日本財団 図書館


2・4 狭帯域直接印刷電信装置
2・4・1 狭帯域直接印刷電信システム
 「狭帯域直接印刷電信(装置)」の名称はNarrow Band Direct Printの頭文字をとってNBDPと呼ばれている。NBDPの特性は無線通信規則の付録で定められているが、その中でNBDPの無線経路における変調速度についてFSK(Frequency Shift Keying)方式で100ボーと規定されている。この結果として送信波の占有周波数帯幅が500Hz以下となることから、これ以外の帯域の広いものと区別して狭帯域と呼ばれている。
 NBDPの技術的条件等については、製造メーカー、国籍を問わずNBDP通信を可能にするため国際的に無線通信規則の付録、国際電気通信連合(ITU)の無線通信部門のITU-Rの勧告及びIMOの総会決議により細かく定められている。NBDPは、通報の文字等が7単位符号としてSSB送信機を経て、結果的に周波数偏移±85HzのF1B電波として発射されることになる。FSKの場合、1,700Hzをサブキャリアとして-85Hz、+85Hzの信号をSSB送信機に入力することになるが、このとき低い方の周波数をマーク周波数(Y)、高い方の周波数をスペース周波数(B)として決めている。つまり、マーク、スペースはデジタル信号1、0に相当するものになる。
 デジタル信号を伝送する場合、最終的な受信点までの間に種々の原因により、1が0又は0が1として誤って伝わることがある。しかし、受信側ではその信号が正しく伝わってきたものかどうかは判断できないためあらかじめ伝送する信号の中に、受信側で誤りを検出できるような符号化を行い、受信側でその信号が一定の要件を満たしていなければ、信号のいずれかのビットに誤りがあることが分るようにしている。すなわちNBDPでは、どの符号の信号もY(マーク)の数が3、B(スペース)の数が4と決められている。このため、伝送過程で誤りを生じれば、この配分が崩れるので、受信側でBとYとの数をモニターしていれば、エラーを検出することができることになる。
 無線テレックスシスチム(NBDP)はARQ(自動再送要求:1対1)方式、あるいはFEC(一方向誤り訂正:1対N)方式で自動誤り訂正を行う。この誤り訂正の詳細についてはITU-R勧告476-4及び新勧告625(1986年発行)に記載されている。次にARQモードの通信とFECモードの通信の概略を説明する。
(1)ARQモード
 ARQ方式は、基本的には受信側で相手に情報の送信を要求し、それを受ける方式であり、うまく受けられなかった場合には正しく受けられるまで、つまりエラーが検出されないで受信できるまで繰り返し同じ情報の送信を要求する。情報を送る側をISS(Information Sending Station)と呼び、情報を受ける側をIRS(Information Receiving Station)と呼ぶ。ISSは、情報等の通報を3文字を1単位としたブロックに配列し、そのブロックを210ミリ秒(伝送速度が100ボーなので、1文字分(7ビット)が70ミリ秒となる)の時間で送信、その後に続く240ミリ秒の時間は受信状態となる。ISSはこのように210ミリ秒と240ミリ秒とを合わせた450ミリ秒を単位に動作する。
 一方、IRSは、一つのブロックを受信した後、一つの制御信号を70ミリ秒の時間で送信、その後に380ミリ秒は受信状態となる。IRSも、この時間を合計すると450ミリ秒になる。本方式は、ISSとIRSのこれらの時間のタイミング(図2・15のとおり、ISSは、IRSが受信状態の時間に送信し、IRSは、ISSの受信状態の時間に送信する)により通報のやりとりが行われている。このためARQ方式による通報の伝送速度は、450ミリ秒で3文字となるので、1分間にすると約400文字となる。
 接続を開始した局をマスター局と呼び、もう1つの局をスレーブ局と呼ぶ。まず初めにマスター局がスレーブ局のSELCAL番号(Selective calling number:選択呼出番号)を送信し回線を確立する。このSELCAL番号をスレーブ局が受けた時、スレーブ局はCS(control signal:制御信号)を送り応答する。この手順でマスター局は最初ISS(情報送信局)となり、スレーブ局はIRS(情報受信局)となる。
 ISSから情報の送信が終了し、IRSの局から情報の送信(例えば返信)を行いたい場合は、ISSから制御信号を送ることによりISSとIRSが反転する。
 反転動作を行った場合は、その後スレーブ側がISSの役割りを果たし、かつ、マスター側に情報を送ることが出来る。
 ISS側は情報を複数のブロックに分ける。各ブロックは3文字から構成される。そして、ISSは各ブロックを1つずつIRS側に送信する。IRSがそのブロックを正常に受信するごとに前とは異なるCSを発信し次のブロックを要求する。IRSが1つのブロックを受信し、かつ、その中に誤った文字を検出するとIRSは前と同じCSを送信しつづけ、そのブロックがエラー無く受信されるまで同じブロックを要求する。
 CSを含めて文字は全て7レベルのコード即ちSITORコードで、そのコードのビットの組合わせはスペースビット4に対しマークビット3の割合となっている。SITORコードはこのスペース対マークの割合が一定であるために、エラー検出パリティビットはない。したがって、このコードはエラーを検出するのに極めて効率が良くなる。1つの文字内のスペースビットとマークビットの数が万一等しく反転すると、その文字は検出不能エラーとなるがこの様なケースは滅多に発生せず、実用的には問題無い。メッセージの交換が完了するとその回線はISSが終了信号を送ることにより切断され、その後両局とも待受状態に戻る。
 
