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オ 調査報告書及び収集した証拠の他の手続きでの利用
 最終報告書及び認定事実の刑事、民事手続及び懲戒調査への利用という点を説明します。
 NTSBはとにかく独立の機関で議会に対して責任を持つ、中立性の高いとされる事故調査機関でありますが、後述しますが、懲戒というところにも少し絡んでいきます。
 NTSBの事故調査は、民事責任、刑事責任を明らかにするために調査をするのではなく、あくまでも事故の再発防止のための勧告という面から原因の調査をすることは法令に明記されており、したがって、NTSBの調査報告書及び認定事実は、直接的に刑事、民事あるいは行政の法的手続きに使用できないとされています。ただし、その趣旨が、実態として貫かれているのかどうかは、少し検討の余地がありそうです。
 調査の過程で収集し、分かってきたいろいろなfactual information、事実に関する情報は、連邦あるいは州、地方のlaw enforcement agency(規制当局)と共有できます。
 
カ 現場調査以外の調査
 次にGo teamやParty Systemという形で現場調査をした後の手続きを説明します。
 調査チームは30日〜60日の間に、パブリックヒヤリング、公聴会とか公開審問とか訳されていますが、を開きます。公聴会を開催することの是非が委員会に対してなされ、チ―ムの主任が事故の状況を報告した後、公聴会にかけるかどうかについて委員会が投票で決するシステムになっています。次いでグループのFactual Reportが作成され、それが少し拡大されたPartyに送付され、意見が求められることになります。こうして事故報告書が公開文書となります。その前に公聴会を開くという結論になりますと、ボードメンバーの主宰する公聴会が開かれ調査事実について審議されます。
 続いて、NTSBの職員により最終報告書の案が作成され、それが5名のフルボードメンバーによる公開のミーティングによって最終報告書として承認されることになります。最終報告書には結論と推定原因が記述され、さらにその中で勧告も記載されています。なお、フルメンバーによる公開ミーティングが行われる会場は、NTSBの本部がある建物の下の階、昔映画館だったものを改造したという大変立派な会議場があり、大体がそこで行われるということでした。見学させていただきました。
 
キ 安全勧告
 次に勧告ですが、NTSBは再審を除き基本的には懲戒を扱っておりませんので、安全についての勧告、これがNTSBの一番大事な成果物であります。
 この安全勧告ですが、相手は、個人の場合、公的、私的な団体に対する勧告、さらに関係の行政機関に対するものもあります。その中で推奨する行動とそれにより満足される安全上の要件が記述されます。
 安全勧告の実施率はかなり高く、80%位のアベレージで実現されているということです。NTSBが世界に誇るところです。確かに高い数値ですが、これは安全勧告を出すにあたってNTSBとしては、その実現可能性、つまりこれを出したら実行・実施できるかということを念頭に勧告を出しているということと、世論の圧力、これらが、実現性を高めているということだと述べていました。
 NTSBは重大な事故に絞って調査をしますから、その報告書、特にその中の安全勧告については世間が広く注目しているという意味で、勧告を発出する者、それを受ける者双方にかなりのプレッシャーがかかることになると推測されます。
 勧告はただ発出するだけでなく、相手がその実施に努めているか、実績が上がっているか、それをフォローアップする内容になっています。
 以上のほか、NTSBの活動としては、ここ十数年、Most Wanted Listというものを作成して、その時々の重大問題、例えばプレジャーボートの問題とか、ドラッグ、アルコールの問題などをテーマに掲げて、シンポジウムを行うなどして、安全勧告の実現に向け努力しているようです。
 
ク 調査実績
 最後に調査実績ですが、全体の事故の中で、重大海難、さらにはその中でNTSBが調査報告した数はひと桁台です。90年代には10件ぐらいでしたが、最近例では2003年度0件、2004年度4件、2005年度4件となっています。
 
