャルコストである建造費と就航中のコストである年間収支を試算して比較した。
 
(1)建造費試算
 ノンバラスト船では船底傾斜による満載排水量減少を船幅大型化で補うことから、この大型化とそれに伴う縦曲げモーメント増加のため、船殻重量が増加する。第12章の試設計結果ではスエズマックスタンカーで4,500トン、VLCCで5,400トンの船殻重量増加と推定され、これによる建造費増加は、各々6億円、7.5億円程度と見積もられる。
 ノンバラスト船では、特別な船底形状に対する盤木の問題が指摘されるが、1隻のみの建造と、これら船舶の建造が一般化した時点での建造では、コストアップ要因は、大きな違いを生じることとなる。このため、本試算では、既存のインフラストラクチャーに整合させるための費用は、考慮しなかった。
 他方、在来船型については、バラスト水処理装置搭載が義務付けられるが、それに関する装備基準、価格等が未決定であることから、それらの費用を加味していない。
 以上から、建造費としては、ノンバラスト船型の船殻重量増加による建造費増加のみを考慮した。
 
(2)年間収支試算
 第4章でノンバラスト船型は在来船型に比べて推進性能が向上することを示したが、それによる年間収支向上を試算した。
 試算の基礎となる燃料価格、為替レート等は変動するが、表6の計算条件に示す値を使用した。
 この年間収支試算に当たっては、推進性能向上を馬力減少による燃料費減少として算定する方法、速力増加に反映させて航海数の増加による運賃収入増加として算定する方法等が考えられる。幾つかの試算結果を表6に示す。
 試算1: 在来船型及びノンバラスト船型の満載状態の速力が同一となるように主機関馬力を選定するものとし、そのときの年間運賃収入差と年間燃料費差の違いを算定した。この場合、ノンバラスト船型の空荷状態の速力が在来船型に比べて大幅に向上するので、ノンバラスト船型の年当たりの航海数が多くなって運賃収入が増加する。表6に示すように、年間運賃収入差としてはスエズマックスタンカーで69百万円/年、VLCCで86百万円/年の増加である。他方、年間燃料費差は、各々、14百万円/年、20百万円/年の増加で済むから差し引きの年間収支差は、スエズマックスタンカーで55百万円/年、VLCCで66百万円/年となり、ノンバラスト船型は在来船型に比べて年間収支が改善されることが分かった。
 試算2: 在来船型及びノンバラスト船型の主機関馬力を同じとした場合の試算である。ノンバラスト船型の空荷状態の速力は向上するが、満載状態の速力が在来船型に比べて少し低下するのでノンバラスト船型の年当たりの航海数増加が試算1に比べて若干少なくなり、年間収支改善は試算1に比べて小さい。
 試算3及び4: 試算法は試算2と同じであるが、図27に示した船幅を50mに抑えたケース(□■印)を試算3、4として表6に示す。試算3では、馬力減少が大きいので年間収支改善もかなり大きい。
 
表6 年間収支の試算
スエズマックスタンカー VLCC
計算条件 航路
航海距離[Sea mile]
アフリカ西岸〜北米東岸
5,200
ペルシャ湾〜日本
6,800
燃費率[g/ps/h] 125 123
燃料単価[$/ton] 150
年間稼動日数[day] 355
World Scale 150 100
Flat Rate[$/ton] 11.3 13
為替レート[円/$] 115
cargo[kton] 130 250
年間収支差
百万円
試算1
満載速力=一定
年間収入差 69 86
年間燃料差 14 20
年間収入差−年間燃料差 55 66
試算2
機関馬力=一定
年収差 26 47
年間燃料差 0 -1
年収差−年間燃料差 26 48
試算3
機関馬力=一定
B=50m、dF=17m
年収差 55
年間燃料差 0
年収差−年間燃料差 54
試算4
機関馬力=一定
B=50m、dF=16m
年収差 11
年間燃料差 0
年収差−年間燃料差 11
 
 以上の試算結果を併せて図35に示す。横軸は(1)の建造費増加額、縦軸は(2)の年間収支差である。図中の線は、現在価値法による回収所要年数を示す。年金利が3%の場合について回収所要年数が10年、20年の線を示している。図の左上が回収年数減少の方向である。なお、図中の試算3、4の建造費増加額は、図27に示した船殻重量増加量から、建造費増加額は船殻重量増加量に比例するとして求めた。
 本図を見ると試算1の場合の回収年数は、スエズマックスタンカーで14年弱、VLCCで14年強である。また、図中に□印で示したように船幅を50mに抑えそれを満載喫水の1m増加で補うようなノンバラスト船型では10年弱で済むことが分かる。
 以上の結果から、ノンバラスト船型は、在来船型で必要となるバラスト水処理装置の設備費及び運用費を考慮しなくても、在来船型に対して推進性能向上によって建造費増を賄うことが可能なことが判明した。図35で判るように、回収年数は船型の選定により変化すると共に、左上向きの矢印で示したように、船殻重量軽減、推進性能向上により改善することも可能である。なお、為替レート、燃料価格、運賃指標が変化すると、上記の結論も変わってくることに注意しなければならない。
 なお、最近IACSで採択された船体共通構造規則CSR(Common Structural Rule)では、大型のバルクキャリア及びタンカーで在来船より船殻重量の増加を余儀なくされることが判明している。ノンバラスト船にCSRを適用した場合、更なる船殻重量増加の要素はあるものの、検討の結果、ノンバラスト船型は、在来船型に比べて、その影響が軽くなることが判明している。
 
図35 ノンバラスト船型の経済性の検討
現在価値法による回収所要年数の評価


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