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 図−2.3.47には図−2,3.46の(a)、(b)時の汀線凸部、汀線凹部のラディエーション応力の勾配を示している。DSX、DSYは式(2.3.4)、(2.3.5)の右辺のラディエーション応力項であり、以下式で表される。
 
 
 
 ここでのDSX、DSYは岸沖・沿岸方向の流れの推進力を示している。
 
図−2.3.47 ラディエーション応力項の比較
(a)tide=0.0m
 
(b)tide=-0.8m
 
 図中のDSXが最小となる点が砕波点であり、それより岸側の値が流れの推進力となっている。DSYではDSXと同様の場所で砕波の影響が見られる。また、潮位が下がったときにDSXに関しては値が半分程度になっているのに対して、DSYの値は極端に下がっていることが分かる。DSYの値は沿岸方向の流れを引き起こす推進力であり、その値が小さいということは沿岸流が発生しにくいことを示している。つまり、DSYの値が小さいために汀線凹部に収束される流れが発生しなくなり、その結果汀線凹部より発生する離岸流が存在しなくなる。
 また、同様に流れを発生させる要因となるセットアップを沿岸方向に見たものが図−2.3.48になる。潮位差によって汀線の位置やカスプの規模が変化するために、水面の差が最大になる点を示している。場所としては汀線凸部よりやや沖側の位置で両ケースとも最大の差となっていた。潮位変化のない(a)のケースでは、約11cmの水位差が発生しているのに対して、潮位を下げた(b)のケースでは約3cmとほとんど差が生まれていない。これは凸部と凹部の砕波位置の違いが大きい(a)では水位上昇の差が大きく、砕波位置の差があまりない(b)では水位の差が小さかったものと考えられる。カスプ地形が波の砕波にどの程度影響を与えるのかによって砕波位置の差が発生することから、カスプの影響範囲χwが非常に重要なパラメータとなっていることが分かる。また水位上昇は流速と相互に影響するので、凹部で流れが発生しなかったことも(b)での水位差を発生させなかった一因であると考えられる。
 
図−2.3.48 水位上昇の比較
 
 このようにカスプ地形が存在する場合でも、潮位差によって汀線凹部へと流れ込む推進力であるラディエーション応力の勾配、さらに水位勾配が減少するとカスプ地形による循環流が発生せず、それによって流速が極端に減少し、離岸流が発生しなくなる。またそれらを決めるのは砕波位置に対するカスプの影響であり、カスプの影響範囲χwが重要なパラメータである。
 ここまで潮位による流れの変化を見てきたが、ここからは波向きによる流況の変化について検討する。これまで行われた離岸流の実測結果をまとめると、波向きがほぼ直角入射の場合に圧倒的に観測数が多く、波向きが20度以上になると極端に観測数が減少している(図−2.3.49)。
 
図−2.3.49 代表的な既往実測例における波向きと離岸流の発生割合


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