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(3)ドイツ
 最後にドイツの懲戒調査について説明します。
 
ア 懲戒調査
(1)調査機関
 ドイツにおける懲戒処分を対象とした調査は、Waterway and Shipping Directorate Nordwest(北西部船舶水路部)という運輸担当省の一部局が担当します。地方ごとにドイツ全土に7つある船舶水路部のうち、北海を担当している北西部部局が懲戒調査を担当するということでした。
 調査の結果、実際に懲戒審問を担当するのは、Maritime Boards of Inquiryという機関です。以前はMaritime Courtと呼ばれていたそうですが、2002年の法律の改正に伴い、英語で訳すとMaritime Boards of Inquiryという組織に変わったという話でした。
 Maritime Boards of Inquiryは、場所としてはドイツ全土に5ヵ所あります。今回の調査で訪問したハンブルグに加え、ブレーメルハーフェン、エムデン、キール、ロストックにありますが、そのうち実際に職員が常駐するのはキール1ヵ所のみです。海難が発生した場合、その地域に応じて職員が5ヵ所のうちいずれかの場所に行き、審判を行うという形を取っているということです。
 キールに常駐するMaritime Boardsの職員は全員で3名、そのうち1名がChairpersonで、裁判官の資格を持った人です。もう1名がAssessorで、船長の資格を持ち、Chairpersonの補佐を行います。もう1人は事務手続きを行うSecretaryです。この3名に加え、懲戒調査を担当するWaterway and Shipping Directorate Nordwestの職員1名が加わり、4名で懲戒処分に関する調査並びに審問を行うということでした。これが2002年にBSUという安全調査を行う組織が設立して以降の体制です。
 以前はこのMaritime Boards of InquiryはMaritime Courtという名前で15名のスタッフを擁し、安全調査及び懲戒調査の2つの機能を持っていたということですが、2002年のBSUの設立以降、Maritime Boards of Inquiryは懲戒調査のみを担当する組織に変わりました。
 実際に審問を行うにあたっては、この3名のMaritime Boards常勤職員及び1名の調査官以外に280名のHonorary Assessorが登録されています。Honorary Assessorは、全員が海技免状の保有者またはPleasure craftの免許保有者であり、各地域の専門知識を持っていることから、その海難が発生した場所や状況に応じて、その中から2名が審問のチームに入れられるということでした。
 それぞれの審問においては、Maritime BoardsのChairperson、Assessor、及び2名のHonorary Assessorの計4名によりボードが構成されます。
 
(2)調査手順
 続いて懲戒調査の手順です。
 懲戒調査が必要とされる事故の通報は、通常はWaterway Police(水上警察のような組織)からMaritime Boardsに連絡があります。その後Shipping Directorateの調査官によって予備調査が行われ、その結果、さらに本格的な調査が必要であると調査官が判断した場合、Maritime Boardsによる本格的な調査が始まります。具体的には、ドイツ国籍の船またはドイツ領海内の全ての船舶において、海難が海技免状保有者の行為によって引き起こされたということが予備調査によって判明すると、本格的な調査が始まります。
 Maritime BoardsのChairpersonは、調査について大きな権限を持っており、物的証拠または書類を押収する権限や、Water Policeに指示を出して、必要な証拠の収集、提出を求めることもできます。
 証拠等の収集が行われたあと、公開審問が実施されます。審問には、口頭によるoral proceeding又は書面によるwritten proceedingがありますが、通常は口頭審問が行われるということでした。この場合は、関係者、目撃者、及び専門的な意見を述べる専門家に対してそれぞれヒヤリングが行われますが、関係者は弁護士を伴うことが多いということでした。
 また、先ほど安全調査のところでもありましたが、証拠としてBSUの報告書は使用されませんが、専門家の意見ということで参照されることがあるということです。それから、口頭審間が行われた場合、その最終的な処分は基本的には多数決で決定されます。なお、多数決で同数の場合及び書面による審問の場合は、Chairpersonが最終的な処分を決定します。
 
(3)懲戒処分
 処分の内容は、イギリス、フランスと若干の違いがあります。
 処分の種類として操縦停止という処分があり、海技免状保有者がドイツ領海内に限ってその免許を行使することができない、航行することができないというものです。この場合は、海技免状を停止するとか取り上げるという処分とは異なり、免状自体は有効なのですが、それをドイツ領海内では使えないということです。これには無期限の操縦禁止と、最大30ヶ月の期限付き処分があります。ただし、無期限操縦禁止の処分は未だかつて出されたことがないということです。この処分においては、海技者はいったんドイツ領海内を出れば、特に制限なく海技免状を行使することができるということです。また、この処分に追加措置が加えられることがあります。例えば、技能を向上するための訓練、身体的な適格を証明するため、あるいはアルコール中毒ではないということを証明するための医学的検査等を実施する措置が取られることがあるということです。また操縦停止処分とは別に、ドイツが発行した海技免状を所有している人に対しては、その停止または取消処分もあるということでした。
 昨年度の懲戒処分の実績ですが、懲戒調査を担当するShipping Directorateによって244件の事故が認知され、予備調査の結果、そのうち30件がMaritime Boardsによる本格的調査の対象になりました。そのうち14件について裁決が下され、操縦停止の懲戒処分を受けたのは半分の7件だということです。
 Maritime Boardsでの裁決に不服がある場合、以前は上級のFederal Inquiry Boardに上訴することが出来たのですが、これがBSUの設立に伴い廃止されたため、現在は、Administrative Court(行政裁判所)に上訴することになっています。
 
第5 海難調査及び海員懲戒に係る事項別調査
 今回の調査にあたっては、各調査対象国に対して共通の様式による調査項目表を用意しました。次ぺージ以降は、各国、各項目毎の調査結果の要約ですが、各調査機関における面談時間の制約等により、必要な回答が得られなかった項目もあり、それらについては省略あるいは質問事項のみ記載されている箇所があります。


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