3 船型、載貨状態
ノンバラスト船型の設計に当たっては、従来の知見・経験も踏まえて試行錯誤を繰り返した。設計における留意点は以下のとおりである。
1)ノンバラスト船型と在来船型は、長さ(全長)、載貨重量、満載喫水を同じとする。
2)比較対象とする在来船型は、実績データを基に要目を決定した。バラスト状態の船尾喫水はプロペラ全没の条件から、船首喫水は実績を参考に決定した。バラスト量はバラスト状態の排水量から船殻重量、燃料等を差し引いたものである。
3)船底傾斜による排水量減少は船幅増加のみで補う。
4)空荷状態の船首喫水を3mとした。これは在来船型のバラスト状態の船首喫水の約半分であるが、船首船底スラミングの問題は船首部フレームラインのV型化で対処した。
5)必要船尾喫水を小さくするためプロペラ直径を在来船型の10%減とした。このためプロペラ効率低下により数パーセントの馬力増加となる。
6)空荷状態の喫水と排水量(軽荷重量と燃料等の合計)から船底傾斜が決定されるが、船底傾斜が小さい場合、空荷状態の喫水を確保するためにバラストが必要となる一方、船底傾斜が大きい場合、排水量減少を補うための船幅増加が大きくなる。
このようにして決定したスエズマックスタンカーのノンバラスト船型の形状と喫水を図3、4に示す。図4には在来船型の正面線図も示す。
図3 ノンバラスト船型(スエズマックスタンカー)
図4 正面線図の比較(スエズマックスタンカー)
表1にスエズマックスタンカー及びVLCCの在来船型とノンバラスト船型の要目を示す。
表1 在来船型及びノンバラスト船型の要目
初期計画
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スエズマックスタンカー |
VLCC |
在来船型 |
ノンバラスト船型 |
在来船型
(類似船) |
ノンバラスト船型 |
垂線間長 Lpp[m] |
265.00 |
267.00 |
316.00 |
317.50 |
水線長 Lwl[m] |
271.00 |
322.50 |
型幅B[m] |
43.00 |
56.00 |
60.00 |
70.00 |
船底傾斜 |
0° |
15.2° |
0° |
10.8° |
型深さD[m] |
23.80 |
22.50 |
28.90 |
27.30 |
主機関(MCR) |
16,740ps |
36,960ps |
プロペラ直径 Dp |
8.60 |
7.70 |
9.50 |
8.55 |
|
満載状態
喫水 dF[m] |
16.00 |
19.10 |
計画排水量[t] |
160.000 |
162.500 |
300,000 |
303,000 |
LPP/B |
6.16 |
4.77 |
5.27 |
4.54 |
B/d |
2.69 |
3.50 |
3.14 |
3.66 |
CB |
0.856 |
0.663 |
0.808 |
0.696 |
AR/LPPd |
1/51 |
1/71 |
1/57 |
1/66 |
|
空荷状態
|
バラスト状態 |
ノンバラスト状態 |
バラスト状態 |
ノンバラスト状態 |
船尾喫水 dAP[m] |
8.82 |
7.90 |
9.74 |
8.76 |
船首喫水 dFP[m] |
5.84 |
3.00 |
7.04 |
3.10 |
排水量[t] |
68,650 |
28,100 |
122,370 |
50,000 |
バラスト水[t] |
43,050 |
0 |
75,370 |
0 |
|
その他の載貨状態
|
ノンバラスト状態 |
荒天時バラスト状態 |
ノンバラスト状態 |
荒天時バラスト状態 |
船尾喫水 dAP[m] |
4.88 |
7.90 |
5.99 |
8.76 |
船首喫水 dFP[m] |
0.92 |
5.07 |
1.25 |
5.34 |
排水量[t] |
25,600 |
38,860 |
47,000 |
68,840 |
バラスト水[t] |
0 |
10,760 |
0 |
18,840 |
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図3、表1で示した荒天時バラスト状態とは通常以上の荒天に遭遇した際の航海を想定した喫水で、在来船型の通常のバラスト状態で搭載するバラスト水の1/4を搭載して船首喫水を深くした載貨状態である。
在来船型、ノンバラスト船型等の深さ方向排水量分布の比較を図5に示す。横軸は平均喫水の満載状態の喫水に対する比、縦軸は排水量の満載排水量に対する比である。太い実線(ノンバラスト船型)を破線(在来船型)と比べて分かるように、ノンバラスト船型の空荷状態では船型と喫水の両方の工夫によりノンバラストの条件を確保していることが分かる。
図5 深さ方向排水量分布(スエズマックスタンカー)
推進性能試験結果を図6、7に示す。図6はスエズマックスタンカーの制動馬力である。図7はVLCCの制動馬力である。図中の在来船型の性能は、以前に日本造船技術センターで水槽試験を実施していた類似船の平均的性能である。満載状態では、所要馬力が若干大きくなるものの、空荷状態では、大量なバラスト水が不要なことから、大幅な所要馬力削減が可能となっている。本図から、満載状態及び空荷状態を総合的に評価して、スエズマックスタンカーでは5〜7%程度、VLCCでは6〜7%程度、平均で6%以上の馬力削減が得られていることが分かった。
図6 スエズマックスタンカーの制動馬力
在来船型:類似船型の平均性能
ノンバラスト船型:6.2m模型船
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図7 VLCCの制動馬力
在来船型:類似船型の平均性能
ノンバラスト船型:6.2m模型船
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図8 スエズマックスタンカー
ノンバラスト船型のプロペラ位置の伴流分布
図9 VLCC
ノンバラスト船型のプロペラ位置の伴流分布
図8、9にスエズマックスタンカー、VLCCのプロペラ位置の伴流分布を示す。船底傾斜に伴う異常な流れは生じていない。流れの円周方向変化も穏やかでプロペラのキャビテーション性能に悪影響を及ぼすような点も認められない。
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