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2 カナダの海難調査及び海難懲戒について
6 Dec. 2005
A 安全調査(カナダ運輸安全委員会)
 
1 調査機関
(1)Name: TSB(Transportation Safety Board of Canada)
(2)Place: Gatieneau, Quebec(Ottawa首都圏)
(3)Establishment(Year): 1990
(4)Legal basis: Canadian Transportation Accident Investigation and Safety Board Act
(5)Ministry: independent agency(独立)
(6)Permanence: 常設機関
(7)Modality
Multi-Modal(航空、海運、鉄道、パイプライン)
(1)Multi-Modal approachの利点
・独立機関で、議会(Parliament of Canada)に対してのみ報告するため、各輸送モードの規制担当部局からの影響を受けない。調査の結論や勧告を出すに当たっての客観性を担保できる。
・かつては、調査官は、船舶検査官(ship inspector)で、自ら行う船舶検査の分野関連の事柄などについて、中立性を担保できなかった。
・専門調査能力(冶金、ラボなど)についての支援を技術研究部局から仰ぐことができる。
・Human performanceの専門家(5名)は共有している。
(2)Multi-Modal approachの欠点
・特にない。
・IMOにも独自に代表を派遣し、運輸省も歓迎している。
 
(8)組織機構、職員
(a)Function and the number of each component:
 The Board(Chairperson and Members): 5名(政治任用、Governor in Councilによって任命される。3名は、それぞれ、陸・海・空の分野を代表する。)
(1)Chairperson(1名)
(2)Member(4名)
 Boardは、自らの権限で、報告書を作成し、事実を発表し、勧告をし、公聴会を開催する。議会に対しては、president of Privy Councilを通じて、報告を行う。
 DOI(Director of Investigation)は、調査についての専管的な(exclusive)権限を有している。
 
海難調査部門
 Investigation Operations Directorate, Investigations Marine(33名)
・Director(1)
・Investigations(18)(本部10、地方8)
・Standards & performance(5)
・Quality, Planning & Performance Mgmt.(1)
・Analysis(3)
・Administration(1)
・Support(4)
 その他、各モード共通のブランチとして、次のものがある。
・Engineering Branch
・Reports Production
・Macro Analysis
・Human Performance(5)
 全体の職員数は220名
(b)Permanence of the staff: 常勤
(c)Expertise and technical background of the staff members
 スタッフは下記のいずれかの専門性を有している
(1)航海(Master Mariners)(13)
(2)機関(Chief Engineers)(5)
(3)造船(Naval Architect)(2)
(4)漁業(Fishing Masters)(2)
(5)その他(5)
(d)外部委託者は通常は必要としないが、外部の政府機関や研究所と契約をすることは可能。
(e)事故調査チームの構成
 24時間、365日全モードの事故に対応する。海難は、常時1名の調査官がスタンバイ。通常は2名の調査官で構成される(nautical、engineering、survivorがいる時はhuman performance専門家)が、最大で5-6人程度。
 
2 Mission(使命)
 
 NTSBは、独立した機関であり、海事、パイプライン、鉄道及び航空事故の調査を行う。唯一の目的は、運輸の安全の促進であり、責任の所在を決定したり(assign fault)、民事・刑事上の責任を決定すること(determine civil or criminal liability)ではない。
 
委員会の使命は、
(1)Conduct independent safety investigations
 独立した安全調査を行うこと
(2)communicate risks in the transportation sector
 運輸分野に危険の存在を伝達する
 
3 調査手順
(1)認知
 事故及びインシデント(併せてoccurrenceと呼ぶ)の報告義務は、船主等に課されている。報告義務の対象となる事故等は、規則に規定されている。通常Radio ship reporting stationへ通報がなされる。この他、Transport Canada、Labor Canadaからも報告がなされる。
(2)調査方法の決定
(a)事故の通報を受けると、必要データーを統計のために記録するとともに、予備調査を行う。
(b)DOI(Director of Investigation)が、調査を行うべき事故かどうかを決定する。
(c)安全のための対策を講じる可能性がある場合や公共の安全上の懸念のある場合に調査を行うことが決定される。
(d)調査のレベル(5段階ある)を決定する。(Boardにより決定されたTSB Occurrence Classificafion Policyがある。)
(3)主任調査官(Investigator in Charge)の任命、事故調査チームの派遣。
(4)調査に参加するオブザーバーステータス(Minister's observer)の付与
 運輸業界、機器の製造業界及び規制官庁などの関心を有し、輪送の安全の増進に貢献できる者を調査官の監督のもとにオブザーバーとして調査へ参加させることができる。(Manual of Policies and Procedures)ただし、オブザーバーはインタビューには同席できない。
(5)現場における措置
(a)調査チームは、次のような専門家のメンバーで構成。
 運航、機材、整備、工学、科学及びヒューマンパーフォーマンス。
(b)現場の保存、機器や残骸の調査、適切な情報の収集、証人・会社・担当官に対する尋問、記録の検査、物件の更なる調査のための押収、潜在的に安全でない行動や状況の特定
 
