II 北米における調査
重田晴生 青山学院大学教授・本調査研究会委員
松本忠雄 (財)海難審判協会経理部長
平成17年11月1日〜10日
(1)アメリカ合衆国
・National Transportation Safety Board
(NTSB・国家運輸安全調査委員会)
・United States Coast Guard
(USCG・米国コーストガード)
(2)カナダ
・Transportation Safety Board of Canada
(TSB・カナダ運輸安全委員会)
・Transport Canada(カナダ運輸省)
(注)本文では、上記各国をアメリカ及びカナダと呼称する。
第4 調査の概要:北米諸国における海難調査及び海員懲戒について
11月5日にアメリカのNTSB、翌日にコーストガード、11月7日には、カナダのTSB、翌日に運輸省にということで、計4日間を使い2ヵ国4機関の調査をしてきました。その結果についてまとめたものを今日お配りしております。
順番は、まずアメリカのNTSB、続いてコーストガード、それからカナダについてご報告させていただきます。先番のヨーロッパは報告の分量が多いのでしょう、おまとめになった上で横系列でもご説明されましたが、こちらは2ヵ国だけですので、国別にご説明させていただきます。
NTSB(国家運輸安全委員会)は、ワシントンDCに本部があります。この機関は、たびたび組織が変更されています。ある場合には10数の部局があったりしましたが、今は7〜8の数です。その中で海事の事故調査を担当しているOffice of Maritime Safety(海事安全局)、ここをわれわれは訪問しました。
Office of Maritime Safetyは、現在17名のスタッフを抱えている組織です。2004年に1度訪問したことがありますが、その時は10名程度でしたので、少し増えているようでした。NTSBは、最初は1967年に連邦運輸省内に設置されていた機関ですが、1974年にIndependent Safety Board Actという法律が制定され、これが翌年に施行されて動き始めた機関です。現在は、NTSB型の調査機関は、カナダ及び欧州の一部など各国がアメリカのNTSB型の調査方法を採用しているということです。
さて、今や世界に高名なNTSBですが、その法的根拠がどこにあるかといいますと、U.S.C.(合衆国法典)のタイトル49という連邦制定法でこの調査機関が明確に規定されています。また、連邦政府が公布した連邦行政命令集(Code of Federal Regulations: C.F.R.)、タイトル49にさらに細目的規定があります。この機関の性格は、連邦・州の一切の行政庁から切り離された独立の調査機関であるということで、もちろん常設機関であります。さらに、ご存じのように単なる海運だけではなく、航空、鉄道、それからハイウェイ、パイプラインと、Multi-Modal型の、運輸全般についての調査機関です。
先ほどヨーロッパの報告で、Mono-Modal方式には利点もあり欠点もあるというご紹介がありましたが、Multi-Modal方式の方は、委員つまりボードメンバーの全てが4モードあるいは5モードの運輸事故全般にわたって報告書案に目を通し、承認するという形で、広く目を配れるというところが利点だということです。一方欠点はと質問をしましたけれど、特にないということでした。
それから、NTSBの使命については、1974年のNTSB法の前文で、1つは、事故の推定原因を究明することであり、もう1つは、事故の再発防止という観点から勧告をし、運輸の安全を推進するということがミッションとして掲記されています。
組織としては、ボードメンバーが5名おります。任期が5年、再任可ということで、政治任用であり、大統領が指名し、上院議会が承認するという手続で全員が選ばれております。その中でChairman(委員長)と、Vice-chairmanの2人が大統領の指名、さらに上院の承認という形で任命され、選出されます。任期は2年、再任可ということになっています。
今回われわれが訪問した時は、ちょうどNTSBでメンバーの入れ替えにあたり、いただいたメンバー表には3人しか写真、名前が出てませんで、4人目は目下議会で審議中であるということでありました。現在の3名の内2人は女性です。
ボードメンバーの下には当然ながらスタッフがいます。NTSBには7つあるいはそれ以上の部局がありますので、そういうところで、総勢で380名ぐらいだと聞きましたが、そのぐらいの数の職員が働いています。その1部門である海上安全局に17名のスタッフがおります。このオフィスは2つに分かれています。調査をする部門とレポートを作成する部門です。調査官は9名おり、パートタイマーが若干いるという説明でした。もう1つのmarine staffですが、8名おり、いずれも常勤者ということでした。そして、スタッフの陣容は、航海、機関、造船、ヒューマンパフォーマンスなどそれぞれの専門性を持った方であるといるということです。外部の委託者については、もちろん必要となればそのつどコーストガードなり外部から調達するのでしょうけれど、特別にないということでした。
次に調査の手順です。まず、海難事故があると、その通報はコーストガードに入ってきます。コーストガードが事故の通知を受けるわけですが、NTSBにもオペレーションルームというのがあり、たくさんのテレビが備え付けられ、24時間・365日体制で全モードの事故につき独自に通報の認知をしています。
今申しましたように、海難事故の認知というのは、基本的にコーストガードが受けるのですが、その通報件数は、年間で約5,000件あるということです。その中でNTSBが調査を担当することになる事故は、重大海難といわれるものだけですので、約1%、つまり50件程度ということです。さらに調査結果が報告される事件は、その10%ぐらいとされますから、年間4〜5件ということになろうかと思います。
調査の方法としては、NTSBの規則に沿った単独の調査、つまりNTSBが独自に単独で調査をするという形と、コーストガードの規則に則ってコーストガードと共同で調査を行うという方法もあります。あるいはコーストガードの方へ調査を委託してしまう形もあるわけです。その結果が、数にして50件程度になるNTSBが調査をする重大海難ということになるわけです。
さて、このようにして調査対象事故が絞られてきますが、そこから先のNTSBの行動は、まずGo Teamが形成され現地に派遣されます。海難のGo Teamはワシントンの本部から現場に派遣されるとのことです。この事故調査チームの構成はInvestigator in Charge(主任調査官)1名と、Group Chairman複数名といった形で、現場に急行し、調査にあたります。その際、さらにParty Systemと呼ばれている形も出てきます。事故の種類や規模に応じて船主、オペレーター、造船などの業界あるいは船級協会、パイロット協会といったところから、技術・専門家の参加を得て調査を進めるということです。
現場における措置としてどういうことが行われているかというと、Command Center、つまり施設を借りて居を構え、徐々に調査を進めていくということです。マスコミその他報道関係に事故調査の進捗などを正確に伝えていくことが行われます。それから、事故の被害者・遺族に対する措置、そういうことも、きちんと対応することが法律で定められているといわれます。
エ NTSBの調査官の権限とコーストガードの調査との関係等
調査官の調査権限ですが、事故現場への立入りなど強制調査権の行使とか、守秘を保証するとか、この辺りはヨーロッパの訪問調査国とだいたい同じだと思います。
Human Factorですが、これも部内に専門家がいますので、彼らが調査をしていくことになります。
並行調査について説明しておきます。
NTSBは事故の再発防止という点から原因調査を進めていくわけですが、同じようにコーストガードもまた海難調査を行っています。コーストガードは全ての海難事故について初動の調査をし、NTSBが独自に調査するものについてもNTSBと並行して報告書を作成します。そういう意味でNTSBとコーストガードとの間には覚え書きが交わされ、その調査の実施についてルールができているようです。NTSBとコーストガードとが共同で調査を行うということもあります。もっとも、調査の分析あるいは調査報告書の作成は、それぞれ独自で行われます。調査報告書、コーストガードとNTSBの調査報告は、もちろんスタイルも違いますし、時には結論も違ってくることがありうるわけです。
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