描画法の特徴ですけれども、先程少しやってみましたが、これはアナログ画です。皆さんのように怒りについて描いています。喜びのアナログ画は、このように丸をたくさん描く方が多いです。これは答えではないです。こういうタイプの方が多いということです。
これはベティ・エドワーズというカリフォルニア州立大学の教授が発見したことなのです。スペリー博士と一緒に研究して、右脳の研究をスペリー博士と研究をして、この学習法は採り入れられたのです。日本ではほとんど採り入れられていないです。一つは純粋輪郭画法。画面を絶対見ない。手を見ながら、手の微妙なでこぼこに目を向けながら、ネガの形を意識しながら、画面を絶対見ないで描くっていうことなのです。これはとても面白い。例えばこういう感じです。絶対画面を見ない。心配でしょうがないのです。心配でしょうがないけど絶対画面を見ない。その中に素晴らしい線が描いてある。もちろん、手らしい絵は描けません。手には見えないけれど、画家が使う線が描けてくるのです。
それから有名な逆さ絵。(図)模写するのだったら逆さにしてください。逆さにすると、美術勉強してきた人もしてこなかった人もほとんど同じように描けます。それが正位置にしてしまうと、がらっと変わります。勉強してこなかった人は全く描けません。勉強してきた人は描けます。逆さにすると、左脳が付いていけなくなって、皆さんの右脳が動き始めて描けるのです。これは不思議ですよ。皆さんがお父様の写真かなんかの絵を描こうと思ったら、写真をコピーして、線をぐいっと引っ張って逆さにして描くと、とても描きやすいです。こんな才能があったのかと思います。皆さん才能はあるのです。
次は、これもルビンの壷です。これも描くときに、人の顔を見て反転した人の顔を描こうとするとすごく難しいですけど、知らない壷に意識を向けて描くと、簡単に描けてしまう。(図)
これはジェスチャー画と言いまして、モデルを写したものです。1分ぐらいで描くのです。ぱっと感じたものを描く。何がメッセージかということを感じたものを描く。これは大事なことだと。画面から鉛筆を離さない。画面から鉛筆を離さない。こうやって描く。画面に付けたら全部付けっ放しで描く。汚いですよね。汚く描くというのが大事。そして、感じたものを描く。何が一番メッセージかというと、1から100まであれば、55が大事だと思ったら、55をぱっと描くということです。汚く描くということがとても大事なのです。それから、ものすごいスピードで描くということも大事。これは1分ぐらいで描くのです。
これは肉付け画といいまして、先程のリンゴで2例をやっていましたけど、輪郭で描かないで、粘土でかたまりをくっつけていくようにリンゴを描いていく方法です。これはボールペンです。(図)
これは喜びのアナログ画ですね。(図)ゴッホの一つの絵ですけど、この絵を見ると喜びのアナログが非常によく出ている。ですから、この絵から、人生を肯定して彼は非常にポジティブに生きているという、ゴッホのメッセージが伝わるのです。一流の画家というのは自分の考えを第3者に伝えられる。自分の崇高な思いを伝えられるということが一流なのです。こういうアナログ的な手法を彼は無意識に使っているわけです。
では、左脳はみんな悪いかというとそうではなくて、生活するうえでとても便利。左は生活脳です。例えば、リンゴも大小ございますよね。大小見分けられますか。皆さん、いちいち二つを並べて比べないと駄目ですか。例えばこういうふうに・・・。
例えば、スーパーなんかに行って、一番大きなりんごが一番奥のほうに置いてある。一番小さなりんごが手前に置いてある。そうすると、ぱっと大きいリンゴを取れますか。いちいち二つを並べてみなくても簡単に取れるのです。左脳というのは便利ですね。ところが、それが絵を描くうえでは妨害なのです。こうやって手前が小さいリンゴで、奥が大きいリンゴなのです。それを補正するために、こういうコピー用紙を丸めてリンゴをのぞくのです。そうすると手前のリンゴがこんなに大きく見えて、奥のリンゴがこんなに小さく見えます。みんな驚きます。ところが普通に見ると、遠くのリンゴがでかく見えるのです。ですから、そう描いてしまうと、絵の遠近が描けないのです。
例えばチューリップを描きましょうといったときに、20から30本のチューリップを花瓶に入れて今日はこれを描こうと言われたら、どうしますか。子供たちは一斉に「面倒臭い」と叫びます。面倒臭いのが嫌いなのは左脳の世界ですね。右の脳は面倒臭いこと大好きなのです。ですけど、右の脳は言葉を持っていませんから、「面倒臭いこと好きです」って言えないのです。描くとこういうふうにシンボルを描いてしまうわけです。
