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4 ドイツの海難調査及び海員懲戒について
October, 2005
A 安全調査
1 調査機関
(1)Name: BSU(Bundesstelle fur Seeunfalluntersuchung, Federal Bureau of Maritime Casualty investigation)
(2)Place: Hamburg
(3)Establishment(Year): 2002
(4)Legal basis
(a)海難調査に関する法規:
(1)SUG(Seesicherheits Untersuchungs Gesetz, Maritime Safety Investigation Law)2002. Chapter 3
(English version coming in 2006)
(2)Regulation of Securing Shipping Reporting of certain incidents causing damages or dangers(1998)Art. 7
(5)Ministry: Ministry of Transport, Building and Housing (MOTBH)
(6)Permanence
(a)常設機関
(7)Modality
Mono-Modal
 ドイツでは航空及び海事分野に独立した事故調査機関があるが、両産業の性質上の相違点が大きいことから、今の時点で運輸事故調査委員会を設立する構想は無い。
Cf. 鉄道事故は運輸省の一部局により、道路事故はprivate companyによって調査されている。
(1)Mono-Modal Approachの欠点を補うために取られている措置
(i)BSUは航空事故調査機関とあいだで技術協力の協定を結んでいる。(VDRおよびGPSデータ解析)(SUG Art. 13(1))
(8)Separation (functional independence)
(a)Under MOTBH, but separate from other functions
 BSUは直接MOTBHの下に位置し、その予算及び職員は省の他の部局から独立して配分される。
(9)Independence (being independent of all conflictihg interests)
 BSUは利害の対立が予想されるいかなる機関からも独立して、その任務を遂行する。
(a)法的根拠
(1)BSUのindependenceは法律に明記されている。
(i)BSUは事故調査の開始、内容、及びその深度に関する決定、並びに事故報告、安全勧告の作成に関して独自に実施できる。(SUG Art. 12(2)(3))
(10)組織機構、職員
(a)Function and the number of each component
(1)Division 1
Lead Investigator(3名)
Assistant Investigator(3名)
(2)Division 2(1名)
一般事項、recommendation実施検証、データ分析
(3)Division 3
Administration(4名)
(b)Permanence of the staff: 常勤
(c)Expertise and technical background of the staff members
 調査官には4名の船長経験者(1名は加えて弁護士資格)と1名の造船工学専門家がいる(現在1名の空き)
(d)外部委託者:60名のExternal Expert(freelance)を抱える。
(i)BSUは、事故の状況に応じて調査業務の一部を外部専門家に委託することがある。外部専門家はlead investigatorの指示を受ける。
(ii)60名のexternal expertのリストは、旧Maritime Courtから受け継いだものであり、適宜見直しがなされる。
・例:fire expert, medical expert, material testing, technical expertise
(iii)6名の常勤調査官全員が、他の調査に従事しているような場合、BSUのDirectorはexternal expertのうち1名を任命して調査を実施させることもある。(前例無し)
(e)海難調査チームの構成
(1)調査チームはlead investigator1名とassistant investigator1名から構成される。
(i)lead investigatorの権限
・現場調査、尋問の実施決定
・external expert委託の決定
 
