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(2)カナダ運輸省による調査
ア 概要
 最後になりますが、カナダ運輸省(DOT)の海上安全課(Marine Safety Division)、われわれが訪問した所ですが、ここが、海難事故調査、懲戒調査を行います。Ship Inspector(船舶検査官)という職員が277名います。本部に76名、地方5地域に201名という配置で、彼(彼女)らによって事故調査が行われます。かつて新しい法律ができる以前は、DOTが一手に海難事故調査を行っていましたが、TSB設置後は、汚染事故や小規模海難でTSBが実施しない事故を調査したり、あるいはグレーゾーンにある事件を扱うだけになりました。
 調査にはPreliminary Inquiries(予備調査)、それから正式調査であるFormal Investigation(正式調査)があります。こうした運輸省による事故調査と懲戒審判については、Canada Shipping Actという法律が根拠であり、現行法は、1985年法(c.S-9)及び2001年法(c.26)の新・旧法が並存する形になっています。
 
イ 正式調査
 正式調査についてはカナダ海運法のS.483から規定があります。正式調査は、大臣が、政府の官吏、連邦裁判所の判事の中から普通は1名をコミッショナーに任命して正式調査を行うよう命ずるものです。タンカーの爆発や特殊な問題であると、2名から3名の複数のコミッショナーで審判廷(court)を形成して調査を行うことになります。しかし現在、正式調査が行われるということはほとんどないということですので、これ以上は省略します。
 そうすると、主に予備調査になりますが、ここで調査の結果として直ちに改善できるものは直ちに関係者に勧告し、調査結果は大臣に報告されます。また、調査の結果、船員に懲戒処分の対象となるような問題が出てくれば、大臣に建議し、大臣が正式調査をするか、懲戒目的の審問を開催するかどうかを決定することになります。
 
ウ 懲戒審問
 懲戒審問について説明します。
 懲戒審問については、海運法のS.504に規定されます。審問機関は常設ではなく、都度、大臣が連邦裁判所判事、民間の有能な弁護士、あるいは高名な船長などを審判官に指名し、懲戒の審理が始まります。
 審問においては、審判官の補助者としてLegal Assistantがおります。また、船員経験者でかつ身分が独立した専門意見を述べるAssessorも在廷して審問が進行していきます。そして審問の結果、報告書が作成され、大臣に提出されることになります。
 ただ、カナダにおいても、確かに懲戒は法令上はそういうことが予定されているものの、それは極めて特別な措置という話で、この10年間にわずかに2、3件程度しかないということでありました。
 最後に、2006年度には、現在議会で審議中の法律改正によって、Transport Tribunal、運輸審判所といったものがアピール機関として設置される予定ということです。新しい動きとして紹介しておきます。
 
第5 海難調査及び海員懲戒に係る事項別調査
 今回の調査に当たっては、次頁以降に記載されているように、各調査対象国に対して共通の様式による調査項目表を用意しました。以下は、各国、各項目毎の調査結果の要約ですが、各調査機関における面談時間の制約等により、必要な回答が得られなかった項目もあり、それらについては省略あるいは質問事項のみ記載されている箇所があります。


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