(6)調査官の権限
・強制調査権等
(1)治安判事の発給する令状により、事故現場又は船骸の置かれている場所への立入り、物件を捜索し押収することができる。
(2)関係者以外を現場から立ち退かせることができる。
(3)口述証拠(statement)を要求することができる。
(4)関係者の診察や検視を要求することができる。
 
(7)Human Factor
・Human Factor調査の専門家は、部内に擁している。
 
(8)並行調査
・安全の増進を目的とした事故調査及び報告のための唯一で排他的な機関であり、検死官(coroners)及び国防省のみと協力関係にある。
・他の政府機関は、それぞれ別個の目的のために調査を行う。
 
(9)最終報告書及び認定事実の刑事、民事手続き、懲戒調査への利用
・Statementsには、秘匿特権が適用される。
・Statementsは、懲戒又は訴追に使用できない。
・民事裁判においては、Statementsは自動的には保護されない。
・調査官は、法廷に証人として呼ばれることがあり得るが、自動的に証言を強制されない。(判事が、密室で証言を聞き、採用すべきかどうか判断を行う。)
・調査官の見解は法廷では認められない。(何を見、何をしたかを言うことはできる。)
 
(10)現場調査以後の作業
(a)公聴会の開催については、Boardが決定する。1990年から、公聴会開催の要件はなくなっている。重大事件については、communication managerにより、判明した事実を関係者に可能な限り広く周知する。
(b)Initial Draft Investigation Reportが作成され、Boardの承認を受ける。C Confidential Draft Investigation Reportが作成され、interested Partyに送付されて意見が求められ、議論が戦わせられる。
(c)Representation(Comments)及びReviewを経て改訂されたReportが、Boardの承認を得て公開文書となる。
 
(11)安全勧告
(a)安全勧告発出の時期
 安全勧告は、最も重要なproductであり、緊急性のあるものについては、調査の過程で、問題が特定され次第直ちに、調査の完了やprobable cause(原因)の決定を待たずに発出される。
(b)安全勧告の性格
 安全勧告は、事故等に関し直接の関係を有する者又は大臣に対し、書面でなされる。(例えば、船舶の設計者や、安全マニュアルについての船主など、個人に対してもなされる。)
(c)勧告を発出された大臣は、90日以内に執った措置、執ることとした措置又は措置を執ることができない理由等について回答し、公表する。
(d)技術的な問題については、職員が、letter of adviseを、関係者宛に出すこともある。(例えば設計上の問題については、直ちに設計者に措置を執るよう要請する。報告書の作成時までに措置の執られない場合には、勧告に含める。)
 
(12)最近の統計
 
Reported accidents Reported incidents
2003 547 223
2004 491 246
1993-2003 av. 536 212
 
2004-2005 Recommendation safety advisories safety information Letters
4 9 8
 
B Incident調査
・特定のインシデントについては報告義務があり、事故と同様に調査を行う。
・かつて、1990年に設置されたconfidential reporting unitがあったが、発足後、5-6年で実績がなくなり廃止された。現在は、securitas systemが稼働しており、秘匿ベースで、各モードのエージェントに報告がなされ、調査官がフォローアップする仕組み。(毎日50件ほどの通報がある。)
 
C 懲戒調査
 
1 調査機関及び調査手順
(1)Transport Canada
(2)Legal basis: Canadian Shipping Act
(3)Permanence: permanent
(4)組織機構、職員
Nautical Certificate, Marine Safety
Ship Inspector 船舶検査官 277名
(うち、本部76名、地方は5地域事務所)
(5)事故調査委員会設置以前の旧法においては、事故調査を行っていたが、委員会設置後は、汚染事故や小規模海難などの委員会の行わない事故調査やグレーゾーンを取り扱うのみ。
(6)調査は、汚染防止官や港の管理官を兼務している船舶検査官が行う。
(7)調査には、予備調査(preliminary investigation)及び正式調査(formal investigation)があるが、正式調査が行われることは殆どない。
(8)予備調査の結果、直ちに改善できるものは勧告する。調査結果は大臣に内部報告。予備調査の結果、船員のincompetency及びviolation of regulationについて、船員の懲戒が必要であれば、大臣に建議する。正式調査及び懲戒目的の審問の開催については、大臣の決定。
 
2 審問機関及び審問手順
(1)Appointed person又はFederal Court Judgeが、審判官となる
(2)Legal basis: Canadian Shipping Act(s504)
(3)Permanence: ad hoc
(4)民間の有能な弁護士Competent Attorneyか高名な船長Known Captainが審判官として指名される。
(5)審問においては、審判官の補助者としてLegal Assistantがいる。
(master marinerであることが多いが、船舶検査官の権限を行使し、その報告をベースに審理を展開する。)
 Assessorが、在廷し、recognized seafarerで、independent personであるが、自己の見解を述べる。
(6)懲戒は、extraordinary remedy特別な措置で、10年に2-3件程度しか開かれない。
(7)2006年には、法律改正により、Transport Tribunalが、Appeal機関としてできる。


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