2 Objectives
(1)Separation from other types of investigation
(a)純粋な安全調査
 
3 調査手順
(1)認知
(1)以下の者は、海難事故をBSUに通報する義務がある。
(i)船長、乗組員、船舶運航管理者、船級協会、水先人、Waterway Police (Reg. Art. 7)
(ii)通報義務不履行に対する罰則有り。
(2)Preliminary Investigation
 Water Policeが初期調査を行う場合が多い。
(3)Full Investigation
(a)full investigationの実施決定
(1)対象船舶、海域
(i)ドイツ船籍の外航船舶
(ii)内陸水路を除くドイツ領海内を航行する全ての外航船舶(外洋pleasure craftを含む)
 内陸水路用船舶及び内陸水路で発生した事故に関しては適用範囲外であり、刑事、民事訴訟の必要性に応じて警察等によって調査される。
(2)full investigation実施の決定基準
(i)すべての事故通報は、入手された情報を基に以下に分類される。(例:398件の事故通報、2004年)
・20%は海難事故とは分類されなかった。
◆内陸水路用船舶または内陸水路にて発生した事故
◆軍艦又は官庁船にて発生した事故
・50%はminor casualtyとして分類された
◆Near miss, no injury, no environmental damage
◆Slight damage on ships or land facilily
・30%(116件)はIMO Codeに規定されたcasualtyとして分類された。
◆Very serious casualty(13件)
◆Serious casualty(17件)
◆Marine Casualty(86件)
・全てのvery serious casualtyは、その結果の重大性から全てが調査対象となる。
・Serious casualtyについては、収集された情報に基づきその都度判断され、必要な場合は調査される。
・Minor casualtyについては、事故の状況から判断してimportant lessonが得られるようであれば調査を実施する。(BSU Art. 11(2))
(ii)上記基準に基づき、BSUのDirectorがfull investigationの実施を判断する。
(4)調査官の権限
(a)強制調査権
(1)事故現場、船舶への立入り(FIUUG Art. 11(1))
(i)検察当局と協力のうえ(FIUUG Art. 13)
(2)物的証拠、書類の押収(FIUUG Art. 11(1))
(i)検察当局との協力の上(FIUUG Art. 13)
(3)個人への尋問(FIUUG Art. 16(1))
(i)目撃者は全てを正直に話さなければならない。しかし、訴訟手続きの危険性がある質問に関しては黙秘することができる。また弁護士を尋問に同席させ必要な助言を得ることができる。(FIUUG Art. 16(3))
(ii)事故に直接係っていない者には黙秘権は無く、事故の背景に関する一般的な質問に答えなければならない。
Cf. 黙秘権(ドイツ国内法に起因)に関する問題点
 BSU調査官が目撃者の証言を聞く為に現場に赴いたときに、目撃者が弁護士を伴っている場合が多い。BSU調査官が、調査の目的は責任を問うものではない旨を説明しても、目撃者はBS∪の最終報告書が一般に公開されることを知っており、インタビューによって真実を聞きだすことができない場合がある。この様な場合、BSUは目撃者にBSU事務所に来るように依頼し、事故現場から離れた話しやすい雰囲気でインタビューを行うようにしている。
(4)海難調査への協力拒否には罰則がある。(SUG Art. 34)
(5)Human Factor
(a)Human Factor調査の問題点
 最も効果的なHF調査は個人へのインタビューによってなされるものであるが、黙秘権によってインタビューができない場合が多く、このことがHF調査を困難にしている。このためBSUは効果的なHF調査手法及び訓練方法を検討中である。
例:HF調査手法や訓練方法について高い評価を得ているカナダの調査機関にコンタクトを取っている。
(6)並行調査
(a)他の調査機関との関係
(1)通常、事故現場に直行して証拠収集にあたるWater Policeが、BSU及び検察当局にその証拠を提供する。
(2)BSUは独自に収集した証拠を他の機関に提供することはない。(SUG Art. 19(1))
(3)調査手順、調査官は共有されない。
(7)他の機関との協力
(a)BSUは各連邦州のWater Policeとの間で事故調査に関する協定を結んでいる。(BSU Art. 13(3))
(i)Water Policeが収集した証拠の共有
(ii)BSUからWater Policeへの調査委任
(b)See-BG(See Berufsgenossenschaft, Marine Insurance and Safety Association)はBSUの事故調査に協力しなければならない。(SUG Art. 13(2)).
(1)事故が海員の傷害を伴う場合、See-BGは医療補償の面で協力する。
(2)事故が技術的な問題を含むと判断された場合、See-BGは技術的側面からの調査協力をおこなう。
(3)他国籍船舶がドイツの領海内で事故を起こした場合、See-BGはPSCの観点から調査に協力する。
(8)目撃者、直接関係者の保護
(a)最終報告書発行までは、事故調査の全過程は公表されない
(b)証言、最終報告書の刑事、懲戒調査への利用
(1)目撃者証言は、安全調査の目的以外には使用されない。(BSU Art. 19(1))
(2)個人の過失や責任が推測されるような場合でも、最終報告書には必要な事実が全て記載される。しかし、最終報告書は:
・個人名は匿名であり、職名のみが記載される。
・consultation periodにより、関係者にコメントの機会が与えられた後に発行される。
(3)最終報告書は、いかなる法的手続きを前提として作成されるものではないが、証拠としてではなく専門家の意見として検察官又は弁護士に使用されることがある。(FIUUG Art. 26(3))
(c)BSUは懲戒審判、刑事訴訟の必要性を認めた場合には、当局にその事実を報告することがある。
(9)最終報告書
(a)最終報告書はfull investigationが行われた全ての海難について作成される。
(b)作成手順
(1)Lead investigatorがdraft作成
(2)60日間のConsultation period(FIUUG Art. 17)
(i)draft reportが関係各位に送付される。
(ii)関係各位は60日以内にコメントを送付することができる。
(iii)draftに誤りがあることが証明された場合は、それが最終報告書に反映される。
(iv)コメントの内容が調査結果の重要部分と著しく異なる場合は、lead investigatorの判断により、その部分を最終報告書にannexとして記述することがある。
(3)Investigation Chamber(FIUUG Art. 23)
・非常に複雑な海難事故の場合、60日間のconsultation period終了時にInvestigation Chamberが設置されることがある。
・lead investigatorがChamberの議長を務め、またその事故の状況によって、その他の4人の委員がexternal expertの中からdirectorによって指名される。
・Chamberは寄せられたコメントを吟味し、最終報告書の内容について決定する。
(4)BSUのDirectorが最終的に報告書を承認する
(10)安全勧告
(a)Recommendationは個人には出されず、船主、船舶管理者、VTS center等の団体のみに出される。
(b)責任が明確に証明された場合は、他国政府、機関にも安全勧告が出される(前例無し)
(c)安全勧告実施状況の確認
(1)安全勧告実施状況をBSUに報告する義務は無い。
(i)BSUのDivision 2は安全勧告が出された機関と連絡し、その実施状況を検証する。
(2)仮に、安全勧告の実施を拒否した機関が、再び同様の海難事故に寄与した場合、BSUはその最終報告書において、前回の安全勧告が実施されていたならば、今回の事故は未然に防げたであろうという内容を明確に記述する。
(d)BSUは事故再発防止上の理由から、調査終了前に安全勧告を出すことができる。(FIUUG Art. 19(2))
 
4 調査実績(2004年)
(a)年間の事故通報:398件
(b)最終報告書発行数:15
(c)事故認知から最終報告書発行までの期間:
内部目標として12ヶ月
(技術調査に6ヶ月、報告書作成に6ヶ月)


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