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15 まとめ
 本研究開発では、バラスト水に含まれる海洋生物の海域間移動による生態系破壊の防止を目的にバラスト水の海域間移送をしないで済む船型として、
 
1)バラスト水を積載しない空荷状態で、在来船型のバラスト状態と同等の耐航性能を有すること、
2)経済性から燃費を5%以上節減すること
 
を目標として、
1)大きな船底傾斜を有する幅広船型で、
2)V型船首形状を有し、直径が制限されたプロペラを備えた船型
 
を開発した。その主な結論は下記のとおりである。
 
a)耐航性能
 バラスト水を搭載しない空荷状態でも在来船型の空荷状態と同等の耐航性能を有する。
b)推進性能
 推進性能が在来船型に比べて6%以上向上した。
c)操縦性能
 IMO操縦性基準を満たしている。
d)船殻重量
 船殻重量増加により建造費が増加するが推進性能向上により15年程度で回収できる。
 
 以上のことから、本研究開発目標は達成したと考えられる。
 
 バラスト水管理条約では、在来船型に対して、バラスト水処理設備の装備が義務付けられ、バラスト水の漲排水の都度、浄化作業が求められる。これに比べ、ノンバラスト船型は、バラスト水処理設備を装備しない状態の在来船型と同等の経済性を有していることが確認されたもので、バラスト水処理装置の装備、運用に要する経費、更にバラスト水洋上交換に要する労力を考えると、ノンバラスト船型の優位性は明らかである。
 本研究開発では、スエズマックスタンカー及びVLCCをモデルとして比較検討を進めたが、推進性能、波浪中の安全性、操縦性能といった基礎的な条件について広範囲に検討を進めると共に、船幅と満載喫水を変えたときの諸性能の変化についても多くの知見が得られ、バラスト水を全く積載しないノンバラスト船型の応用として、経済性・運用面から、深い喫水の選定、小容量のバラスト水積載との併用といった選択肢についても、総合的な判断を加える一助となった。また、中小型タンカー、鉱石運搬船、バルクキャリア等の他の船型・船種への応用にも十分に役立つ研究であったといえる。
 本研究開発は、革新的な技術の確立を求めたものであり、以下に示すような、既存のインフラストラクチャーによる制約は、十分には満足していない。(既存のインフラストラクチャーを前提とすれば、革新的な技術開発は阻害されることが多い。)
・既存の造船設備に対して船底傾斜部の建造、支持方法についての課題もあるが、船体中央部の平底部の幅の拡大、船首尾における船底形状の変更等、色々と考えられるので、実際の船の建造に際して十分な検討が望まれる。
・空荷状態では船底傾斜部が水面上に出て岸壁設備、曳船等との兼ね合いが不都合になる場合がある。これに対する最も安直な解決策はノンバラスト船側でのバラスト水積載による喫水増加であるが、ノンバラスト船型の特質を充分に生かすためには、岸壁設備・曳船側での対処が必要となる。
 
 バラスト水の処理等に関する条約に基づく詳細規定、及びこれらの規定を満足する処理装置の製品開発が実現していない現在、これらの処理装置の設置に必要なスペース、設置費用、運転費用等、不明である。他方、ノンバラスト船型は、これらの装置を装備することなく、あるいは必要最小限の容量でバラスト水移送に伴う海洋生物移動という海事産業に課せられた責務を解決する手段として有効であることから、環境に優しい全く新しい次世代型の船舶として、今後、できるだけ早くノンバラスト船型が建造され、海洋環境保全に大いに貢献することが期待される。
 
 最後に、本研究の実施にあたってご支援いただいた旧運輸施設整備事業団、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構及び日本財団、また、ご指導いただいた国土交通省に厚く御礼申し上げます。


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