図2・23 ARQ方式の送受信のタイミング
 
(2)FECモード通信
 FECは次の3つのモードが使用される。
・CFEC(一斉放送)モード
受信局が1局以上の場合
信号の流れ:同期信号⇒メッセージ
メッセージ送信:各文字が一定の間隔で2度送信される。
受信局が出力するエラー・コード:星印(※)コードが印字される。
・SFEC(選択放送)モード
受信局が1局のみ
信号の流れ:同期信号⇒SELCAL番号⇒メッセージ
タイムダイバーシティによるメッセージ送信:各文字が一定間隔で2度送信される。
受信局が受信するエラー・コード:星印(※)コードが印字される。
・GFEC(グループ放送)モード
1つのグループの受信局
信号の流れ:同期信号⇒グループ番号⇒メッセージ
タイムダイバーシティによるメッセージ送信:各文字が一定間隔で2度送信される。
受信局が受信するエラー・コード:星印(※)コードが印字される。
 送信の方法としては図2・24「FEC方式における送信タイミング」に示すように、280ミリ秒のタイムダイバーシティを持たせ、信号を2回交互に送信し、受信局では受信された符号の内、誤りなく検出された文字を印字し、2回共誤って受信された場合は誤りのマーク(アスタリスク)を印字する。
 
図2・24 FEC方式における送信タイミング
 
 GMDSSで短波の狭帯域直接印刷電信(NBDP)システムが要求されるのは、ナブテックスシステムの放送のない海域で、短波のNBDPシステムでナブテックスと同じ形式の海上安全情報の放送の行われている海域を航行する船舶及びA4水域を航行する船舶に装備が要求される場合である。このシステムはまた、任意の装備で、一般的な海上安全業務その他の一般通信にも使用できるが、その場合はナブテックスと同じ形式の海上安全情報の受信が妨げられてはならない。この短波のNBDPによるナブテックスと同じ形式の海上安全情報の受信に対する性能標準としては、IMOの総会決議A.525(13)「船舶への航行警報、気象警報と緊急情報を受信するための狭帯域直接印刷電信装置の性能標準」がある。
 この短波の狭帯域直接印刷電信(NBDP)装置については、船舶設備規程などには特段の規定はない。電波法の関係法令には一般的な規定が無線設備規則の第40条の6にある他、その細部を定めた告示があるが、特に、ナブテックス形式の海上安全情報の受信印字をする装置の規定はまだ制定されていない。
 