そのときに優れた教師は、こう言うわけです。「ちょっと待て。今日はチューリップを描くな。チューリップとチューリップのすき間を描け」と言うのです。そうすると、チューリップとチューリップのすき間の形っていうのは言葉になりませんでしょう?言葉にならない形を見たときに、その人の右脳が動き始めて、こういうものが描ける。これはすき間を描いてあるのです。天才的な子って、みんなこうやって描いているのです。教わらなくても無意識に描いている。ネガの形を描いています。そうすると描けるのです。
こうやって描くとみんなしーんとしますよ。先程の絵なんかはみんなしゃべりながら描きます。これはみんなおしゃべりしながら描くのです、左脳の世界ですから。ですけれど、「すき間を描け」と言った瞬間に子供はみんなしーんとしてしゃべらなくなってしまうのです。なぜですか。右脳が動き始めたからです。すると、言葉を持っていない右脳はしゃべらなくなってしまうのです。しゃべりながら描いた子は絶対描けていないです。
日本の美術教育の流れというのはこういう流れです。写生から始まって写実、具象につながる。具象・抽象というカテゴリーの分け方ではなくて、具象の中に写実の世界、具象の世界もあるということでもあります。その先に抽象の世界があるのではないかと、一般的に思われているのではないでしょうか。ところがそうではなくて、臨床美術では感性画からスタートさせよう。アナログ画も同時にスタートしようという考え方です。
つまり、写生とはこういうスタイルです。これは芸大の日本画を受ける、受験する学生は、これくらい描ければ芸大の日本画に受かりますよって写生です。(図)ここから老人たち、シニアの方々に、始めてやっていただくことは酷すぎて下らないと思っているのです、私はこういう絵を描かなくていいと思っているのです。
むしろこれが大事なのではないかと。これはフォービズムの巨匠ヴラマンクと佐伯祐三ですけれど、佐伯祐三がヴラマンクの所に留学した時に、有名な逸話がございますよね。ヴラマンクに佐伯祐三はこう言ってののしられました。「このアカデミック野郎」とののしられたのです。彼は東京美術学校をすごく優秀な成績で卒業した男ですけれども、どうしてもそれでは駄目だと思ってフランスに渡ったのです。その時ヴラマンクに「このアカデミック野郎」と。
ヴラマンクのアトリエで佐伯祐三がガラス瓶を描いていた時に、ヴラマンクが近付いてきて描いているガラス瓶を庭の石にぶつけたのです、ばちーんと。ガシャンと割れたのです。そしてヴラマンクは佐伯祐三に「おまえ、裸になってガラスの上に寝てみろ」と、こう言ったそうです。その時に、佐伯祐三は分かったのです。「おまえの描いている絵は、絵の表面上しか描いてないじゃないか。ガラスの本質を描いてないぞ」。こう言ったのです。このことを教えたくて、ヴラマンクはガラス瓶を割ったって言われています。それから彼は分かったのです、「感じて描く」、「実感した本質を描く」ということが。これが写実という世界ではないかなと思うのですけれど。私たちもここからスタートしたいなと。ただ写実という世界は難しいですから、とにかく私たち感性画と言っていますけれど。
具象という世界は概念の世界なのです。心の世界です。だから有元利夫の作品も私は大好きなのです。38歳で亡くなってしまった画家ですけど。この絵の中に出てくるお姉さんは隣のお姉さんではなくて、自分の心の中の世界のモデルです。隣のお姉さんの姿を描いたわけではないです。この世界に導けたらいいのではないかなと思うのです。
では感性画とはいったい何かというと、この違いは分かりますか。向かって左側の、左の手の違いは分かりますよね。でも向かって右側の違いは分かります?この違いが分かる方いらっしゃいますか。例えば、グーとチョキ、これの違いは分かりますよね。でもこれとこれの違いは分かりますか。一見すると同じように手を握って見えるこれとこれの違い。分からないでしょう?私たちは輪郭に敏感に反応するのです。グーとパーの違いは分かりますよね。これとこれの違いも分かりますよね。小指が出ている。でも、これとこれの違いは分かります?ほかの方分かりますかね?私は目をつぶっていても分かるのです。
左側は絵描きに描かせたものですけれど、分からないまま描かせたものなのです。でも右側の人は感じて描いてもらったのです。この方は分かって描いたのです。どっちかは強く握っていて、どっちかは軽く握っているということです。描き分けるというのはこういうことなのです。感じるということは。ですから、どんな絵が描けても、感じてなければ描けないのです。でも、美術学校を出た、芸大を出た男たちは、感じてなくても描けてしまうのです。ですからこの人は100年描いても、描き分けることはできません。なぜならば、感じていないからです。
ですから、感じるということがいかに大事かということを、患者さんたちに申し上げているのです。ですから、絵のうまい下手は関係ないのですよ。五感で感じることが大事なのですよ。それで絵が描けるのですよ。これ10秒で描いたものです。短時間で完成するとこういうふうになるのです。
|