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(3)バーの存在する場合
 次にカスプに加えてバーが存在する場合にどのような流れが発生するのかを検討する。浦富海岸での現地実測においてもラージカスプに加えてバーが存在する状況下での離岸流を確認している。図−2.3.51にはリモートセンシングによって撮影されたそのときの流況を示している。この離岸流は2003年の7月6日に発生が確認された。図より明らかなように、カスプ地形に加えてバーが存在しており、さらにバーが汀線の凸部の先で途切れているのが分かる。その汀線凸部へと汀線に沿った流れが発生し、その流れが収束されて汀線凸部より離岸流が発生している。離岸流速は約0.7m/sであった。このような離岸流は現在までほとんど報告されておらず、その特性も不明な点が多い。
 
図−2.3.51 汀線凸部より発生する離岸流
 
 最初にバーが汀線に対して逆位相の場合(out-of-phase)について検討を行う。地形は図−2.3.44、図−2.3.45に示したような地形で与えた。まずバーが存在する場合に波高の変化に対してどのような流況の変化が起こるのかを検討する。ここでは入射波の周期を6.0sに固定し、波高を25、50、75、100cmに変化させて検討する。また地形はカスプの波長を100m、振幅を10mとし、バーの位置は1.0m程度の入射波が砕波する位置に形成されると考え、汀線より50mの地点(水深約1.3m)に設置した。バーの頂点部での水深を0.5m、バーの高さは0.8mとし、バーの振幅を10mとし計算を行った。図−2.3.52には波高25cm、50cmの場合の計算結果を示している。
 図−2.3.52を見ると,波高の変化によって大きく流況が異なることが分かる。波高が小さい場合では波はバーで完全に砕波しておらず、カスプの影響を受けて汀線凹部より離岸流が発生している。また流れの循環はバーの内部で発生し、バーより沖ではほとんど流れは発生していない。流れを引き起こす波高が小さいのと、循環の範囲が小さいためバー内の流速も非常に小さい。一方波高を0.5mにした場合、入射波はバー部分にて砕波することでバー内は波高が小さく比較的静穏な場となっている。流況は(a)とまったく異なり、汀線凸部のバーの切れ目から離岸流が発生している。またバーを通り越えてバー内部に入る流れがあり、その流れが汀線凸部へと収束されて離岸流となっていることも分かる。現地で観測されたものと非常に近い流況である。またバーの内部、汀線凹部周辺では(a)と同様に汀線凹部で沖向きの流れをともなう循環が形成されている。しかしこの流れはバーの沖側で発生する流れに比べて非常に小さい。波高を75cm、100cmと変化させた場合も汀線凸部での流れとなり、波高の増加に伴って単純に流速が早くなる結果となった。
 
図−2.3.52 バーのある地形での計算例
(a)H=0.25m
 
(b)H=0.5m
 
 図−2.3.52に示した場合の波高の分布を図−2.3.53に示す。前述したように、両ケースともにバー部分で砕波しているが、(b)の方が砕波の程度が大きい。そのためバー内の波高は(b)よりも(a)のケースの方が大きくなっている。またその砕波の度合が大きいため(b)のケースではバー内で、バーの切れ目とバー背後との波高の差が非常に大きくなっている。そのためバーを通り越した流れが汀線凸部へと集中したものと考えられる。流れが(a)のパターンになるのか、(b)のパターンになるのかはバー部分での砕波の度合いによるものと考えられる。


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