(2)ケーブルの布設
無線システム用のケーブルの布設経路を計画する際には、一般的なケーブルの布設上の注意に加えて、特に慎重な検討が必要である。
無線システムの各ユニット間を接続するケーブルは、送信空中線回路などの妨害電路あるいは受信空中線回路、マイクなどの信号回路、制御信号回路等の敏感回路、さらには電源回路その他の回路などの一般回路の中に含まれており、システム自身及びその他の設備に妨害を与えないよう十分な注意が必要である。また、GMDSS機器は操舵室に開放状態のままで設置されることもあるので、操舵室に装備される重要な設備に障害を与えないよう設置する必要がある。すなわち、無線システムに無関係なケーブルは、可能な限り無線関係のケーブルと離して布設する必要がある。
さらに、無線システムの空中線は、レーダーマストの上やコンパスデッキ上などに設置されるので、ケーブルは暴露部に布設され、かつ、甲板や隔壁を貫通するので、水密を要する布設工事を伴うことになる。
無線システム用ケーブルは、本船に装備される機器の構成により異なるが、3・2・2(4)項に示した構成での接続ケーブルの例を図3・17に示す。
無線システムについては、船内の主配電盤、非常用配電盤又は区電盤から単独の電路により給電されなければならない。また、この電路には無線装置に関係のない負荷を接続してはならない。
(a)概要
通常、電気機器内で発生した妨害雑音(ノイズ)は、その機器自体と接続ケーブルによって放射や結合をしたり、電源ラインの電路を伝導して他の機器に悪影響を与える。
無線機器やレーダーその他の電子機器などで電波を送信する機器は、低周波数帯から数百メガ・ヘルツ以上の高周波数帯に及ぶ妨害ノイズを発生する場合がある。また、逆に妨害ノイズによって悪影響を受けやすい機器もある。
このため、妨害ノイズの影響を極力減少させるために機器とケーブルの配置を適切にし、かつ、完全な接地工事を行わなければならない。
(b)関連法規
SOLAS条約第4章第6規則の2・1に、「無線設備は機械的、電気的又はその他の原因による有害な妨害を受けないような位置に設置され、かつ、他の機器や装置との間に電磁的両立性があり、有害な相互作用がないことが確保されるように配置されていること。」と規定している。
従って、他の設備に障害を与えることなく、かつ、他の設備によって運用が妨げられることがないように配置されなければならない。
(c)ノイズの種類
ケーブル相互間で影響するノイズは、ノーマルモードノイズとコモンモードノイズに分けられる。
(i)ノーマルモードノイズ(図3・18参照)
このノイズは、回路線に逆相で結合するノイズである。ディファレンシャルモードノイズともいう。
図3・18 ノーマルモードノイズ
(ii)コモンモードノイズ(図3・19参照)
このノイズは、回路線に同相で結合するノイズである。ただし、結合する電圧が違う場合、その差分がノーマルモード成分になる。
図3・19 コモンモードノイズ
ノイズの結合の仕方には、次の(1)〜(3)がある。
(1)電磁結合ノイズ
周囲の電気回路によって機器の入出力信号ケーブルに生じる磁束の変化により、その信号ケーブルに誘起されるもの。
(2)静電結合ノイズ
機器の入出力信号ケ−ブルと周囲の電気回路との静電容量結合によって、その信号ケーブルに発生するもの。
(3)放射結合ノイズ
機器の入出力信号ケーブルが一種の空中線となり、外来電波によって、その信号ケーブルに発生するもの。
(d)ノイズの除去
ケーブル及び電路の布設の項で、既に電路設計上の一般的注意事項としてその内容を取り上げているが、ここでは再度ノイズに関連した電路設計上の注意点をとりまとめてある。
各機器間及び機器内のケーブルの布設においては、ケーブル相互間のノイズの減少と除去のため、電路の分離、よじり(ツイスティング)、遮へい及び接地などの技術を利用し、事前に十分以下の点に注意して計画を立てる必要がある。