2・4・2 狭帯域直接印刷電信装置
 GMDSSで短波の狭帯域直接印刷電信(NBDP)システムの装備が要求されるのは、ナブテックスシステムの放送のない海域で、短波のNBDPシステムでナブテックスと同じ形式の海上安全情報の放送の行われている海域を航行する船舶及びA4水域を航行する船舶の場合である。このシステムはまた、任意の装備で、一般的な海上安全業務その他の一般通信にも使用できるが、その場合はナブテックスと同じ形式の海上安全情報の受信が妨げられてはならない。NBDPの海上安全情報の受信に対する性能標準としては、次のIMOの総会決議A.525(13)「船舶への航行警報、気象警報と緊急精報を受信するための狭帯域直接印刷電信装置の性能標準」がある。その概要は次のとおりである。
(1)装置は、船載装置に適用されるITU-R勧告540(注:この勧告はナブテックス受信機に関するもの)の規定に加えて、次の項に与えられる規定に適合すること。
(2)装置は、無線受信機、信号処理器と印字装置から構成されること。
(3)操作者が受信から除くカバレージ地域とメッセージの種類の詳細が、容易に利用できること。
(4)受信機は、無線通信規則でこのシステムを割当てられている周波数で動作できること。
(5)装置は、無線受信機、信号処理器と印字装置が正しく機能していることを試験する機構を備えること。
(6)装置は、少なくとも30のメッセージの識別を内部に記憶できること。60時間と72時間の間の後で、メッセージの識別は自動的に記憶から消去されること。受信メッセージの識別の数が、記憶容量を超えたならば、最も古いメッセージの識別が消去されること。
(7)満足に受信されたメッセージの識別のみを記憶すること(文字の誤り率が4%以下のときは満足に受信されたとする。)
(8)捜索と救助の情報の受信は、その船舶を正規に航行させる位置に警報を与えること。この警報を手動でのみリセットできること。
(9)プログラムできるメモリの中の位置(B1)とメッセージ(B2)(B1とB2はナブテックスの場合と同じ)の指定の情報は、6時間以下の電源の中断で消去されないこと。
(10)受信機の感度は、50Ωの無誘導インピーダンスに直列の2マイクロボルトの起電力の入力に対して、文字誤り率は4%以下であること。
(11)印字装置は、1行に少なくとも32文字を印字できること。
(12)自動改行が単語を分割したときには、これは印字したテキストに指示をすること。印字装置は、印字したメッセージが完了したときには自動的に紙送りをすること。
(13)文字が誤って受信されたときは、アスタリスク(*)を印字すること。
 このNBDP装置についてはITU-R勧告(勧告625「海上移動業務の自動識別を使用する直接印刷電信装置」)もあり、それに適合できる装置ということになっている(この他に古いITU-R勧告476があり、既設のその装置も当面は使用できる)
 その他、次の規定がある。
(1)装置はRRで定められた海上移動業務の識別を使用できるもので、NBDPによる遭難運用のための1周波数チャンネルでFECモード(Forward Error Correcting Mode 一方向誤り訂正モード)又はARQモード(Automatic Request Mode自動再送要求モード)での運用のできるもの。
(2)自船の識別コードは装置内に保存されており、使用者が容易に変更できないこと。
(3)NBDP装置はメッセージの符号化と複号、送信メッセージの作成と検証、受信メッセージの記録を与えるための手段から構成されること。
 このNBDPは、7単位の一定比率の誤り検出コードを使用する1チャンネルの同期システムで、無線回線の変調速度は100ボーで、この変調速度を制御する装置のクロックは、30×105より良好なものとし、無線回線の周波数シフトは170Hz、受信機の-6dB帯域幅は、270〜340Hzである。ARQモードでは、送信側と受信側が互いに同期をとり、送信側での変換は5単位の国際電信コードを7単位の誤り検出の付いたコード〔B(0)が四つ、Y(1)が三つのコード〕の、短い情報ブロックに区切って送信し、受信側で誤りが検出されればそのブロックの再送信を要求する方式である。これに対してFECモードでは、DSCのときと同様に4文字置いて同じ文字を2回送信する方式であり、送信速度が100ボーで、1文字は7単位に変換してあるから、その送信には70ms、したがって、280ms置いて同じ文字の再送信が行われる方式である。
 狭帯域直接印刷電信(NBDP)装置については、電波法の関係法令に一般的な規定が無線設備規則の第40条の6にあるほか、その細部を定めた規定が告示されている。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION