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1 イギリスの海難調査及び海員懲戒について
October, 2005
A 安全調査
 
1 調査機関
(1)Name: MAIB(Marine Accident Investigation Branch)
(2)Place: Southampton
(3)Establishment(Year): 1989
(4)Legal basis
(a)海難調査に関する規則:The Merchant Shipping(Accident Reporting and Investigation)Regulation 2005
(b)一般海事法規の1部分:The Merchant Shipping Act 1995, s.267
(5)Ministry: Department for Transport(DfT)
(6)Permanence
常設機関
(7)Modality
Mono-Modal
(1)Mono-Modal approachの利点
(i)専門知識
 海事専門知識を持った調査官は、海事産業界と共通の認識、知識を持って話すことが出来るため、産業界から受け入れられ易い。
(ii)海難報告書
 産業界との良好な関係により、報告書をより詳細で、実際的なものにすることが出来る。
(2)Mono-Modal approachの欠点
(i)他の輸送モードの調査機関との知識、経験の共有が不足する。
(ii)資源(人的、財政)及びサポート体制の重複による非効率。
(3)Mono-Modal approachの欠点を補うためにとられている措置
(i)事故調査3機関が“Board of Transport Accident Investigators”を設立し、3機関のChief Inspectorが定期的にミーティングを持っている。
・知識、経験の共有を図るとともに、大事故発生時には互いに支援しあうことを合意している。
(ii)3機関合同で、新人調査官を対象とする訓練を実施している。
・例:Cranfield University(Cranfield Safety and Accident Investigation Centre)における3週間の基礎コース;
◆安全と健康
◆調査手法
◆Human factor
◆報告書作成
Cf. Multi-Modal approachの欠点
(iii)NTSB Model
・各輸送モード調査部局の上位に位置する委員会上層部の存在が、調査報告書作成過程を遅らせたり、内容に政治的な影響を加える恐れがある。
(iv)DSB Model
・海事に関する知識を持たない調査官が海難調査を行う場合、調査及びその報告書内容が実務的ではなくなる。
(8)Separation(functional independence)
(a)Under DfT, but separate from other functions
(1)MAIBは行政上はDfTの一部。
(i)MAIBの予算はDfTを通じて配分
(ii)MAIBの調査官採用に関してはDfTの規則が用いられる。
(2)MAIBは機能的には独立している。
(i)MAIBのChief Inspectorは海難調査に関してはSecretary of State for Transportに直接報告する。
(ii)海難調査の内容に関しては、DfTはMAIBに対して何の権限も持たない。
(3)separate branch of DfTであることの利点
(i)運輸政策決定者と容易にコンタクトが取れる
・Chief Inspectorが定期的にDfTスタッフとミーティングを持つことで、DfT内における一定の発言権及び影響力を維持することが出来る
(ii)MAIBの法的位置づけを根拠にDfTから支援を受けることが出来る。
(9)Independence(being independent of all conflicting interests)
(a)法的根拠
 Independenceは法律、規則に明記されてはいないが、Merchant Shipping(Accident Reporting and Investigation)Regulation 2005の7条、10条に定められているChief Inspectorの権限がMAIBの独立性を担保している。
(b)Secretary of State for Transportも調査内容については干渉を制限されている。
(1)実際には、Chief InspectorはSecretary of Stateに対し、報告書内容を発行2日前までは説明せず、発行当日にしか報告書を提出しない。
(2)Secretary of StateはChief Inspectorに対し、海難調査開始の指示は出来るが(Reg. 7(6))、一旦Chief Inspectorが開始を決定した調査を中止させる権限は持っていない。
(10)組織機構、職員
(a)Function and the number of each component:
(1)Chief Inspector(1名)
(2)Deputy Chief Inspector(1名)
(3)Principal Inspector(5名)
(4)Inspector(12名)
(5)Administrative staff(14名)
(b)Permanence of the staff: 常勤
(c)Expertise and technical background of the staf members
 調査官は下記のいずれかの専門性を有している
(1)航海
(2)機関
(3)漁業
(4)造船
(d)外部委託者は特になし
(e)海難調査チームの構成
 MAIBは4つのmulti-disciplinary調査チームを持っており、それぞれのチームはprincipal inspector 1人 mulli-discipline inspectors 3人、そして、administrative staff 1人から構成される(Reg. 10(1)(2))。事故通報を処理するために各チームが1週間交代で24時間体制の当番制度を採っている。
 
2 Objectives
(1)Separation from other types of investigation
(a)純粋な安全調査
(1)事故原因とその周辺状況を断定することにより、将来の事故発生を防止(Reg. 5(1))
(2)事故の責任を求めたり非難することではない(Reg. 5(2))
 