ケ 国際協力及びIMOコード強制化への対応
 NTSBは、外国調査機関との共同調査を受け入れる体制ができています。NTSBは、調査の実施に当たり、パーティーシステムをとっていますが、外国の調査機関が調査に参加する場合は、パーティーの一員ではあるものの、ステータスが上の、いわば、スーパーパーティーとしての取り扱いを受けるということです。すなわち、NTSBと、共同・同等の関係にあり、証拠に対するアクセスや証人に対する尋問も自ら行うことが認められているとのことで、USCGも、USの代表であるとのことで、同等の扱いを受けるとのことでした。
 NTSBもUSCGも、アメリカ領海に近い公海上で発生した外国船同士の事故について、調査を行い、報告書を作成することがあります。衝突した旅客船の乗客に米国人が多く、米国の港から出港したなど、米国が関心を有する場合や外国政府からの依頼による場合などです。
 なお、USCGは、そのマニュアルの中で外国領海内や公海上で発生した事故の当事者である米国船については調査を行いますが、外国船舶については、米国の港に寄港した場合のみ調査を行うこととしています。
 アメリカは、自国の調査方法が確立しているため、コード自体に対しては、あまり関心を持っていないといった印象を持ちました。
 現行の制度では、事故の調査は、行政処分から独立しており、事故の原因を明らかにし、再発防止のための勧告をするのが目的であって、過失を見つけるのが目的ではない。また、事故の調査によって、懲戒調査の手続をとることが勧告として出されることはあるが、懲戒は別手続であり、したがって、米国のシステムは、現行のコードと齟齬がないとのことでした。
 
(2)USCGによる安全調査
ア 概要
 前に説明しましたように、USCG(米国コーストガード)も海難調査権を有しておりますので、次に、これについて説明いたします。
 コーストガードもまた歴史のある調査機関を擁しています。最近まで運輸省に属していましたが、現在は2002年3月1日に発足した国土安全保障省(Dep. of Homeland Security:DHS)に所属しています。この機関のリーガルベースもNTSBと同様であります。当然常設で、海運のみです。
 調査の目的は、海上における生命財産の安全を向上させるということで、NTSBと同様に民事、刑事責任の確定のために調査を行うわけではないと明言されています。コーストガードは、全ての海難事故を取り扱います。年間調査対象海難件数は2004年度で約5,000件とされます。
 
イ 調査の種類
 調査の種類は、Preliminary Investigation(予備調査)というものがあります。予備調査では、行うべき調査のレベルを決定します。その結果、レベルに応じInformal Investigationといって事故について電話等でインタビューを行い、単にサマリーレポートを作成するだけで終了させる調査、通常は1人の調査官により、重要な海難事故については3人の委員による海難調査委員会(Marine Board of Investigation:MBI)を随時設置して、対審制により正式な調査を行い、報告書を作成するFormal Investigationが行われます。MBIによる公式調査は年間1件あるかないかということです。過去10年間でも数件ぐらいという説明でした。
 
ウ 調査手順
 調査の手順について説明します。
 コーストガードには、一定の海難事故が常時通報されてきます。その中で、前述のようにどういうレベルで調査をするのかという決定や、重大海難としてNTSBに送るべきものか、NTSBと共同調査をするか、あるいはコーストガードが単独で調査を行う事故か、振り分けます。コーストガードが絡む事件、例えばコーストガードの船と民間の船とが衝突したりした事故は当然NTSBに送られて調査されることになります。
 調査の方法については、事故に関する事実を収集し、時系列を作成して分析します。また、原因やヒューマンエラーの分析を行い、結論を導き、安全勧告を発出することになります。
 
エ インシデント調査
 Incident調査ですが、現在調査していないということです。イギリスではCHIRPという匿名の方式で調査をしていたという話がありましたが、アメリカでも数年前にコーストガードが主体となり調査を行うという提案があったのですが、結局議会で予算がつかず、民間でやればいいということで立ち消えになったという経緯があり、現在復活の見通しもないようです。


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