(i)電路の分類
電路は、電路の相互間隔、接地、遮へい等の処理の便宜上次の三種類に分類することが望ましい。
(イ)妨害電路
(1)高周波無線機器の送信電力の伝送電路
(2)超音波機器の送受信用電路
(3)大電力伝送電路で、特に開閉回路を伴うもの
(4)電磁バルブ等の誘導負荷制御用の電路
(5)高レベルのデジタル信号電路
(6)その他、機器に妨害を与える電路
(ロ)敏感電路
(1)受信空中線電路
(2)マイクロフォン用電路
(3)各種の検出端からの入力信号伝送電路
(4)本質安全機器に接続される電路
(5)その他、妨害を受けやすい微小信号電路
(ハ)一般電路
上記を除くすべての電路
(ii)電路の分離
電路の分離は次によることが望ましい。
(1)敏感電路と妨害電路を平行に布設する場合は、それら相互の間隔は、可能な限り500mm以上とし、少なくとも250mm以上離すこと。
(2)敏感電路と妨害電路を250mm未満の間隔で平行に布設しなければならない場合には、その近接布設長は5m以下とすること。
(3)敏感電路は、一般電路から50mm以上離すか又はシールド付きの電線を使用する。
(4)敏感電路と妨害電路を交差させる場合は、直交させるか又は200mm以上の間隔をとって交差させること。
(5)敏感電路と妨害電路とを同一の多心ケーブルに収めてはならない。
(iii)電路の遮へい
(1)電路の分離をしても効果のない場合や何等かの理由で分離することができない場合は、適当な遮へいを施して妨害を低減させること。
(2)電路の遮へいは、接地された金属隔壁若しくは金属コンジットによるか又は適当な遮へい付きケーブルによること。
(iv)電線のよじり(ツイスト)
(1)特に低レベル信号を伝送する敏感電路は、より線(ツイストケーブル)を用い、全長にわたって遮へいされることが望ましい。
(2)より線は、次の方法によることが望ましい。
・対称性に注意して均一によじる。
・よりのピッチは約50mm以下とする。
(v)ケーブルの接地
ケーブルの遮へいの接地は、原則として次の方法による。
(1)敏感電路で特に低レベル信号を伝送する電路の遮へいは、一端のみを接地し、この遮へいを信号の経路として使ってはならない。また、この遮へいが途中で船体と接地しないように絶縁被覆を施した遮へい付きケーブルを用いることが望ましい。
(2)敏感電路での遮へいの接地点は、検出端が接地されている場合は検出端で接地し、検出端が接地されていない場合は機器側で接地すること。
(3)敏感電路では、電路の長さが妨害信号の1/8波長以上となる場合は、一端接地ではなく両端で機器の外箱に接地したほうがよい。
この場合は、遮へいを機器の中に引込まないようにすること。
(4)遮へいは一つの心線と同様に考え、電線の布設全長にわたって連続させること。ケーブルが接続箱等により中継される場合は、遮へいのための端子を設け、遮へいの相互接続を行うこと。
(5)妨害電路の遮へいやがい装の接地は、電路の両端で行うこと。
なお、そのがい装は、なるべく多くの箇所で自然接地することが望ましい。
(6)機器の据付けボルト又は箱体で自然接地するような場合は、すべての接触面に電気的な導通がなければならない。塗装の除去、さびや汚れの除去にも注意を払い、必要によっては導電性防食塗料を塗布するなどして、長期間にわたって接地効果を保つように配慮しなければならない。
(vi)その他の注意事項
単心ケーブルを使用しなければならない場合は、その往復線はできるかぎり接近して布設し、ケーブルによってループが形成されないように注意しなければならない。
注 ノイズに関する用語はJMS 9802: 1973(船舶電気装備技術基準(無線関係))によるものである。
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