3 調査手順
(1)認知
(a)24hour reporting systemにより、MAIBは常時事故通報を受けることが出来る。
(b)以下の者は海難事故をChief Inspectorに通報する義務がある。(Reg. 6)
(1)船長、船主、Harbor authority、Inland waterway authority(通報義務不履行に対する罰則あり。(Reg. 18(1)))
(2)MCA職員
(c)Pleasure boatには事故通報義務はないが、事故の多くはMCA daily reportsを通じて報告される。
(2)Administrative Enquiry(AE)
(a)通報された情報が十分で更なる調査が必要ないと判断されれば、通報される事故の大多数はデータベースに記録されるのみである。
(b)AE
 事故通報に加えて、より詳細な情報を入手する為に関係各者と連絡を取り、具体的な事故調査を開始するかを決定する。
(3)Preliminary Examination(PE)
 AEの結果、full investigationを実施するかどうかを決定する為に更に詳細な情報が必要な場合、2人の調査官(1人はlead inspector)が2〜3日間の現場調査を行う。(調査の安全確保、また異なる視点を取り入れる為に、2名の調査官が派遣される。)
(4)Full Investigation(Fl, In-depth investigation)
(a)full investigationの実施決定
 PE調査官からの報告に基づきChief Inspectorは28日以内にfull investigationを実施するかどうかを決定する。
(b)調査対象
(1)important lessonが得られる海難事故
(i)very serious casualtyであっても単純な原因によるものは調査しないこともある。(当直者の飲酒による船舶座礁など)
(5)調査官の権限
(a)強制調査権
(1)事故現場、船舶への立入り(Act259(2)(a))
(i)Chief Inspectorは船舶の港内停泊を求めることが出来るが(Reg. 9(7))、MAIBは海事産業とともに機能することを前提にしており、不必要なdetentionは行わない。(Act 259(7)).
(2)物的証拠、書類の押収(Act259(2)(f)(j))
(3)個人への尋問(Act 259(2)(i)
(i)尋問を受けるものには黙秘権は無く、事実を正直に話さなければならない。
(ii)実際には、MAIBは権限を強く適用することはせず、任意で質問に応じてもらうようにしている。
(4)海難調査への協力拒否には罰則がある。(Act 260)
(6)Human Factor
 human factor調査の専門家(QinetiQ社との長期契約)が、調査や報告書作成過程に参加。
(7)並行調査
(a)他の事故調査機関との関係
(1)物的証拠は共有可能(Reg. 12(7))
(2)目撃者、関係者証言は共有されない。(Reg. 12(2)(a))
(3)物的証拠及び証言に基づくMAIB独自の分析も共有されない。
(4)調査手順、調査官も共有されない。
(8)目撃者、直接関係者の保護
(a)証言、最終報告書の刑事、懲戒調査への利用
(1)証言や、報告書はHigh Courtの命令が無い限り、刑事訴訟、懲戒調査には使用できない。(Reg. 12(2)(a)、13(9))
(2)仮にHigh Courtがそのような命令をした場合、MAIBはその信用を著しく失い、今後の調査及び他国との協力への支障をきたすことから、Chief InspectorはCourt of Appealへ上訴することも考えられる。
(9)最終報告書
(a)最終報告書はfull investigationが行われた全ての海難について作成される
(b)作成手順
(1)Lead inspectorがdraft 作成
(2)28日間のConsultation period(Reg. 13(3))
(i)Chief Inspectorは、報告書により影響を得けると思われる全ての機関にドラフトを送付し、それらからのコメントを求め、事実に反する記述が無いことを確認する。
(3)recommendation meeting
(i)海事関係専門家を呼び、最終報告書の安全勧告内容についての意見を聞く。
(4)Chief Inspectorが最終的に報告書を承認する。
(10)安全勧告
(a)安全勧告は個人には出されない。
(b)安全勧告実施状況の確認
(1)安全勧告を実施する方法の詳細、または実施しない理由についてChief Inspectorに報告する義務がある。(Reg. 15(4))
(c)安全勧告は最終報告書に含まれるのが通常であるが、PE終了後に勧告が出されることもある
 
4 最近の調査実績
Yea Reports received AE PE FI
2002 1485 451 (NA) 40(New system of PE started)
2003 1522 733 22 15
2004 1492 697 34 31
2005 2500〜2600 21(+19ongoing) 19(+16ongoing)
(事故通報件数は2005年のRegulationの改正以降増加している。)
 
(a)事故認知から最終報告書発行までの期間:6〜7ヶ月
(b)安全勧告件数(2004年):177(147 fully accepted)
 
5 国際協力
(1)国際協力については法律には明記されていない。
(2)地域協定
(a)国際協力に関する二国間、多国間協定は無い。
(b)EUは2006〜2007に安全調査と懲戒調査の分離を明記した海難調査の共通手法に関するDirectiveを採択する予定。
(3)国際協力の実施状況
(a)協力国(過去18ヶ月)
(1)Hong Kong, Isle of Man, Germany, Turkey, Denmark, Antigua Barbuda
(b)最終報告書へのコメントを取り入れた国
(1)Hong Kong & Isle of Man
(c)協力事例
(1)UKコンテナ船とHong Kongコンテナ船の南シナ海での衝突
(i)Hong Kong authorityがPhilippinesの船舶管理会社に連絡をとり、必要な情報をMAIBに供給。
(ii)MAIBがdraft reportを作成し、Hong Kong authorityにコメントを求めた。
(iii)Hong Kongはコメントを提出。
(iv)UKはlead investigating Stateとしてfinal reportを作成。
(2)Isle of ManタンカーのUK港内での爆発
(i)事故に関する両国の強い関心により、joint investigationを実施。
(ii)lead investigating StateであるUKの調査手法に従い調査を実施し、Isle of Manもこれに参加した。
(iii)MAlBがIsle of Man authorityと調整の上、draft report作成。
(iv)両国がひとつのjoint reportを作成。
(d)問題点
(i)他国の国内法による問題
・e.g. (Germany)
◆目撃者の黙秘権
◆弁護士が目撃者尋問に介入


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